『健康で文化的な最低限度の生活』1巻から3巻のネタバレ感想。作者は柏木ハルコ。ビッグコミックスピリッツ(小学館)で不定期連載中。

最近また連載がスピリッツの方で再開したようですので「健康で文化的な最低限度の生活は面白いのか?」という考察感想記事をレビューしたいと思います。


あらすじ

主人公は義経えみる。大学卒業後に公務員になる。

健康で文化的な最低限度の生活1巻 福祉保健部生活課
(健康で文化的な最低限度の生活 1巻)
そして配属されたのが福祉保健部生活課。いわゆる「生活保護(ナマポ)」を扱った部署。そこで主人公・義経えみるはケースワーカーとして働くこととなる。しかし自分が担当するのは110世帯以上。そして生活保護受給者の様々な人生やナマポの実態を知ることとなる…みたいなストーリー。

義経えみるが最初に対面した事件は、平川という受給者。「これ以上 役所にご迷惑おかけして生きるのもしのびないので 今までありがとうございました」と自サツをほのめかす電話をかけてくる。平川の親戚に電話をして安否を確かめようとするものの、親戚は「いつものこと」と素っ気ない返事。何となく安心する義経えみる。ただ翌日に平川の死を知るハメになる。

健康で文化的な最低限度の生活1巻 義経えみる1
(健康で文化的な最低限度の生活 1巻)
ショックを受ける義経えみるに対して、先輩のケースワーカーから「ここだけの話。1ケース減って良かったじゃん」と慰められる。その優しい言葉(?)に涙を浮かべる義経えみる。

健康で文化的な最低限度の生活1巻 義経えみる2
(健康で文化的な最低限度の生活 1巻)
ただ確認のために平川の家に足を運ぶと、平川が「必死に生きた痕跡」が数々あった。そこには「1ケース」という無機質な数字の響きとは異なる生々しい人間の姿が確実にあった。そして「この人、生活の工夫して生きてる。してるよ、生きる努力。国民の血税だろうが、それ言っちゃあ何か大切なものを失う…気がする」と義経えみるは気付く。

だから『健康で文化的な最低限度の生活』はナマポを批判的にとらえた紋切型の漫画ではなく、ナマポの実態を健全に問題提起してるような漫画。少なくとも、面白くもないテレビ番組で報道されるような薄っぺらい内容ではありません。


生活保護(ナマポ)受給者の色んな実態

生活保護受給者と言っても、色んなケースバイケースがあります。

健康で文化的な最低限度の生活1巻 ナマポ受給者1
(健康で文化的な最低限度の生活 1巻)
刺青をしている若い兄ちゃんや、一見するとピンピン元気そうな老人。義経えみるに対しては、「お前が新担当の義経か。よろしく頼むな!」と馴れ馴れしくて横柄。

健康で文化的な最低限度の生活1巻 ナマポ受給者2
(健康で文化的な最低限度の生活 1巻)
あるシングルマザーが生活保護の相談をしている最中に、その娘とおままごとしている義経えみる。でも娘が母親役をやってるものの、「何してるの?私の言うことが聞けないの?どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの!私は本当はパパと暮らしたかったのよ!アンタさえいなければ…」みたいなことを延々と口走る。どういう家庭環境に置かれてるかは明白。

健康で文化的な最低限度の生活1巻 岩佐
(健康で文化的な最低限度の生活 1巻)
岩佐というシングルマザーは元夫のDVが原因で離婚したものの、PTSDにかかってる長時間働き続けることができない。それでも無理して就労し続けた結果、更に病状は悪化した。「私は生活保護なんか受けたくない」というセリフからは、そういった性格が読み取れます。シンママということで尚更舐められてたまるか、みたいな気負いもあるのかも。

中林というオッサンは字が読めない。いわゆる文盲。給料不払いなど周囲から何度もダマサれた経験があった。軽度の知的障害があっても教育を受けたら、少しぐらいは読み書きができるので、おそらく家庭の事情で教育を受けることができなかったんだと思われます。

それを知らずに…知ろうとせずに、口頭で求職活動をするように指導してた新米・栗橋。栗橋の中では「ダラダラと怠惰な日々を過ごすために使ってる受給者がいる」という考えが根強かった。主人公・義経えみるも含めて大卒者が多い感じなので、こういった人がいる事実を知らない方が自然かも。

