『不能犯』の1巻から5巻のネタバレ感想をレビュー。作者は宮月新(原作)と神崎裕也(作画)。出版社は集英社。ジャンルは青年コミックのサスペンス漫画。AmazonのKindleや楽天koboなどでも試し読み・立ち読みできます。

この『不能犯』は2013年から連載が始まった漫画なんですが、2018年に実写映画版が公開予定。そこで今回は『不能犯』の既刊済みコミックのネタバレ感想をレビューしたいと思います。映画版『不能犯』でも設定やあらすじは大きく変化は見られないはずですので、テキトーに映画を見る価値があるかなど参考にしてください。


不能犯のあらすじ・登場人物キャラクター


主人公は宇相吹正(うそぶきただし)という殺し屋。電話ボックスに貼られた依頼メモを受け取って、そのメモに書かれた復讐したい相手を次々と殺していく。神出鬼没かつ狙った獲物は逃さない完璧に任務をこなす謎の男。

不能犯1巻 あらすじ1
(不能犯1巻)
例えば宇相吹正が夜目という女性刑事の腕を舐めると…

不能犯1巻 あらすじ2
(不能犯1巻)
その舐められた腕が途端に腫れ上がる。まさか宇相吹正は毒の使い手かと思いきや、もちろんNO。実は宇相吹正の武器は「思い込み」。女性刑事は「宇相吹正に毒をもられた」という思い込みで腕が勝手に腫れ上がっただけ。それほどまでに「人間の思い込み」という力は強い。

不能犯1巻 あらすじ3
(不能犯1巻)
河津村という刑事も「人間は一度思い込んだら、その呪縛から逃れることはできない。真実なんてものは二の次だ」と一言。実は夜目という女性刑事は、河津村の息子を冤罪の罪で死に追いやった過去を持つ。そのため河津村が宇相吹正に依頼を出していた。

不能犯1巻 あらすじ4
(不能犯1巻)
どんどん宇相吹正に追い詰められていく夜目は腫れ上がった腕に人相みたいな幻覚を見るようになって、ついに…。「落ち着くのよ、こんなのただの思いこみ。だからさっさと削り取ってしまえばいい」という発想が、既に思い込みだった。まさに思い込みから逃れようとするたびに自縄自縛に陥る。

果たして宇相吹正の目的は何なのか?そして宇相吹正の蛮行を止めることはできるのか?という内容の漫画。


「思い込み」というアイテムが意外と汎用性が高い


まず宇相吹正が使う「思い込み」に関して触れておくと、これが意外とどんな場面でも使える。

不能犯3巻 宇相吹正の思い込み1
(不能犯3巻)
例えば宇相吹正にイケナイお薬を盛られたと思い込まされたカップルが、夜でもあたりかまわず腰振りアッハンウッフン。でも二人の背景をよく見ると嫌な予感。

不能犯3巻 宇相吹正の思い込み2
(不能犯3巻)
何故ならそこは線路の上だった。当然二人はそのまま…。だから「思い込み」という武器は扱いに難しいかと思いきや、実は幅広い殺し方が可能。そこにワンパターン性がないので面白いと思います。


基本的にオチが毎回ムナクソ展開www


『不能犯』のストーリー構成はオムニバス形式。基本的に毎回一話単位で完結します。それ故に色んなパターンの復讐が描写されるわけですが、このオチが見事に毎回ムナクソ。普通であればせめて復讐を依頼した側が救われるものの、最終的には依頼した側も最終的に宇相吹正の手によって…というケースも多々。

不能犯2巻 体育教師と女生徒1
(不能犯2巻)
例えば自分好きな幼馴染のお姉さん・理沙が、ある日、体育教師の乱暴されてる場面に出くわす男の子・勇人の話。昔から気弱だった勇人は何も出来ずにただ見てるだけ。

不能犯2巻 体育教師と女生徒2
(不能犯2巻)
そこで勇人は理沙を強引に連れ出して、体育教師をターゲットにしてほしいと宇相吹正に依頼。ただ理沙は被害者であるはずなのに、「何言ってるの?」と何故かうろたえている様子。勇人が体育教師のセクハラを告発しようとしたときにも、理沙はソワソワ。

