『コウノドリ』2巻から12巻のネタバレ感想。作者は鈴ノ木ユウ。モーニング(講談社)で連載中の医療漫画。『コウノドリ』1巻のレビューはFC2で随分前に更新済み。ただライブドアでは「コウノドリが面白いマンガかどうか」の考察記事を書いてみようかなと思います。

この『コウノドリ』はカッコいいんだかイマイチ分からないルックスの綾野剛が主演で実写ドラマ化もされまして、最終回の視聴率は12%ちょいだったそう。これで高視聴率と評価されるんだから、昨今のテレビも大分落ちぶれた印象が改めてしますが、果たして原作漫画版は面白いんでしょうか?


あらすじ

主人公はペルソナ総合医療センターに務める産科医・鴻鳥サクラ(こうのとり さくら)。ベイビーというピアニストとしても活躍してるんですが、基本的にストーリーには大きく絡んでこないので記事では割愛します。つまり漫画タイトルの『コウノドリ』は主人公の名前でもあります。

産科医不足と言われて久しいですが、出産現場はかなり過酷らしい。考えてみると赤ちゃんはいつ何時産まれてくるか分からない。当然、喫煙する妊婦さんがいたり、定期的に検診をしない妊婦さんなど、色んな背景や事情を抱えた患者が多く駆け込んでくる。

そういった出産現場において、鴻鳥サクラが「新しく誕生する生」と日夜向き合う物語が描かれます。様々な人間ドラマが織りなされる中、一体その先に何が待っているのか?同じ産科医の下屋やツンデレ四宮、救急救命医の加瀬、助産師(看護師)の小松といったキャラクターの奮闘劇も見ものな医療漫画となってます。


赤ちゃんが誕生する喜びと…

『コウノドリ』は産科医を扱った医療漫画ということで、出産シーンが描かれることが多いです。

コウノドリ5巻 出産シーン
(コウノドリ 5巻)
作者・鈴ノ木ユウはキャラクターの表情を描くのが上手いので、しっかり感動的な場面に仕上げることができてます。出産というイベントには、言葉では明確に表現できない感動ってあります。

コウノドリ11巻 シリアス 西山 死産の分娩
(コウノドリ 10巻)
ただ赤ちゃんが無事産まれる妊婦さんばかりではありません。何事にも光があれば影がありますが、出産は意外に危険が伴って死産を経験してる方も世の中には多いそう。それ故に、赤ちゃんが無事産まれることは奇跡に近い。このコントラストが漫画作品としての深みを作れているかも知れません。画像も朝方のシーンで、病室に差し込む朝日が神々しいのが何とも切なさを誘います。

コウノドリ4巻 赤ちゃんと引き換えに母胎が死亡
(コウノドリ 4巻)
一方で、母胎であるお母さんの方が危なくなる場面も多くて、父親が究極の二者択一を迫られるシーンでは奥さんの意思をくんで赤ちゃんの命を選択する。本来は嬉しいことのはずなのに、読後感には何とも言えない余韻が後を引きます。

結局助かったものの子宮を全て摘出しなければいけなくなった母親のクダリでは、精神的にズーンと落ち込むのかと思いきや、
コウノドリ5巻 子宮全摘術
(コウノドリ 5巻)
私…生きててよかったです」と涙ながらに鴻鳥サクラに語る。確かに子宮などは女性にとって大事な部分ですが、死んでしまったら自分の子供を育てられない。元も子もない。絞り出すように無意識的に出たセリフ。奥深い人間の感情をサラッと表現できてる気がします。

コウノドリ6巻 口唇口蓋裂
(コウノドリ 6巻)
口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)という先天的な異常を負った赤ちゃんを妊娠した母親が、ネット上で画像を検索して驚く。出産してもちゃんと愛せるかどうか不安になる母親。確かに見た目で相当インパクトがありますが、500人に1人ぐらいの割合で産まれるらしい。

