『蟲師 外譚集』のネタバレ感想。作者は漆原友紀。good!アフタヌーンで掲載。いわゆる蟲師のスピンオフマンガなんですが、漆原友紀は基本的にノータッチ(のはず)。5人の漫画家が描いたスピンオフを寄せ集めたものになってます。

どんな漫画家が描いてるの?

じゃあどんな漫画家が蟲師のスピンオフを描いているのか?

それが熊倉隆敏、吉田基已、芦奈野ひとし、今井哲也、豊田徹也の計5人。主にアフタヌーン系で連載を多く持ってる漫画家さんらしい。だから「何故彼ら5人がチョイスされたか?」という疑問には、それが一番の答えであり理由として挙げられそう。

でも、ぶっちゃけ全員「無名」と言ってもいいレベル。個人的には誰も知りませんでした。だから「この漫画家が描いてるから読みたい!」という訴求力はほぼありません。つまり、あくまでメインはやはり「蟲師」という漫画であり、対象となる読者を考えるとやはり「蟲師のファン」ということ。

及第点は二作品のみ

ただそこで気になるのは、蟲師の世界観を忠実に表現できているのか?という点。もっと言うと、読み切りの作品としてのクオリティーがシンプルに求められる。

先に結論から書くと、及第点と呼べるのは序盤に掲載されてる二作品のみ。それが熊倉隆敏の「歪む調べ」吉田基已の「滾る湯」。そこでこの記事では二作品のレビューを主にしたいと思います。

歪む調べ(ひずむしらべ)

「歪む調べ」のあらすじを簡単に説明すると、父親が蟲師だった男の話。ただその男には全く霊感(?)的なものがなく、蟲が見えたことは今までなかった。それに比例するかのように蟲に襲われることもなかった。

でも、ひょんなことから父親が死んでしまう。そこで男は父親が持っていた山呼という蟲を呼びこむ岩笛を使ってニセ蟲師として活動。そしてある日、フクという可愛らしい娘と出会って一目惚れ。ただ父親が結婚を認めてくれず腹いせに岩笛を鳴らすものの、結果的にフクが山呼に襲われて亡くなってしまう。

蟲師 外譚集「歪む調べ」
そこから男は蟲・山呼が見えてしまう…という話。

一応話の展開としては、この男が本物の蟲師であるオンナと全滅した村で、その過去を語るところから始まる。だから男が本物の蟲師に山呼の退治を懇願するものの、実は意外なオチが待ってます。オンナの「私にそれは払えない」という冷たい表情が切なさというか若干の笑いも誘う。

滾る湯(たぎるゆ)

吉田基已の「滾る湯」は、ある漫画家がさびれた温泉街で療養してる話。だから漫画家という職業があったことを考えると、時代的には戦中か戦後か。とにかく本編からは時代が進んで、おそらく昭和時代であることに違いはなさそう。

蟲師 外譚集「滾る湯」1
この漫画家は常に自分の作品や能力に懐疑的。それにも関わらず、同時に周囲から評価されないことに不満を抱いているという、どうしようもない癇癪持ち。

ある日、あまりに風呂に浸かりすぎてのぼせる。ただお風呂のお湯がめちゃめちゃ熱い。そして、漫画家の身体もめちゃめちゃ熱い。実は「ユノハナモドキ」という蟲に知らず知らずのうちに体内に取り込んでた。癇癪持ちの性格もユノハナモドキが原因。

そこで肩を貸して助けてくれたのが、マコトという青年従業員。常に無表情で無口。ただ漫画家は気付く。ユノハナモドキに襲われて熱くなっていた自分の体に触れても、マコトは全く熱がらなかった。

蟲師 外譚集「滾る湯」2
つまり、マコトの体内にもユノハナモドキがいた。でもマコトは意図的にユノハナモドキを体内にとどめていた。この理由が父親の死。さびれた温泉街を復活させようと、新しい源泉を探すために日夜働いてた。でも働きすぎて過労死。だから自分だけが喜んだり「笑ったり」することに罪悪感を感じてた。だから、敢えて癇癪を起こしやすくなる蟲を利用してた。

オチが良かった。実はマコトが抱えてたユノハナモドキのおかげで新しい源泉が湧く。この兆候に気付いてた漫画家が黙ってたのも良かった。最後に「マコトが笑う」というオチを持ってきたのも、憎々しいぐらいキレイ。

蟲師 外譚集「滾る湯」3
コメディータッチなノリもあって、40ページというボリュームもスラスラっと読めた。ちなみにマコトが焼け石みたいに利用された、この場所に新しい温泉が湧く。

近現代の世界観とは合うのか?

ただそれ以外の「組木の洞」や「影踏み」は微妙。前述の二作品は本作蟲師と時代設定や世界観・絵柄は似てるんですが、「組木の洞」や「影踏み」は全く別の作品。

蟲師 外譚集「組木の洞」
「組木の洞」では新宿駅が登場。新宿駅に何故か迷い込んだ家出娘の話なんですが、時代設定は近現代。二人の蟲師の存在も変に特色を出そうとしすぎて、全体的に上手く噛み合ってない。絵柄も含めて全く別の作品。

蟲師 外譚集「影踏み」
「影踏み」も同じく時代設定は近現代。母親がいなくなった娘が探偵に捜索依頼を頼み込んできたことからストーリーが展開。ただこのモジャ毛頭の探偵が蟲師ということではない。途中からホームレスらしきジジイが現れて、「これは蟲師のせいや!」と言い出して探偵を差し置いて解決していく。この探偵の意味ー!!!

全くなんなんだ?というストーリーなんですが、その割にボリュームが多い。画力は決して下手ではなく、描き込みもかなり頑張ってる。ただ主人公の探偵はあまりカッコ良くも渋くもない。おそらく松田優作あたりを狙ってる気配がしますが、頭身のバランス悪い。

総合評価

「滾る湯」が際立って良かった。絵柄の雰囲気も似ていて、本編『蟲師』の延長線上として一番違和感がなく楽しめる内容。他がダメすぎるというのも大きいですが、二番目は「歪む調べ」。でも内容的にはギリギリ。

本編の世界観を踏襲したスピンオフを望む「蟲師」ファンには好みが分かれそう。挑戦的な姿勢でオリジナリティを出しすぎたのか、そもそも絵柄が全く似てないせいなのかは不明ですが、全く別の作品。「現代の蟲師」は本作で説明がされないこともあって並大抵の実力では厳しいか。

だから採点はプラマイゼロで何とも中途半端な点数に。

蟲師 外譚集
漆原友紀
講談社
2015-05-15


◯展開…★3◯テンポ…★3.5
◯キャラ…★3◯画力…★3.5
◯全巻大人買い…★4
◯おすすめ度…80点!!!!