『サユリ』全2巻のネタバレ感想をレビュー。作者は押切蓮介。掲載誌は月刊コミックバーズ。出版社は幻冬舎。AmazonのKindleでも絶賛ダウンロード購入可能です。

『サユリ』というタイトルは可愛らしい女の子の名前ですが、ジャンルは青年コミックのホラー漫画。作者・押切蓮介といえば最近連載が復活した『ハイスコアガール』が有名ですが、実はホラー漫画の方が得意というか好んで描いてらっしゃいます。

夏も終わって完全に秋めいた今。特に感想を書くタイミングでもない、むしろ絶好の機会を逃した感はハンパないですが、何となく『サユリ(押切蓮介)』が面白いかつまらない漫画か全巻まとめて考察してみました。ただ記事タイトルにも描いてあるように割りとオッサンでも怖いホラー漫画なので閲覧注意。


「サユリ」のあらすじ物語 ストーリー内容

主人公はとある一家の息子・則雄(のりお)。年齢は中学生か高校生。今まで狭いアパートで暮らしていたものの、父親が長年の夢だった念願のマイホーム(中古物件)を手に入れたことをキッカケに引っ越しをする。

その家から見える景色がとにかく抜群だった。まさに幸せ絶頂の仲睦まじい家族。これから順風満帆な生活が待っているかと思われた。しかし、それは「絶望」の始まりでしかなかった。何故なら、その一戸建ては「凶悪な地縛霊」が住み憑くいわく付きの中古物件だった。

サユリ1巻 あらすじ 九条小百合
(サユリ 1巻)
その地縛霊の名前は「九条小百合(くじょう・さゆり)」。つまり漫画タイトルの『サユリ』はこの地縛霊のことを指します。何故ここまでサユリは人間に対して憎悪の感情を抱くのか?

サユリ1巻 あらすじ 近所のオバさん
(サユリ 1巻)
サユリの悪評は近所にもとどろき、「ここに住む人は皆不幸になるの…このままここに住んでるとね…」とすげい剣幕で早く逃げるように警告してくる近所のオバさんも。ただ既に父親は貯金を全額を使い果たして手に入れたマイホーム。今すぐ別の場所へ引越しすることは常識的に考えて有り得ない。

サユリ1巻 あらすじ ジジイ
(サユリ 1巻)
しかしながら、その言葉の正しさを証明するように、次々と則雄の家族は地縛霊の毒牙にかかっていく。気付けばまた一人また一人と家族の命を奪われていく。

当然、一家にはもう貯金が残されていない。ましてや学生である主人公・則雄は為す術がない。果たして則雄はサユリに一方的になぶり殺されるのを待つだけなのか?!…といった内容のホラー漫画になります。


とにかくホラー描写が怖すぎる

とにかく『サユリ』はホラー描写が視覚的にシンプルに怖い。ここからはサユリの恐怖画像を貼っていくので、記事を離脱するなら今の内に離脱しておくことをおすすめします。

オッサンでもまあまあ怖いぐらいですので、子供が見たら間違いなくトラウマものでしょう。このブログ読者さんにお子さまはいないと信じてレビューしてます。ちなみに『サユリ』は全2巻しかないので画像は少なめにしてるのでご了承を

まずは九条小百合。何と言いましても、この悪霊がとにかく怖い。でもあらすじに貼った画像はまだおとなしめ。じゃあサユリが本領を発揮するとどれだけ怖いのか。

サユリ2巻 ホラー描写 九条小百合2
(サユリ 2巻)
主人公・則雄がご飯を食べてる時に、不意にその背後にこんな形相でヌッと立つ。この顔はアカン。あまりに怖すぎて「志村うしろうしろー」と叫ぶこともできません。このサユリに次々と家族が襲われるわけですが、発狂した時の家族が色々とヤバすぎる。

サユリ1巻 ホラー描写 姉
(サユリ 1巻)
例えば、則雄の姉ちゃん。弟が先程の近所のオバさんに脅されていると、ふと姉ちゃんがバットを持ってすごい形相で現れる。

この顔と無言の組み合わせが反則的にヤバイ。まだ「うぇえぇえー!」など発狂してる方が逆にリアリティに欠ける。しかも状況は雨の中で素足。この異常感。まだオバさんを狙うなら分かりますが、姉が狙ってるのは弟の命。あまりに怖すぎて思わず笑う。

