『新宿スワン』全38巻のネタバレ感想をレビュー。作者は和久井健。ヤングマガジン(講談社)で連載されてた漫画。新宿のスカウトマンを設定にしてるので、ヤクザが絡んだりアングラ系のネタが全部詰まってるような内容。

旧ブログの「すごないマンガがすごい!」で2014年春頃に更新した記事を移行させたレビューになります。2015年5月からは主演・綾野剛(主人公・白鳥タツヒコ役)で実写映画も公開されるそうですが、とりあえず面白いかつまらないか・面白くないか考察してみた。


あらすじ物語・ストーリー内容

主人公は、白鳥タツヒコ19歳。成り上がるために上京するも一文無し。歌舞伎町でブラブラと歩いていたら、そこで真虎というスカウトマンに出会う。その真虎にホレた白鳥タツヒコが同じようにスカウトマンを目指して、新宿歌舞伎町にひしめく水商売や風俗の世界で自分の生き方を探すという話。

スカウト会社同士の抗争や、そのバックで管理(ケツモチ)してるヤクザの権力争いなど、スカウト(女性をダマす)という行為を通じて、どんどん裏社会の薄汚い部分が表出。新宿・歌舞伎町の「見ちゃいけない」部分がリアルに描かれてる。

ただ後半になるにつれ、徐々にそういう「スカウト」に関する描写…というより主人公の存在感がみるみる減っていく。そして主人公タツヒコをスカウトの世界に引き入れた『真虎』の復讐にテーマが移っていく。


真虎の壮絶な復讐


新宿スワン38天野修善
(38巻)
真虎が復讐しようとしてる相手が、紋舞会の天野修善というヤクザ。日本最大級の暴力団・柚木組のトップになろうと画策。表情からしてまさに極悪。

じゃあ、何故天野を狙ってるのか。主人公のタツヒコが真虎にスカウトマンを誘われたように、真虎もまた辰巳(たつみ)という男に誘われた。

この辰巳を天野が部下を使って殺害。
新宿スワン33巻山城兄弟に殺される辰巳
(33巻)
この時の描写がかなり鬼気迫って、「手に汗を握る」とはまさにこのこと。スカウトマン同士、ヤクザ同士のイザコザも緊張感があったんですが、この時だけは別格。

山城兄妹は真虎が大好き。それでも天野修善の恐怖が勝って、強い葛藤に襲われながらも行動を起こす。真虎は真虎で信頼していた部下に突然さされる。お互いの何とも言えない感情が、この一瞬に全て現れてる。

復讐の鬼と化した真虎は、その後その山城兄弟という男たちの下で働くようになる。そして復讐の機会を虎視眈々と狙う。
新宿スワン31巻復讐に躊躇する真虎
(31巻)
ただ次第に、山城兄弟のことを好きになっていく真虎。躊躇してためらうものの、それでも心底尊敬してた辰巳への復讐心が勝る。そして山城兄弟の命を奪う。真虎の揺れ動く心理描写は切ない。


ストーリー構成力の高さ

『新宿スワン』はとにかくキャラクターがたくさん登場する。個人的に、そういうマンガは苦手。何故なら人数に比例して、ストーリーもゴチャゴチャしがち。結局今どこへ向かって、進んでるのか迷うことも多いから。

ただ不思議と、このマンガはそこまで戸惑うようなことはない。途中から、「真虎の復讐」がメインの軸になることも大きいんだろうが、複雑な人間関係を巧みに操る作者のストーリー構成力の高さが伺える。もっと言えば、キャラクター作りも上手く、まさに「人間模様が鮮やかに描かれてい」た。


天野など表情の迫力

一方画力は序盤だとかなり微妙。同人誌上がりと表現しても構わないかも。絵柄も90年代チックで、若干古くさい。ただ巻数を重ねることに、それは目に見えて改善・進化していく。絵柄も、この作者しか描けないオリジナルに仕上がっていく。まさに、これぞ「伸び代」。

序盤から片鱗は少し見せてたものの、特に表情のドアップが秀逸。前述の天野修善が好例。
新宿スワン34巻堀田
(34巻)
堀田というヤクザの表情。既に天野修善の画像を見ても分かると思いますが、とにかく「オッサンの悪い顔」を描かせたら天下一品。


