『妖怪アパートの幽雅な日常』1巻から9巻のネタバレ感想。原作は香月日輪、作画は深山和香。月刊少年シリウスで連載中の妖怪漫画。出版社は講談社。


あらすじ・ストーリー

主人公は、稲葉夕士(いなば・ゆうし)。中学1年生になったばかりの頃に両親を交通事故で亡くし、親戚夫婦に引き取られることになった。その親戚夫婦は優しかったものの、これ以上金銭的負担はかけるのは忍びなかった。

そこで条東商業高校に入学したことをキッカケに一人暮らしを始めようとするものの、高校生に部屋を貸してくれるアパートやマンションが少ないのも現状。

妖怪アパートの幽雅な日常2巻 小説家・一色先生
(2巻)
ただ、ある怪しげな不動産屋を尋ねると一件だけ紹介してくれた。それが寿荘。でもその寿荘は、人間と物の怪たちが共同生活をしている妖怪アパートだったというストーリー。

妖怪アパートの幽雅な日常2巻 魔道書・フール
(2巻)
稲葉夕士はある日、小ヒエロゾイコンという魔導書を手に入れ、封印が解かれるとフールという案内役が復活。そして魔道書の主として妖力・霊能力を鍛えていくことになります。

妖怪アパートの幽雅な日常3巻 ケルベロス
(3巻)
何故なら稲葉夕士の妖力・霊能力が弱すぎて、例えばケルベロスを召喚してもただの病弱そうな子犬。若干コメディーテイストな描写もあります。


稲葉夕士の成長ストーリー

ただ『妖怪アパートの幽雅な日常』を一言で表現すると、主人公・稲葉夕士の成長ストーリー。

妖怪アパートの幽雅な日常6巻 稲葉夕士の成長
(6巻)
妖怪以外には霊能力者・龍、小説家の一色先生、除霊師の久賀秋音、画家の深瀬明、ナイスバデーな幽霊・まり子、ちびっ子幽霊・クリなどがいます。人間として何百年も生活する妖怪・佐藤など、彼らとの交流を通して主人公・稲葉夕士が人間として成長していきます。

もちろん高い霊能力を秘めている稲葉夕士が修行をして、徐々に霊力を高めていくんですが、あくまでそこからの展開がメインじゃない。
妖怪アパートの幽雅な日常1巻2クリの母親・亡者化
(2巻)
序盤こそ凶悪そうな悪霊(画像はクリの母親)も登場しますが、そこでバンバンと悪霊を倒していく展開が始まるわけではなく、それを稲葉夕士の「精神的・人間的な成長をどう遂げるか?」という部分に繋げていきます。もっと言うと、「何故妖怪に取り憑かれたのか?その人間に精神的な弱さがあったからだ。じゃあどうすれば克服できるのか?」みたいなことも掘り下げていく。

妖怪アパートの幽雅な日常7巻 霊能力者・龍
(7巻)
特に尊敬してることもあって霊能力者・龍による説諭が、稲葉夕士の成長を早めてくれます。

だから感覚的にはマンガを読んでるというより、評論本や啓発本を読んでいる感覚に近い。妖怪とかは意外に多く登場しません。絵的に楽しむというより、文章を読んで楽しむ感覚に近い。漫画タイトルの「優雅(幽雅)さ」の語感から得られる展開も少なめ。


◯◯論的な内容が多め

内容は「大人とは何か?社会とは何か?」みたいな話が多め。いわゆる「◯◯論」とか言われるような中身。どうすれば人間は成長できるのか?こういう問題に直面した時にどうすればいいのか?現在の社会はこうである…みたいな分析や提言がメイン。

妖怪アパートの幽雅な日常6巻 最近の若者論
(6巻)
例えば主人公・稲葉夕士は運送業者でアルバイトしてるんですが、そこでベテラン社員が新人アルバイトたちの言動を面白おかしく批判してる。画像では主に「指示されないと動けない若者」について。

他にも休憩中はスマホやケータイばっかりイジってる若者。文字情報やネットを通して会話はできるけど、リアルでは会話できない若者も多いという指摘。でも稲葉夕士はそんなタイプの若者と接していくことで気付く。
妖怪アパートの幽雅な日常6巻 最近の若者論・でも個性じゃね?
(6巻)
別に彼らは会話を拒否してるわけではなく、自分の方から他人とコミュニケーションを取れないだけ。これまではベテラン社員と同様に偏見の目で見てたけど、一歩自分が退くことで見え方が変わった。結果的に彼らバイト仲間とワイワイと会話ができるようになり、リアルで対面して語り合うことで人間は成長できることを稲葉夕士は実感する。