あらすじでも説明してますが、そもそも『サユリ』は状況からして有り得ないぐらい怖い。じわじわと家族が殺されていくわけですが、サユリはとりわけ大人たちから狙っていく。ということは、「引越し」をして逃げるという可能性や余地が気付けば奪われている

つまり主人公・則雄にとっては「安息の地」であるはずの家が「凶悪な地縛霊との共同生活」を問答無用で強いられる。普通は数十分でも心霊スポット巡りや肝試しするだけでも怖いですが、明らかに自分たちに敵意や殺意を向けている悪霊が住み憑く家に四六時中に居なければいけない。もはや罰ゲームというレベルを超えてる。これぞ地獄。

ただ何度も言うように『サユリ』は視覚的に怖い。説明してるだけでも恐怖感はひとしおですが、実際の漫画はそんなもんじゃありません。サユリはひたひたと則雄を追い詰めていく。

サユリ2巻 ホラー描写 母親
(サユリ 2巻)
例えば既に首吊りで死んだはずの母親を則雄に見せつけてくるんですが、明らかに首が長すぎる。しかも母親は則雄のことをずーっと凝視してくる。

サユリ2巻 ホラー描写 九条小百合1
(サユリ 2巻)
そして極めつけは外から帰ってきた則雄に対して、玄関から自分の顔面ドーン!玄関から顔全体が出てるという発想がホラー漫画として面白いですが、このインパクトは凄まじい。則雄が「自宅に帰らなければいけない」ということが分かった上でのコレ。フツー幽霊はもっとコソコソするもんやで!


覚醒したババアとサユリの戦いが熱すぎる

じゃあ主人公・則雄は一方的にサユリになぶり殺されるのを待つだけなのか。いや、そうじゃない。『サユリ』はホラー漫画ではありますが、実は2巻以降はサユリに立ち向かっていく。どうやってサユリを倒すのかにページが割かれます。でも立ち上がるのは則雄じゃない。一体誰なのか?

サユリ2巻 ババアが覚醒1
(サユリ 2巻)
それが祖母(以下ババア)。実はこれまで認知症を患っていたものの、自分の目の前で祖父が倒れてしまったこと(あらすじ参照)で何かが覚醒。認知症を患う前の気性が荒いババアに戻った。このババアがとにかく男前すぎて惚れる。

まず画像にもありますが覚醒した初っ端、タバコをプカーっと吸い始めたかと思いきや、主人公・則雄に対して「このままでいいんか?やられ損のままいいんか?」と宣戦布告をかます。ババアが吸ってるタバコは「無念を晴らす」ための開戦の合図だった。

例の近所のお節介オバさんが「ここのお父さんとお爺ちゃんがヘンな死に方したらしいじゃないですか」とニタニタと語りかけてくる。まだ先程の画像は心配してくれてる余地はかすかに残ってますが、さすがに遺族に対してこんな質問を投げかけるのは悪趣味。悪霊がどうこう以前にカスすぎます。某元フジテレビアナウンサー並み。

サユリ2巻 ババアが覚醒2
(サユリ 2巻)
でもババアは「何じゃあ!」という絶叫と共にビターン!ビターン!ビターン!何という心地いいリズムのビンタの数々。そして「地縛霊をお祓いした方がいいって忠告しに来てあげたのに」とホザくオバさんに対して、ババアは一言。「祓って済ませるつもりはねぇ」。やだ…かっこいい。

先程のすごい形相で立ちふさがってる九条小百合に対しても、「そんな顔をすればワシらの心が弱くなるとでも思ったか…いかにも小便臭い小娘の考え方じゃ」と九条小百合の目の前で一刀両断。やだ、やだ、このババア、本気でアタイの股間が濡れちゃいそう。

この大げさすぎるキャラクターはややもするとギャグ寄りに展開を持っていく危険性もはらむものの、それでもババアが必死にサユリを倒すために立ち向かう様が胸アツすぎる。ホラー漫画で「バトル漫画で感じるそれ」を感じたのは個人的に初めて。