ラストのオチは慌てた印象

ストーリー自体は悪くないと思いますが、ラストの結末は慌てて風呂敷を畳んだ印象。最終的に真虎は天野修善を追い詰めるんですが、最終回では自分の手で下さない。「オマエを殺すのに武器などいらない」と自害させる方向に持っていく。

ただ真虎は天野修善の息子・タイガや山城兄弟の命を奪ってきた以上、勧善懲悪的なスカッとしたオチを期待してた。天野はヤクザだから派手に殺されない方が却って惨めで残酷な死に方だったとも言えますが、やや拍子抜けだった。

新宿スワン38巻死ぬ真虎
(38巻)
そして最終話で真虎は天野のもう一人の息子・レオの手によって命を落とす。

真虎が死ぬというオチ自体は構わないですが、ただタイミング的に不自然。何故なら真虎がビルから出てきた直後。レオがビルの外でずっと待ってたとしか思えず、もし真虎が現れるのを外で待っていたとしたら、何故父親である天野を助けに行かなかったのか?という疑問。仮にギリギリ急いで来たのであれば、ピストルではなくナイフの方がリアリティーはあった気がする。あと真虎はその時に頭を撃たれてるのに、タツヒコと一言二言喋ってる。これも不自然に見えました。

ラストの展開にはもっと丁寧な描写さがあっても良かった。最後の最後で気になる部分も目立った。


描き下ろしの新たなオチ

新宿スワン38巻ラストのオチ
(38巻)
そして最終巻38巻のオチは主人公タツヒコが、まだまだスカウト続けるぜ的なオチ。これも悪くはないものの、現実を振り返ってみると新宿は条例によって規制が強化されてスカウトマンがいなくなった。もっと言えば、東京全体での規制が年々強まってる。

だから結局、真虎が復讐を果たしたことで、新宿の中で一体何が残ったんだろうという素朴な疑問。それを考えると虚しいっちゃ虚しい。ある意味「残らなかった」ことが残ったとも言えるので、これを人によっては『余韻』と言い換えることもできるのかも。

ただ個人的には、真虎のこれまでの経緯を考えると、もう少し何かハッピーエンド的な要素があっても良かった。これじゃあ誰も・何も報われない。最新作の『セキセイインコ』を連載したいがために足早に終わった印象。

新宿スワン38巻ハッピーエンド
ちなみに最終38巻の単行本コミックには、描き下ろしのエピローグが追加されています。タツヒコと昔登場したアゲハと付き合って、ハッピーエンドを(唐突に?)迎える。白鳥タツヒコは新たな人生を歩み出したというオチ。ここでは一種救われたのかも知れない。


総合評価・評判・口コミ


『新宿スワン』の序盤ストーリーは、新宿の風俗街をしっかり写し出したルポチックなマンガ。作者の和久井健自身が実際にスカウトマンとして働いていたらしく、その描写は結構リアル。「へー」「マジ?」みたいな楽しみ方ができて、それなりにダラダラ読める。

ただNARUTOと同じように、いつの間にかサブキャラ(カカシ)がメインになっちゃう。終盤のNARUTOではそうでもなかったですが、いつの間にか主人公・白鳥タツヒコの空気感がハンパない。それぐらい真虎の物語が鮮明に描かれる。

でも別にそれが悪いということではなく、後半にかけてサスペンスチックな展開も面白い。真虎VS天野の戦いには緊迫感があって、後半の展開の方が面白い。良い意味でスカウトマンのマンガだったことを忘れさせる。絵柄は独特ですが、ストーリーの完成度も高く面白かった。

新宿スワン38巻 白鳥タツヒコ
(38巻)
ちなみに、この記事ではほとんど真虎に関するレビューが占めましたが、主人公・白鳥タツヒコはめちゃめちゃ良い奴。誰にも嫌われないキャラクター。見た目はイカツイものの、性格は優しく純真無垢で、なおかつ芯は熱い。新宿という汚い世界でも、白鳥のように白く輝く。まさに好青年を絵にした、本当に稀有な主人公。果たして、綾野剛はどんな演技を見せてくれるのか?