コウノドリ6巻 口唇口蓋裂のババアの笑顔
(コウノドリ 6巻)
でも祖母が笑顔で「かわいいねぇ」。BBAの表情力がヤベー。BBAの安心感がヤベー。思わずホロリと来ます。父親も「親が自分の子供を愛せねぇわけねーだろ」と笑顔でニコッ。ちなみに口唇口蓋裂は基本的に成人するまでに完治するっぽい。

後述もしますが気持ちが沈むようなネタも多いんですが、結果的に読後感が悪くない。これは希望や未来に溢れた赤ちゃんを出産するという行為が、きっとそうさせてくれるに違いないと思います。


鴻鳥サクラのセリフにグッと来る

だから作者・鈴ノ木ユウはセリフを作る力があって、主人公・鴻鳥サクラのセリフも力強くて、どこか優しさもある。

例えば新生児科の白川先生が、36週ぐらいで陣痛が来た妊婦さんに「私はいいから赤ちゃんは絶対助けて」と懇願される。でも白川先生は「大げさだなぁ」とボヤく。それを聞いた四宮先生が白川先生の足を思いっきり踏む。この妊婦さんはかつて死産を経験してて、その担当医だったのが四宮先生だった。

基本的に四宮先生は性格が性格なので嫌われ者なんですが、珍しくと言うか鴻鳥サクラは擁護する。
コウノドリ5巻 鴻鳥サクラのセリフ力
(コウノドリ 5巻)
「赤ちゃんの両親はみんな自分の命よりも大切な命を僕らに預けるんだよ」
「大げさに心配して何がおかしい?」
。思わずグッと来ました。

ただ白川先生は白川先生でしっかりとした事情があった。新生児集中治療室(NICU)では助けられない未熟な赤ちゃんも多く目にしてる。だから生死の境目がキワキワな状態でもない限り、ちょっとしたことで妊婦さんは大きく騒ぐなよ…的な考えが自然と芽生えてた。精神的肉体的にも疲弊することも影響していたのかも知れない。

そこで鴻鳥サクラは言ってあげる。「赤ちゃんは苦しいとか言えないけど、聞こえないその声をちゃんと聞いてあげられるのは新生児科医しかいないんじゃないかな」と笑顔でニコッ。ほれてまうやろー。

コウノドリ7巻 NICUは赤ちゃんを育てる場所
(コウノドリ 7巻)
そのNICUに対しても「赤ちゃんを育てる場所」と表現する鴻鳥サクラ。画像は大原という未熟児を産んだ母親に対して語った場面。大原は「こんなに小さな赤ちゃんたちの病気を治す場所があったなんて…」と言うんですが、単に未熟だから自分でできることが少ないだけ。これは病気とは言わない、ということ。確かに言われりゃそうだよなと。

最近は「無痛分娩」という出産方法が流行ってるとか流行ってないとか。ただこれが意外にハードな方法で、背中から脊髄神経の近くにある硬膜外腔に麻酔を直接ぶち込むらしい。ある妊婦は早めに出産しないと母胎が危ないってことで、鴻鳥サクラはこの無痛分娩を勧める。

ただこの妊婦は「自然に産んだ母親の愛情には絶対かなわないもん」と友達の母親に言われる。「自分のお腹を痛めてこその出産」という価値観は特殊とまでは言い切れませんが、世の中の母親(祖母も?)ってやたらと独自の理論や理屈を持ちたがりますよね。

コウノドリ10巻 無痛分娩の正体
(コウノドリ 10巻)
そこで鴻鳥サクラは言う。「その友人のバカバカしいデタラメ話のせいで、二つの命を危険にさらすことはできません!」。普通は誰かの友達を批判するのは非常識ですが、赤ちゃんの生命に代えられるものはない。非常識な価値観には時として屹然と立ち向かう姿は清々しい。


小気味良いオムニバス

医療漫画は意外にストーリーものが多いイメージですが、『コウノドリ』のストーリー構成は基本的に一話完結のオムニバス。2話3話と続くパターンも少なくないですが、ストーリーものとまでは言えないので、雑誌(モーニング)でもいつから読み始めても問題なく読めます。それ故に単行本コミックではテンポ感があって小気味が良い。

