『さよならソルシエ』全2巻のネタバレ感想。作者は穂積。月刊フラワーズで連載してた歴史漫画。出版社は小学館。ちなみに自分もちょくちょく間違えますが「さよならトルシエ」でも「さよならザッケローニ」でもありません。

2014年の「このマンガがすごい!」オンナ編1位だったらしい。最近、良知真次,や平野良で舞台化されて、それを収録したDVDが2016年8月に発売されるそう。そこで面白いかつまらないか考察レビューしてみた。


あらすじ物語・ストーリー内容

舞台は1800年後半のフランス・パリ。芸術の都だけあって、まさにアートの最先端を誇っていた。しかしながらアートは庶民とはかけ離れた存在で、芸術を楽しむのはもっぱらブルジョアジーの支配階級や資本家たちばかりだった。

そして、「グーピル商会」はパリでも最も有名な画廊の一つだった。扱う作品はフランス学士院に属する芸術アカデミー大家のみ。顧客もブルジョアジーの中でもブルジョアジーばかり。そのグーピル商会の支店長を務め、「グーピルの天才画商テオドルス」の異名を持つ男がいた。

さよならソルシエ1巻 テオドルス・ファン・ゴッホ
(1巻)
それがテオドルス・ファン・ゴッホ。あのフィンセント・ファン・ゴッホの弟である。しかしテオドルスはまさに異端児の中の異端児だった。

品格や伝統・保守を重んじるグーピル商会において、真っ向から新しい風を起こそうと目論む。いや、特権階級に媚びた窮屈なフランスのアート界全体そのものに、鮮やかで新しい才能をぶち込んで破壊しようと試みようとしていた。

果たしてテオドルスはフランス芸術界に一体どんなアート革命をもたらすのか?


少年マンガ的な見せ方や名言

冒頭でも書きましたが、この『さよならソルシエ』は「このマンガがすごい!」オンナ編1位に選ばれてます。それだけ女性支持が多かった裏返し。

また「月刊フラワーズ」という少女コミックで連載されてたこともあって当然女性向けの内容かと思いきや、意外にも男ウケしそうなカッコいい見せ方をしてくれる。つまるところセリフ力がある。

さよならソルシエ1巻 決めゴマ 名言1
(1巻)
例えば「体制は内側から壊すほうが面白い」といった決めゼリフのシーンは、いかにも少年漫画でありそうな一場面。

さよならソルシエ1巻 決めゴマ 名言2
(1巻)
反目するグーピル商会のお偉い面々たちに対しては「本物の夜明けを見せてやる」と帽子のツバをグイッと。

1巻では高名な美術評論家のムッシュ・ボドリアールに「権威と保守に満ちたパリ画壇にキミの求める新しい芸術なぞはどこにもないと思え」と吐き捨てられると、テオドルスは「ありますよ、ここに」と自分の頭をポンと指差すシーンも良かったです。

決めゼリフというかもはや「名言」と言い換えることもできますが、女性読者も意外にこういうシーンが大好物なのかも知れません。


無名の天才画家が炎の画家へ

『さよならソルシエ』の最大のミソは最後の大オチ。だからネタバレするのも気が引けるんですが、そこを避けてしまうと面白いかどうかを言及できませんので結末をネタバレしたいと思います。知りたくない方は閲覧注意です。

さよならソルシエ2巻 兄ゴッホの人生を作り変える
(2巻)
兄のフィンセント・ファン・ゴッホは暴漢に襲われて亡くなってしまうんですが、主人公の弟・テオドルスが兄ゴッホの人生をある戯曲家ジャン・サントロと共に作り変えてしまう。

兄・ゴッホは「生涯孤独の狂気の画家」と言われるぐらい波乱に満ちた人生だったとされますが、作中では誰にでも優しく、性格は鷹揚でほがらかだった。もちろん画家としての才能には満ち溢れていて、作風はまさに情熱的。ただ一方で、ゴッホ自身に名誉欲や出世欲は微塵もなかった。

弟テオドルスはそんな兄に尊敬の念を持っていたものの、全く才能を活かそうとしない姿勢に憤怒に近い感情を抱いてイライラもしていた。だから兄・ゴッホの死をキッカケに凡庸でつまらない真実の人生を「波乱に満ちた偽りの人生」に塗り替えた。