それもそのはず。実は嫌がってるように見えて、理沙は体育教師と付き合ってた。嫌よ嫌よも好きのうち。しかも勇人は二人が付き合ってたことも知ってた。冷静に考えると、二人は付き合ってたわけだから最終的にはイチャコラしてたことは言うまでもありません。

不能犯2巻 体育教師と女生徒3
(不能犯2巻)
だから勇人が復讐のターゲットにしてたのは体育教師だけではなく、自分に一向に振り向かない理沙に対しても向けられていた。そこで宇相吹正に理性のリミッターを外してもらったことで、爆発的な力を発揮。「好きだよ理沙姉、どこにも行かせない…離さない…」。しかもオチはまだもう一捻りあるのでネタバレは止めておきます。

他にも軽くネタバレしておくと、スーパーで働くしがないシングルマザー店員・江口の話。ある日、公園で高校生同士のイジメに遭遇。その中に自分の息子がいた。でも女性ということもあって何も出来ないまま、思い悩む日々。仕事でもミスが多発。

不能犯4巻 イジメ1
(不能犯4巻)
それを見かねた優しいスーパーの店長がたまたま江口の手帳を見ると、高校生同士のイジメを盗撮した写真を発見。思わず「江口さんの息子が…」とガタガタと震え出す店長。そこでお節介にもスーパーの店長が宇相吹正に依頼を出す。

不能犯4巻 イジメ2
(不能犯4巻)
じゃあ万事解決と言えば、もちろんNO。実は江口といじめられっ子は赤の他人。いじめられっ子も江口に抱きつかれた瞬間、思わず「おばさん…誰?」とポツリ。一体どういうことなのかというと、実は江口の息子はイジメてた側。とんでもない不良側だった。

そこで江口が息子を前科者にしないように、裏でこっそりといじめられっ子の命を奪おうと画策してたという話。でも作者・宮月新が仕掛けたトリックは、まだここで終わらない。

不能犯4巻 イジメ3
(不能犯4巻)
何故ならこのいじめられっ子の父親こそがスーパーの店長だった。どんだけ人間関係グチャグチャやねんって話ですが、先程の店長のセリフは「江口さんの息子がイジメられていた」ではなく、「江口さんの息子が自分の息子をイジメてた」だった。

ようやくここで万事解決…するわけじゃないんですね、やっぱり。

不能犯4巻 イジメ4
(不能犯4巻)
この話のオチは江口に返り討ちにあった店長も亡くなってしまう。江口家族はもろとも死ぬものの、生き残ったのはイジメられていた息子一人のみ。いや、そこは素直に二人とも助かるパターンでええやん。まさに全滅www最後の宇相吹正の「愚かだにゃん人間は」という捨てゼリフもいろいろとヒドい。


ストーリーがもはやひっかけ問題


だからムナクソすぎるオチが印象に強く残るものの、『不能犯』のストーリーの構成力が実は巧み。もっと言えばキャラクターが持つ二面性・様々な背景の違いの描き方が上手い。見る立場によって、その人物の見え方が全く異なる。

不能犯5巻 黒沢いずみはクズ男好き1
(不能犯5巻)
黒沢いずみというボランティア活動に勤しむ女性の話(麻子という女性刑事の友人)。学生時代から黒沢いずみは真面目な性格だったものの、今の彼氏は日中から酒浸りのドクズ。しかも暴力グセもある。

真面目な女性ほど変な男に引っかかりやすい定説がありますが、当然、刑事である麻子は別れさせようと目論むものの、何故か黒沢いずみは断固拒否。DV被害者の女性は暴力を振るわれても、その直後に優しくされるので泥沼から逃げられないという話はよく聞きます。

ただ、もちろんそんなありきたりな話ではございません。

不能犯5巻 黒沢いずみはクズ男好き2
(不能犯5巻)
実は黒沢いずみは別の男性と結婚してた既婚者。でも家庭では完全に一人だけハブられていて、自分が作った食事は台所に全部捨てられている始末。さすがに悲惨すぎて苦笑いしかできませんが、その不満や寂しさのはけ口としてドクズ男に向けられていた。