確かにネットやLINEやツイッターで会話した内容より、リアルで生身の言葉で会話した方が記憶にも残りやすい。リアルでは周囲の状況も刻一刻と変化していく。そこから新たな会話に発展することも多い。耳や匂いといった情報も含めて、リアルの会話は情報量が豊潤。ま、顔を隠してる漫画家が言いますか?という意地悪なツッコミも入れたくなりますが。

妖怪アパートの幽雅な日常9巻 優しさ論
(9巻)
他にも優しさ論(優しさってなんだろう?)であったり、それらが共感できるかできないかは一先ず置いておいて前述を更に補足すると、しっかりした新聞の社説や雑誌のコラムを読んでいるような気分。


やや説教くさい側面も…

おそらく自分以外でも多くの人が共感or首肯できそうな主張や論法は多いと思われますが、その反面としてやや説教くさく感じる側面もあります。

妖怪アパートの幽雅な日常7巻 若干古くさい考え方
(7巻)
先ほどの若者論の延長線上ではないですが、「モノが溢れすぎてるがゆえに今の社会はダメ」という理屈。1970年代頃からある「いかにもな考え方」で、さすがに古臭さを感じなくはない。今どきこういう主張をするのは、急進的な環境保護活動家か、カルト的な保守主義者ぐらいじゃね?

妖怪アパートの幽雅な日常9巻 稲葉夕士のドヤ顔
(9巻)
他にも、主人公・稲葉夕士のドヤ顔and分かったかのような口ぶり。一応は高校一年生という設定なので、あまりズバズバと正論を語ってもイヤミったらしいだけですし、やはりどこまで経験的に理解できているのかという説得力も含めて、ややイラッとさせられることも。

「指示されないと動けない若者」のクダリ(6巻)で、例のバイト仲間が「天地無用」の意味を知らずに荷物をひっくり返して運ぶ。天地無用の意味は「上下逆さまにしちゃダメよ」ってこと。

要するに、分からない用語があったら他の社員に訊けよと批判的に描かれてるんですが、「分からないことが分からない」から訊けないんじゃね?とこういう主張を聞く度に思う。言っちゃ悪いですが、それこそ社会経験の乏しい10代20代は馴染みがない言葉。それを前提で考えるなら、むしろ先に社員や上司が言っとくのが筋。

アルバイトの若者をろくに教育もせずに、相応の労働対価を求める考えこそ甘い。マンガ家のアシスタントに求める「それ」でも似たようなことが言えそうですが、経営者は給料さえ払ったら思い通りに動いてもらえると思い込みすぎ。その割に、企業は中途半端に経験を積んだオッサンも嫌ったりする。仕事の仕方に独自のクセが付いてるから扱いづらいというのが、その主な理由。

経営者こそお客様気分なんじゃね?と思うこともたまにあります。


総合評価


後半は少しツッコミも入れてみましたが、読み物としてはそこそこ面白かったです。ちょっと道徳の教科書を読んでる気分にもなりますが、読者層的には少し大人向けの内容で、それこそ若者が読んだとしてもピンと来る内容は少ないか。もし「分かる分かる」とか言っちゃう若者がいたら、作中で登場する山本小夏という痛すぎる文学少女のようなタイプの方でしょう(笑)

妖怪アパートの幽雅な日常8巻 山本小夏
(8巻)
『妖怪アパートの幽雅な日常』の今後は、この山本小夏がひと波乱を起こしてくれそうな展開。高校生のくせにロシア文学が大好き。昔自分もカッコつけてドストエフスキーを読んでましたが、「自分は賢い人間だからこんなコアな趣味を持ってる」という虚勢を張りたい。実際、山本小夏はお姉ちゃんが優秀で色々とコンプレックスを抱えてる。それを差し引いても、なかなかイヤミったらしいヤツなんですが(笑)

だから「世相を切る」的な部分や、あまり妖怪が登場してこないのでCGを使う必要が無いといった部分を考えると、意外に実写ドラマ化しやすそうなマンガ。点数が低い理由は「ストーリー性に欠け」、稲葉夕士の一つ一つの語りや学びが断片的に感じるからですが、それは裏を返せば一話単位の実写ドラマだと意外にハマるのかなと思いました。