その結果は改めて説明するまでもないでしょう。そして「無名の天才画家」は「狂気の天才画家」として世間に認められる。つまりゴッホの人生や逸話は全て弟テオドルスがでっち上げたものだった…というストーリー。

さよならソルシエ2巻 テオとゴッホのお墓
(2巻)
そしてテオドルスは最期の仕上げとして、自ら後を追うにようして一年後に命を絶つ。そして兄ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの隣に自分の墓を建てる。この墓はキヅタという蔦(つた)が生えているんですが、その花言葉が「死んでも離れない」。

さよならソルシエ2巻 自画像は弟テオだった?
(2巻)
この有名な自画像も実は主人公・テオドルスを描いたものではないか?とも言われてるらしい。それだけゴッホ兄弟の絆は強く結ばれていた。以上が「炎の画家」と呼ばれた破天荒なゴッホの、優しい本当の人生だった…というお話。


ラストの結末は史実かどうか?

『さよならソルシエ』のストーリーの筋は通ってて違和感なく読めます。何故ゴッホの左耳は欠損していたのかなど合理的な説明がされていて、思わず「なるほど」と唸ってしまいました。

でも疑問として残るのが、このオチが史実なのかどうなのか?。いや、そもそもゴッホに弟がいたのか?という点。結論から書いておくと半分ぐらいは史実。

テオドルス・ファン・ゴッホ 写真
(ウィキペディア)
ゴッホに「テオドルス・ファン・ゴッホ」という弟は実在しました。またグーピル商会でも実際に働いてた画商らしい。前述のヒゲモジャの自画像も確かにテオドルスを彷彿とさせなくはありません。

テオとゴッホの実際のお墓 ウィキペディア
(ウィキペディア)
お墓もフランスのオーヴェル=シュル=オワーズに実在して、ちゃんと同じように隣同士でお墓が並んでいるらしい。しかも没年月日を見ると、確かに弟テオドルスが後を追うように亡くなってる。ここまで来たらほとんど全部真実だったのではないかとすら思えます。

ただ実際にはテオドルスの妻だったヨハンナ・ファン・ゴッホ=ボンゲル(通称ヨー)がゴッホの作品の知名度向上にも尽力・奮闘したとされます。また1914年4月にテオドルスの遺骨をフィンセントの墓の隣に埋め直したらしい。前述の花言葉(死んでも離れない)にしても、妻のヨーによる心遣いと考えられます。

作中では「敢えてゴッホの狂気性を際立たせるために気弱で優しい弟」を演じたという設定にされていますが、実際のテオドルスを見るとまさにナヨナヨした優男系。やはりフィクションと考えるのが妥当でしょう。

『テオ もう一人のゴッホ』や『ゴッホ 契約の兄弟 フィンセントとテオ・ファン・ゴッホ』といった本を参考文献としてラストに記載されてるんですが、あくまで「こういう仮説もありまっせ」と書かれた本を元にそのままコミカライズしただけのような感じもします。

だから最後も説明に終始して、とにかく畳み掛けるような忙しい終わり方。テンポ感は良いものの、反面としてアッサリ感がありすぎる。もう少しマンガとして掘り下げることもできたと思いますが、このオチこそが最大の肝だと考えたら、こういう完結のさせ方もアリといえばアリか。むしろ賢明なチョイスだったと言えます。


総合評価・評判・口コミ


『さよならソルシエ』の感想としては、漫画としてのオリジナリティーはどうかと思いますが、読み物としてはそこそこ読めます。ゴッホに関して最低限の知識がないとピンと来ないですが、あのオチは史実ではないからこそロマンがある。

ゴッホは生前は全く売れない画家だったのに、死後になってから突如として人気が出始めた。不自然極まりなく、背後に「もう一人のゴッホ」の影があったと考えても別におかしくない。ましてや兄ゴッホを追いかけるようにして弟テオドルスはすぐ亡くなっている。やはり「何かあった」と考えざるを得ない。そこに思いを馳せる面白さや後からしみじみと振り返る楽しみがあります。

強いて言えば、少女マンガとして評価すると色恋沙汰がないので、どうしても「らしさ」がもっと欲しいところ。ただ逆に考えると男でも普通に読めるという裏返しでもあって、「兄弟ヒストリー」的な側面はむしろ男向けのマンガとすら言えます。いや兄弟愛の深さは腐女子向け(腐向け)か(笑)

ちなみに「ソルシエ」の意味は分からず。誰か知ってる方がいたらコメントで教えてください