『マージナルオペレーション』4巻のネタバレ感想。原作は芝村裕吏、作画はキムラダイスケ。アフタヌーン(講談社)で連載中の戦争漫画。同名小説をコミカライズ化したものらしい。マージナルオペレーション1巻から3巻のネタバレ感想は既にレビュー済み。

あらすじ

主人公は新田良太。引きこもりがちのアラサー無職だったものの、ひょんなことから自由戦士社という民間軍事会社に入り、海外で傭兵として活動。中央アジアなどの紛争に加担。そこで子供兵を率いて指揮官として才能を開花。

マージナルオペレーション4巻 新田良太と子供兵
(4巻)
そして、その子供兵たちと共に日本へ帰国したところから4巻が始まります。

一応1巻から3巻のレビューでは好評価をつけた覚えがありますが、4巻ではちょっとツッコミどころが多かったので厳しめにツッコミます。パコパコ。

日本の公安関係は優秀?

主人公・新田良太は見るからに怪しい。実際偽造パスポートを使って新田良太たちは入国してる。日本から傭兵業界に入り込み、中東アジア・タジキスタンの紛争で反政府ゲリラに捕虜にされて消息不明になる。ただ1か月後、子供兵を大量に引き連れて、イランで拉致された日本人を救出。そして、そのまま日本へ帰国してきた。

そこで日本政府に属する公安関係が新田良太一味を尾行・監視。ただ警察関係ではないということなので、作中では明確に表現されてませんがおそらく内閣情報調査室や公安調査庁に属する職員。
マージナルオペレーション4巻 公安・伊藤幸恵
(4巻)
その公安職員の一人がドジでマヌケな伊藤幸恵。尾行があっさりバレるものの、ごまかし方が小学生。

でも伊藤の上司BBAは一応しっかりモノ。新田良太はBBAの尾行に気付いて、軽く挑発したことから二人は会話。「心はこの国以外にあって?」「貴方は日本国を守る力が存在することに気付いて?」などBBAは色々と詰問してくる。「偶然や敵の無能に期待しては国を維持できないと思っています」と新田良太は返答すると…
マージナルオペレーション4巻 公安
(4巻)
「どうかしら?それと接触した感想は?」と強烈なドヤ顔。

もうツッコミどころが満載。新田良太にガチで警戒してはいないとは言え、監視対象にガッツリと絡んでいく。このあとストーリーでは公安が新田たちに仕事を依頼(後述します)してくるわけですが、出会って数日で頼むか?という疑問も。

あと公安関係者とは言っても、所詮は公務員。こんな白髪のBBAがいるわけない。仮に定年の60歳を迎えてなかったとしても、上司が前線で活動することも有り得ない。むしろ白髪頭が目立って仕方がない。

ましてや仮に脆弱なBBAが敵に捕縛されたらどうするのか?ハンターハンターのビスケなどが典型ですが、マンガやアニメの中では「BBAは強い」のは定番。でもリアルのBBAはもちろん弱い。そこで公安の情報を知るために拷問をかけられる可能性も高いわけですが、そういった危険性が一切考慮されない。

もし敵が平穏無事で自分の身柄を帰してくれると思ってるとしたら、それこそ脳ミソお花畑。作中の新田良太のセリフを援用すると、「公安が監視してる敵は随分と奥ゆかしい破壊活動をしている」と言わざるを得ない(爆笑)

「研修所における初任者研修ではせいぜい面談の練習をするぐらい」
http://kimoota.net/psia-recruit/
そもそも夢見過ぎというか、例えば元公安調査庁で働いてたキャリア官僚の方のブログを見ると、最初の研修では「面接の練習」をしてるだけ。もはや「完全にお遊びレベル」という表現も。確かにマンガを読んでもお遊びレベルの域を出てないのが現状ですが(笑)

2014年公安調査庁採用パンフレット
http://www.moj.go.jp/content/000123095.pdf
例えば、公安調査庁のリクルート活動を見てみると、2014年版の公式サイトがアニメ臭全開。2015年版も似たようなアニメ風。大人気のトヨタ自動車やテレビ局、銀行での採用活動はこんなことしてないことからも、よほど人材が枯渇してることが分かります。

ちなみに公安は警察や防衛省などにも様々存在してるそう。そこで思い出されるのが、京都大学へ侵入…もとい潜入調査してた京都府警の公安課のお兄ちゃん刑事(実名は伏せます)。なんと無様にも学生に見つかって学長へ通報される。そして学長や教師たちに部屋で詰問されまくり。

そこで公安課のお兄ちゃん刑事が取った手段がLINEで上司に助けを求める。公安のお仕事はウラで監視すること。当然敵(笑)にバレちゃいけないですから、当然そのマヌケな刑事は捨て置かれるのかと思ったら、大勢の刑事たち(公安課以外の警官も?)がゾロゾロと大挙として京都大学へ乗り込む。おいおい、監視活動という建前はどこ行ってん?写真だけ見ると今にも抗争に参加しそうなヤクザ集団(爆笑)

要するに、公安さんは「茶番」という名の劇団員以上でも以下でもないのが現実でしょう。所詮は日本でデモをやってるヤツをパシャパシャとマスク姿で盗撮してるだけが関の山。そもそも女性職員はこんなに多くないでしょ。

日本は難民・亡命者を受け入れている?

