『とろける鉄工所』全10巻のネタバレ感想。イブニング(講談社)で連載されてた仕事漫画。作者は野村宗弘。

あらすじ

広島県のとある田舎の鉄工所「のろ鉄工」が舞台。主人公はその溶接工の一人である、北さん。北さんの同僚など様々な溶接工たちの仕事風景をコメディタッチに描いてる日常漫画。1話完結のオムニバス。

溶接工という職業はとにかく悲惨

作者の野村宗弘はもともと溶接工だったらしく、その当時の経験を元に描いてる漫画。だから架空の話ではありつつも若干エッセイチックなテイストに溢れてて、溶接工の大変や楽しさといった情報の迫真性が満ちてる。

ただそれゆえに「溶接工になりたくねーなー」と思わせる特有の職業病も辛辣に描かれてる。
とろける鉄工所1巻 溶接工の職業病1
(1巻)
例えば、溶接時には必ずヒュームと呼ばれる危険な煙が工場内に舞うらしい。他にも細かい鉄粉など、見るからに聞くからに危なそう。画像からも危険な臭いが、それこそプンプン。

とろける鉄工所1巻 溶接工の職業病2
(1巻)
実際吸いすぎると「じん肺」と呼ばれる難病に罹患する。しかも、じん肺患者の20%がなんと溶接工という噂も。アスベスト患者や肺がん患者さんを見てたら肺の病気ほど辛い病気ってない。ハロワークに通ってる方は是非覚えておきたい。

とろける鉄工所1巻 溶接工の職業病3
(1巻)
他にも飛び散った鉄粉が目の玉に突き刺さることも。しかも鉄粉の塊は小さいので取るに取れない。あらゆる人間の急所を狙ってくる鉄粉。恐るべし!また溶接時の光で目の玉がそもそも焼けて、涙ボロボロで目が開かなくなることも。

もうコエーー!!としか表現しようがない。

個性的なキャラクターたち

『とろける鉄工所』のキャラクターが個性的で面白い。

とろける鉄工所4巻 小島さん
(4巻)
特にベテラン溶接工の上司である小島さん。広島弁全開でとにかく口が悪い。頭がでかすぎて、ヘルメットが入らない。でも情に厚いところが魅力的。ちびまる子ちゃんに登場しそうな頭のフォルム。

とろける鉄工所3巻 高原さん
(3巻)
高原さんは北海道の工場から逃げてきたというオッサンなんですが、見かけによらずその理由が女性関係。厳密には水商売のオンナに軽くフラれただけ。ちょいちょい過去をエグるフレーズを聞くと、暗黒面に陥る。

社長は強面なんですが、やたらと社員旅行をやりたがる社員思い。そしてパン好きの今井は元ヤクザ。ちょいちょい背中の入れ墨が見えて、ヘタレの吉川がビビりまくる。でも実は鉄パイプを間違ってゴツンと頭に当てても、全然怒らない温厚の塊。

とろける鉄工所9巻 社長と今井
(9巻)
しかも社長と今井さんが血のつながりがあるという。遺伝の法則恐るべし!(笑)

主人公・北さんの奥さんも、ちょっと抜けてて笑える。いかにもフツーっぽい奥さんなんですが、そのフツーっぽさにちょっとムラムラ。

解説や説明が分かりやすい

溶接工に関する漫画ということで、たまに「鉄」に関する小ネタを解説してくれてる。でも、その解説がいちいち分かりやすい。

とろける鉄工所10巻 分かりやすい解説
(10巻)
例えば鉄の偉大さを解説。地球は鉄の塊だから磁力が生まれて、有害な宇宙線を防いでる。金などはいずれ鉄に変化するそうで、宇宙のすべてがいずれ鉄になるという噂も。

…などなど目からウロコで面白い。鉄視点一辺倒で語ってるのが功を奏してるのかも知れないですが、下手な教師や大学教授の抗議よりも情報が頭に入ってくる。

鉄という漢字も中国発祥。中国の古い文字では「銕」と書いてたらしい。右側の「夷」は外国人という意味(蔑称)。その外国人が作った金属という意味で、銕(鉄)。

とろける鉄工所7巻 分かりやすい解説
(7巻)
じゃあその外国人が誰かと言うと、ヒッタイト帝国。3400年も前にトルコ周辺に存在した巨大な国だそう。

日本には紀元前3世紀頃に朝鮮半島などを介して製鉄技術が伝わったんですが、有名なたたら製鉄は鉄民族「タタール人」から来てるという説が有力っぽいんだそう。複合的な情報を絡めることで、興味もそそられて記憶にも残りやすい。

そういえば歴史で思い出しましたが、今年2月末ぐらいに愛知県一宮市立奥中学校のアホな校長がアホなブログを書いて波紋を呼んでました。

「初代、神武天皇以来2675年に渡り、我が国は日本型の民主主義が穏やかに定着した世界で類を見ない国家です。しかし、だからといってアメリカから初めて民主主義を与えられたわけではありません」…だそう。

ちょっとツッコミどころが満載。まさか縄文人や弥生人が『投票』を行っていたとは知りませんでした(爆笑)
天皇も民衆から選挙で選ばれた御仁だったとは!?

そしてこのアホな校長は言うに事欠いて、「世界一長い歴史とすばらしい伝統を持つこの国に誇りを持ち…」と電波全開。別に日本の伝統に誇りを持つことは悪くないんですが、不確かで妄想じみた神話を持ち出してきたところで、ようやく日本の歴史の長さは2600年程度。

でも、前述の通り、ヒッタイト帝国は3400年前に鉄をバンバン作ってた。中国では殷あたりが隆盛を誇ってた時期。コチラはしっかり証拠が残ってる。外国では人々がバリバリ生活を営んでいた時期に、日本だけが神話の空想世界を生きていた?

少なくとも、日本の歴史が世界一長いということは有り得ないわけで、まさに愛国心でシコりすぎると馬鹿になるという典型だなぁーとふと感じた。以上蛇足の余談。

総合評価

『とろける鉄工所』は基本的に笑える仕事漫画。溶接工の悲哀を面白おかしく描いてる。でもだからといって溶接工という仕事に対して卑屈さや貶めようとする描写がないので好感が持てる。

キャラクターもガサツな溶接工が多いんですが、広島弁がそう感じさせてるだけかも知れないですが、その割に猥雑な下品さは少ない。個々のキャラもメリハリが効いてる。

また一話完結の短いボリュームで起承転結がしっかり描けてる。分かりやすい解説はストーリーでも反映されてて地味にテンポ感もある。ネット漫画的な「ゆるさ」もあって、溶接工を知らない読者でもダラダラ読める。

埋もれてた才能というのか、もっと作者・野村宗弘の描いた漫画を読んでみたいとは思った。特にエッセイ漫画や鈴木みそ的な漫画がウケそう。

ただ強いて批判するなら、ラストの終わり方。小島さんや吉川など個性的なキャラクターがたくさん登場するものの、彼らの未来がどうなったかという描写が一切ない。作者的にはストーリーものとして作ってた節もあるらしく、その割にケジメをつけない終わり方はモヤモヤした。

とろける鉄工所(1)
野村宗弘
講談社
2013-01-04

◯展開…★3◯テンポ…★4.5
◯キャラ…★4.5◯画力…★3.5
◯全巻大人買い…★4
◯おすすめ度…87点!!!!