またネタ(症状や背景など)も幅広い。何故なら、妊娠はスタートでもないし、出産がゴールでもないから。

例えば、5巻だと卵子提供の話があります。年齢や病気の問題もあって、「正常」な性行為で妊娠できない夫婦も世の中には多い。だから『コウノドリ』では妊娠するために奮闘する夫婦が描かれることもあります。妊娠がスタートだと思いがちですが、実際にはそれ以前にスタートが存在する。

2巻だと未成年の中絶。親に黙って病院を受診しにきた女子高生の話なんですが、これも厳密には妊娠する直前に問題がある。

鴻鳥サクラは作中で何の責任も取れない女子高生の母親に対して、とうとうと冷静に説教する。「初期の人工妊娠中絶は手術です。中期の人工妊娠中絶はお産です」というセリフはズシンと来ます。ちなみに後期まで進むと、赤ちゃんは完全な人間なので中絶できないっぽい。

そして妊娠させた男の子側の父親の「こんなもん書かせるんじゃねーよ!」と涙ながらに説教する場面もグッと来ました。中絶するための同意書を書かなきゃいけない親の気持ちを考えると切なくなります。本来は孫ができることほど嬉しいことはないですからね…。

コウノドリ8巻 産後鬱
(コウノドリ 8巻)
また出産しても「産後鬱」にかかってしまう母親もいたりします。「赤ちゃんを絞めころす」というショッキングな場面もこのクダリでは描かれたりしてます。赤ちゃんは出産してもゴールではなく、いかに育てるかが本番。そこでつまづいてしまう母親も世の中には多いわけです。

『コウノドリ』10巻だと切迫早産で母親が入院してしまう。そうなると父親は一人で家事も育児もしなきゃいけなくなる。しかも仕事では残業などが強いられて、一時的ならいざ知らず中長期的に同僚や部下に手伝ってもらえない。当然いっぱいっぱいになって子供に八つ当たりするなど、父親視点で物語が描かれることもあるので男読者でも共感できる部分も多いです。

コウノドリ12巻 肥満は大敵
(コウノドリ 12巻)
現地点で一番新しい最新12巻だと「妊娠出産の主役は母親。どんなに協力的な父親だって脇役にしかなれない」というセリフは言い得て妙でグッと来ました。ちなみに画像はブクブク太りまくる母親に対するセリフ。肥満ほど出産のリスクを高めるものはないらしい。そこの妊婦さん、是非気をつけましょうね(笑)

だから『コウノドリ』は出産妊娠というテーマを多角的にとらえて、シビアだけどラストはどこか温かく描かれるような医療マンガだと言えます。


総合評価


鴻鳥サクラの髪型から奇をてらってる印象を受けますが、展開はしっかりしてて読み応えがあります。12巻時点でも勢いが失速せず、安定して面白いと言えます。またストーリーの流れの中に様々な症例をしっかり組み込めて、鴻鳥サクラが患者に説明するかのように平易な表現を使ってるので疲れない。『コウノドリ』は医療漫画としても良質

コウノドリ3巻 妊婦と交通事故
(コウノドリ 3巻)
また自動車に轢かれそうになる妊婦さんなど、絵的に派手なシーンもたまにあります。

コウノドリ12巻 緊迫感
(コウノドリ 12巻)
救急車で搬送されてくる妊婦さんの場面などは緊迫感が溢れてます。地味に赤ちゃんを取り上げてるかと思いきや、たまにこういった「見せる場面」が不意にやって来るので意外に引きこまれます。

綾野剛も配役としてピッタリですし、今の落ち目のドラマ業界には重宝されるはず。テレビの視聴率不振も極まってるので、きっと実写ドラマの二期もあるはず。ネタも豊富ですので三期四期まで続く可能性も十分有り得そう。ただ『海猿』のような結末にならないことを望むばかりです(笑)