『ラストニュース』全7巻のネタバレ感想。原作は猪瀬直樹、作画は弘兼憲史。1990年代前半にビッグコミックオリジナル(小学館)で連載されていた報道漫画。何年か前に猪瀬直樹がこの作品のパクってると、どこかのテレビドラマの脚本家を批判してました。

あらすじ

主人公は、CBSというTV局の報道番組「ラストニュース」のプロデューサーを務める日野。それが自戒を含めて、「報道の責務とは何か?」みたいなことを掘り下げて、既存の新聞やTV局を痛烈に批判してる内容。個人的には的を射た正論ばかり書かれてると思う。

既存マスコミに対する批判

例えば1巻だと、ラストニュースのスタッフが疑惑の人物に対して、カメラを向けてしつこく取材を行う。未だに報道番組や情報番組で見られる手法ですが、当然その人物は激昂。カメラを蹴ろうとする。

でも、ラストニュースのスタッフはその映像を使用。更にこき下ろす番組を作ろうとした。でもそんな部下に対して、主人公の日野が叱責。
ラストニュース1巻/おとり取材
マスコミは問題提起する義務はあっても、人を裁く権利はない」。

最近実名・顔写真報道をした朝日新聞が訴えられて、残念ながら被告は負けてしまいましたが、誤認逮捕に対しても日野は言及。
ラストニュース1巻/誤認逮捕
その容疑者を顔写真入りで報道したマスコミは全く責任がないと言えますか?
個人的にコレはつくづく思う。まだ事実が明らかになってない段階で、新聞やテレビは何の権限があって実名や顔写真を報道するのか。

ただ書類送検の場合は実名報道をしない。でもこの書類送検は、警察官が犯罪を犯したとされる場合に多い。そのことに繋がる批判も展開されてる。

ラストニュース5巻/警察発表を鵜呑み
それがマスコミは「警察発表を鵜呑み」してるところ。「速報性」という美名の下、朝日新聞だけに限らず読売・毎日も含めて、特に事件報道については丹念な取材もなく報道されてるのが現実。未だに自省が一切見られないのは残念。

ラストニュース7巻/無批判に政府の情報を垂れ流す
最終7巻ではマスコミが政府の情報を垂れ流すことについても批判。例えば福島原発事故では、そのまま政府民主党の情報を垂れ流してだけだった記憶。最近だと自民党の特定秘密保護法について、ほとんど批判的な報道をテレビで見かけることはなかった。

特にNHK。これまでは「強行採決」という表現を普通に使ってたのに、今回の自民党の強行採決では「成立」という表現を使ってた。NHKは放送法の影響下にあって、「不偏不党」という表現が権力側によって恣意的に用いられがち。そのことについて、猪瀬直樹はこんな見解を作中で述べている。
ラストニュース5巻/放送法
不偏不党とは、権力者の意見に左右されないこと
権力者とは、基本的には議席を持ってる『与党側』。安部総理が百田尚樹あたりを経営委員に任命したことも影響してるのか、正直NHKの報道はポンコツそのもの。いや、民放テレビ局でも同じか。

もちろん、そういう左側の側面からのアプローチだけではなく、例えば4巻だと「声高にハンタイハンタイと叫ぶのはただの正義の商品化」みたいなことも書かれてる。

予想はハズレ

ストーリーとしては最終的に日野がCBSを追われる。

ラストニュース7巻/衛星テレビ放送
そして衛星放送を利用したケーブルテレビ局でニュース専門チャンネルを作る。要するに猪瀬直樹的には公共の電波を利用した、TV局以外のニュース番組やニュースコンテンツが隆盛を誇るだろうという予想(願望も含む)を立ててた。一応最近はTV局もケーブルテレビを利用した報道番組を作ってるようですが、結果的にはハズレ。

やはり、この漫画が連載されてた時期を考えると、1990年代初め頃にはインターネットという存在がなかった。厳密にはパソコン通信はあったんですが、10年ちょっとでここまでネット環境が整うとは猪瀬直樹も含めて誰も予想してなかったはず。

だから予想が外れたとしても、そこらへんは許容範囲内かなと思う。掲載時期がもう数年だけズレていたら、また違ったオチになってた気もする。

言論の自由とは何か?

猪瀬直樹と言えば、なにかとお騒がせだった元都知事。5000万円をカバンに詰め込むのを失敗するコントには爆笑しました。でも本来の職業は物書きだった。1990年台はまさに物書きとしてバリバリ働いていた時期。その猪瀬から弘兼憲史に対して熱烈なラブコールを送ったことで実現したのが、この『ラストニュース』という漫画。

だから作品的には20年以上前だから相当古い。でも、内容的には現在のマスコミに通じる批判も多くて、また弘兼憲史の絵柄も相まってそこまで「古臭さ」は感じさせない。正直あまり共作したマンガは面白くないんですが、これは二人が見事にシンクロして良い相乗効果を生んでるマンガ。

じゃあこの漫画の根底に何があるかと言えば、「言論の自由とは何か?」という猪瀬直樹なりの疑問。1巻のあとがきで猪瀬直樹が語ってるので軽く紹介。

メディアは公権力の検閲・監督されるものではない
先進国では安易にメディアを規制して解決する方策は取らない
などなどすごく共感できる内容。画像を貼ろうと思ったんですが、ムダに縦長のサムネイルになったので止めました。作品では終始こういったテーマ性が眠ってて、読んでていろいろと考えさせられるものはたしかにある。

総合評価

でも、だからこそ猪瀬直樹は副都知事時代に『青少年非実在ナンチャラ条例』を作ったんだという疑問は強く覚える。そのあとがきが書かれたのは、たった10年ちょっと前。

『権力は蜜の味』と言いますが、副知事となり都知事となり政治家として権力を得たことが、猪瀬直樹という一人の人間をここまで変えてしまうのか。改めて権力の恐ろしさとともに、権力を抑えこむチカラや勢力の必要性も痛感させられる。

自ら表現の自由や言論の自由の大切さを謳っておきながら、自らが率先的にそれを蹂躙する。また新聞やテレビ局など大手マスコミを痛烈に批判しておきながら、その新聞の王道とも呼べる『朝日新聞』にすっぱ抜かれて寝首をかかれる始末。

猪瀬直樹の政治家としての経歴や一連の顛末が、この作品のクオリティーを全て台無しにしてしまってる。もはやそれは「無様」以外のなにものでもない。皮肉を込めるなら、そういった茶番劇もこの漫画があってこそ喜劇として更に面白くなったと言える。


◯展開★4◯テンポ★4
◯キャラ★3◯画力★3
◯全巻大人買い★4
◆85点!!!!