だからババアの気迫はマジで狂気じみてる。いや、九条小百合の凶気以上。しかしながら「狂気」と「凶気」がぶつかり合う様に、もはや「オラわくわくしてくっぞ」状態でワクテカが止まらない。思わずグイグイ読まされてしまう。

一方で不安で眠れない主人公・則雄に対して、フスマ越しに「安心しろや。わしゃあ隣で寝てっから何かあったら呼べや」と語りかけるなど実はしっかり心根は優しい。また料理を毎日大量に作って「甘えは聞かんぞ。食べて命を濃くせんとワシャ許さん」と気が滅入って食欲がない主人公・則雄を叱る。この温かい言葉に緊張とのギャップ感が泣きそうになる。

何故なら、悪霊に勝てる唯一の武器は「生命力」だから。よく食べよく寝てよく活きる。しっかり心の臓を活発に動かして人間としての当たり前の行動を続けることで、実体のない石鹸水の泡のようにかよわい悪霊はその「命の濃さ」に気圧される。

つまり単に無茶苦茶で破天荒なババアかと思いきや、意外と理屈が通ってて言動のいちいちに説得力があるので読者としても展開の流れに逆らえない。しっかり魅力的なキャラクターとして成立してる。

サユリ2巻 九条小百合 ババアにも魔の手
(サユリ 2巻)
しかしながらババアにも遂に九条小百合の魔の手が迫る。ババアも常に気を張って戦っていたものの、ふとジジイに対する惜別の想いが蘇る。サユリは感傷的になって弱みを見せたババアの隙(すき)を見逃さなかった。天井から大量に垂れ下がるサユリの髪の毛がエグい。


ただ最終回は意外にも後味が良い

ただ『サユリ』のボリュームは全2巻程度しかありませんので、最終回や結末についてのネタバレは割愛しておきますが、ここまで感想記事を読んで同じ作者・押見修造が描いた漫画『ミスミソウ』を彷彿とした方もいるかも知れません。

前に『ミスミソウ』全巻をレビューしたことがありますが、中身はとにかく胸クソ悪い。これが最終回まで続いて、本当に後味が悪い。「おすすめ鬱漫画ランキング」にも勝手にランクインさせていただきました。だから『サユリ』も似たような結末を辿るのではないかと想像しがち。

でも『サユリ』のラストはハッピーエンドで終わる。もちろんホラー漫画ではあるので、何故サユリが悪霊に至ったのか、そこには悲しくて切ないドロドロとした物語が背景にあります。それでも割りと読後感や後味が良い。

生粋のホラー漫画好きからしたら「最後まで鬱展開を描けよ」という方もいるかも知れませんが、単に『サユリ』は怖いだけで終わってないのが良い。怖いからこそハッピーエンドが良い意味でギャップ感に繋がってる。安心して読めるという点では、割りと幅広い読者に『サユリ』はおすすめできます。


「サユリ」の総合評価 評判 口コミ


『サユリ』全2巻のネタバレ感想をまとめると、記事タイトルでも書いたように「怖い」の一言に尽きます。

フツーのホラー漫画だったら、単に悪霊から逃げて話は終わり。キャラクターが大人だったら引っ越しすればいいだけですから、それも成立する。でも子供が主人公だったら一人で対応できない以前に、再び家に帰らなければいけない。

じゃあ確実に逃げられない状況に陥ればどうすればいいの?」という極めて現実的な視点で展開が広げられてる。ホラー漫画の中では「奇をてらった設定」とも言えますが、だからこそ逆にリアリティーに溢れてる作品として仕上がってる。

また九条小百合(サユリ)の過去やポジティブな最終回のオチなど含めて、意外にストーリー性がある。そしてサユリを追い詰めるババア、愛する家族を失った少年が必死に立ち向かう姿など読み応えは多い。

そして、これら全てが2巻で収まってるサイズ感とパッケージング力が絶妙。つまり、それは起承転結のテンポ感が見事である証明の裏返しであり、それらの小気味良い展開に思わず読者はグイグイ読まされてしまう。だからホラー漫画どうこうってのは関係なく、『サユリ』はそもそも漫画としての完成度が高くて面白いと言えます。

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