まだまだツッコミは続きます。主人公・新田は子供兵たちに普通に生きてほしいと願ってる。そこで公安のドジっ娘・伊藤幸恵に日本に亡命(難民)できないかを頼む。

マージナルオペレーション4巻 日本は難民を受け入れてる?
(4巻)
でも伊藤幸恵は「この国には現在多くの人々が押し寄せてますから無理です。既に社会問題になってます」と拒否する。

そこで日本がどれだけ海外からの難民を受け入れているか見てみると、2014年では5000人以上難民認定申請を行ってますが、日本で難民として認定されたのはたった11人だけ。一時的な在留を含めて110人。

日本より小さいフランスでは年間数万人。最近はイスラム国の台頭でシリア難民が増えて、2015年はドイツだけで数万人規模が新たに難民を受け入れる予定。そこから更に増えてEU全体で16万人規模の難民を受け入れようという話も。

確かに既に大量の難民(もっと言うと移民)を受け入れている国々だったらまだしも、日本ではむしろ多くの難民は押し寄せてはいないのが現実。問題は問題でも、「難民を拒否してる」という日本政府・安倍政権の姿勢が問題という批判だったら成立しますが、原作者は一体何を根拠にこういうテキトーなことを書いてるんでしょうか?妄想だけでマンガを描くと恥をかく典型。

せめて主人公が強く否定するのであればまだしも、「そうでっか…」と何故か納得してすぐ引き下がる。これもイマイチ意味不明。

教祖と公安が仲良しこよし?

ここまで長ったらしく書きましたが、いよいよツッコミもラストになります。前述のように主人公・新田良太は公安のドジっ娘に仕事を依頼される。偽造パスポートを見過ごしてもらってるので、半ば強制的。その仕事内容が、ある新興宗教の教祖を護衛してくれというもの。

マージナルオペレーション4巻 武装カルト
(4巻)
ただ新興宗教とは言っても、手榴弾や改造銃を保持してる武装カルト集団。これに公安がお金を払って非合法活動をさせていた。でも信者は信仰心から活動していたものの、教祖だけは公安からたっぷりとお金をもらっていた。その事実が明るみに出ると信者がファビョーンと爆発して、教祖が狙われているという状況。

じゃあ何故公安が教祖を守るかというと、「警察に公安調査庁の存在・これまでの活動がバレちゃいけない」から。

武装カルトですから、どんな非合法活動かは何をか言わんや。ただ逮捕権もないのに、こんなことしちゃうのかよっていう疑問。それこそ派手な破壊活動をさせておいて、そのカルト集団を警察が把握していないということも考えづらい。むしろ警察が先に動いとけよって話。

「警察にバレちゃ困る」という理由や発想からして、自民党のネトウヨ武藤某氏のように実に利己的。そこには日本の治安という概念は一切ない。少なくとも、警察庁にも外務省にも防衛省にも似たような組織があって、「日本を守ってるのは私達(キリッ」とBBAが言ってるものの、実際は守備範囲が重なる「公安」同士で反目しあってるのが現実でしょう。

主人公・新田は「日本国に害をなす存在を共食いさせてる」と公安のこの作戦を評価。ただそこら辺の活動家や政治家の内ゲバを煽ってるだけならまだしも、新田良太たちも結局はこれから武装化するわけで、言っちゃえば公安がヤクザの抗争の火種を自ら作ってるようなもの。

最近、山口組の分裂騒動が世間を騒がせてますが、いくら結果的にお互いの勢力を潰し合えたとしても、街中でドンパチやられちゃ市民はたまったもんじゃない。

それを「日本の治安を守ってるのは私たちよ(キリッ」とアホ面でドヤってる公安が『国家天下』を語る滑稽さ。
マージナルオペレーション4巻 公安
(4巻)
前述の公安BBAのドヤ顔をもう一度貼っておくと「スパイごっこに酔いしれてるだけ」という表現がよく似合うと思われます。

総合評価

マージナルオペレーション3巻ぐらいまではフワッと読めましたが、4巻の日本編以降はうーん。海外での話だったら話半分で聞き流せますが、さすがに日本国内でとなると失笑が漏れることも。「お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではな」という表現がピッタリ。

ゲート自衛隊』もそうですけど、「俺リアリストだから世界の現実語っちゃうぜ~」的なスタンスが要所要所で見えるのが痛々しい。ゲート自衛隊のレビューでは「フィクションやファンタジーにリアルな視点を持ち込むな」という擁護になってるのか、なってないのか分からないコメントも来ましたが、少なくともマンガの中では『これが現実(ドヤァ』とキャラクターが語ってはいるので、せめて作者本人の妄想はもっと抑えてところ。

この程度の子供だましだったら、大人しくテキトーにドンパチやってたら?っていうのが本音。

◯展開★3◯テンポ★3.5
◯キャラ★3.5◯画力★3.5
◯全巻大人買い★3.5
◯おすすめ度…77点!!!!