ドクズならドクズで何もできないが故に、黒沢いずみに何でも頼り切ってしまう。ただ黒沢いずみからしたら「頼られること」が気持ち良い。結果的に不倫してたことになるので黒沢いずみもクズではあるものの、ある意味「黒沢いずみも被害者」と思わず同情してしまいます。

不能犯5巻 黒沢いずみはクズ男好き3
(不能犯5巻)
ただ途中でクズ男が勝手に改心してしまって就職活動をしだす。普通であれば喜ぶべき話なんですが、黒沢いずみからしたら「自分に頼ってくれる存在が消失」してしまうようなもん。だからクズ男の話を聞いた時には思わず「仕事なんてダメよ!貴方はずっとクズ人間のままでいなきゃ!」とめちゃくちゃ言うwww

このオチでも宇相吹正はヒドいことするんですが、「一体誰が一番クズキャラクターでしょう?」という軽いひっかけ問題。


宇相吹正 vs 夜目結夏 vs 多田刑事


一応、『不能犯』5巻以降の展開をネタバレしておくと、宇相吹正を追い詰めるキャラクターがもう一人増えます。それが夜目結夏(やめ・ゆか)。

不能犯5巻1夜目結夏
(不能犯5巻)
この夜目結夏は一話目で宇相吹正に殺された夜目美冬の姉。結夏はアメリカでカウンセラーをやってたものの、妹・美冬を助けに来れなかったことに自責の念を感じてる。そこで宇相吹正に復讐を目論む。

不能犯5巻2夜目結夏
(不能犯5巻)
ただ復讐心で支配されてるせいか、独善的で利己的。さっきの可愛らしい表情はどこ行ったん!?というぐらいの醜悪な表情。一方の多田刑事も復讐心はあるものの、宇相吹正を正攻法の手段で逮捕したい。何故なら殺意というネガティブな気持ちがあると、実は宇相吹正の瞬間催眠が効いてしまうから。

今後のストーリーはちょっとした三つ巴のような展開が待っている模様。果たして結末はどうなるのか。嫌な予感しかしませんが、『不能犯』6巻の発売日は実写映画の公開と合わせてくるのかなーと思います。


マンガ 不能犯1巻から5巻のネタバレ感想レビューまとめ


以上、マンガ『不能犯』1巻から5巻までのネタバレ感想でした。

一言でまとめるなら、ここまで気持ちの良いムナクソ漫画はドラマや映画を含めてもなかなか見当たらないでしょう。ボタンの掛け違い一つで死ぬべきではない場合でも、その依頼を粛々と実行する宇相吹正。オチはとことん殺し殺され損。

依頼主ですら最後は返り討ちにあって死んでしまい、まさに誰も救われない。でも依頼主も誰かに命を狙われているようなクズ。だから読後感としては何とも言えないものだけが残り、本当に主人公・宇相吹正の「愚かだね人間は」というセリフを見事に象徴・凝縮してるような漫画。

でもキワモノ路線に走ってるだけではなく、『不能犯』は読ませ方が実はしっかり上手い。依頼主が最初はさも善人であるかのように見せる技術や話の構成力、キャラ同士のボタンの掛け違いなど一話一話のストーリーには色んな仕掛けやトリックが仕込まれてる。そんな「実はアイツが…」という意外な展開の連続で楽しませてもらえます。

『不能犯』は発行ペースが遅いのはやや難ではあるものの、こういったジャンルが好きであれば一度は読んでおきたい漫画。本当にド変態の広瀬アリスあたりが好きそうなクズ漫画。

ちなみに内容はほとんど変わりませんが、本家のネタバレマンガ考察ブログ「ドル漫」では、主に面白いかつまらないかの視点で考察した漫画『不能犯』が救いゼロすぎて逆に面白いというレビュー記事も良かったら参照。一応取り上げてあるネタや画像は全て違います。