ケースワーカーが「話を聞いて」あげて生活保護受給者の実態を知ることで、ようやく支援が始まることもあります。

健康で文化的な最低限度の生活1巻 阿久沢
(健康で文化的な最低限度の生活 1巻)
例えば阿久沢という元中小企業の社長は借金漬けの日々。義経えみるが自宅へ訪問したことでそれが発覚。

健康で文化的な最低限度の生活2巻 阿久沢2
(健康で文化的な最低限度の生活 1巻)
でも義経から法テラスへ相談するように持ちかけられて、そこで借金を返済するどころかいわゆる過払い金が戻ってくる可能性が高いことを知らされる。それまでオドオドしてたものの、憑き物が落ちたように明るく毅然とした表情に変化。生活保護をもらっていたことに対しても「申し訳なさ」を感じてて、それを受け取らなくていいという安心感もあったのかも。

健康で文化的な最低限度の生活3巻 扶養紹介書?
(健康で文化的な最低限度の生活 3巻)
生活保護を申請するとその親族に「援助してもらえませんか?」という扶養照会書が役所から送られる。でもビリビリに破られて役所に送り返されたりすることもある。画像は母親がナマポを申請したものの、その息子はその母親に苦労させられた。「今更、もう勘弁してくれ。ましてやプライバシーを何故根掘り葉掘り話さなければいけないのか」という怒りがこめられてる。

健康で文化的な最低限度の生活3巻 島岡 医者の息子
(健康で文化的な最低限度の生活 3巻)
島岡という青年がナマポを申請したものの、当然扶養照会書が親に送られるわけですが、それを頑なに拒んでる。この理由は4巻以降になりますが、少しネタバレしておくと島岡は父親に幼い頃から性的な虐待を受けてた。

ナマポに頼ってくる以上、大きな問題を抱えてる人が多い。そこを役所がズケズケと上がり込むことが正しいのかも考えさせられます。他にも昔は年収2000万円あって遊びまくってたオッサンなど、リアルな生活保護受給者の実態や背景が描かれている気がしました。だからこそ読んでて共感や反発を抱くことができます。

少なくとも、喜んでナマポを貰ってる人は少ないのは実感させられます。金額的にも生活するのにギリギリなレベル。ケースワーカーに根掘り葉掘り見せたくもない腹を探られる。やはりミジメさを感じるのが普通ですし、むしろ貧しいからこそ貧しいなりにプライドがある。「税金で飯を食わせてやってるんだから」という態度で接すると何も解決されないんだろうなと。


最低限度の生活こそが働く意欲を奪う

厚生労働省によれば生活保護の不正受給は全体の0.5%。2012年度だと190億円ちょいあったそう。新聞やテレビを見てると「どうせパチンコだろ」程度にしか思いませんが、これについても考えさせられます。

それが「日下部さとみ」という主婦。認知症のおじいちゃんを看護しつつ、中学生と高校生の子供を2人育ててる。でも高校生の息子が回転寿司屋でアルバイトする。結果的に役所に申告してなかったということで「不正受給」と判断される。しかもこれまで働いたバイト代を全額役所に返還せざるを得なくなる。
健康で文化的な最低限度の生活2巻 日下部さとみの息子
(健康で文化的な最低限度の生活 2巻)
日下部の息子は回転寿司屋で働きながら「俺は何のために働いてるんだ?」と頭がグラグラ。じゃあ、これを不正受給だとして簡単に非難することができるのか?

しかも仮に役所に申告していたとしても、バイト代の半分ぐらいは国に徴収されてしまうそう。もし日下部の息子が大学や専門学校へ進学したい or 自動車免許を取得したいと思っても不可能。じゃあ学費や運転免許取得代を国が払うのか?

もちろん生活保護世帯が一人だったら「働いた分の金は返済しなさい」という理屈は通じることはあると思いますが、複数人の世帯だった場合は色んな事情が考えられるわけです。これじゃあ貧困が連鎖していくのも当然でありましょう。次のステップに進むためのお金を国や政府に奪われて、どうやって這い上がればいいのか?

「健康で文化的で最低限度の生活」とは、まさに「最低限度の生活」でギリギリ生きることを問答無用で強制される。少しでもお金を稼いでしまえば犯罪。もはや「生活保護受給家庭は働くな」と宣告してるに等しい。

生活保護(ナマポ)は「現金をもらえるから働く意欲が奪われてる」なんてアホな新聞やテレビは宣伝しますが、むしろ真逆。お金を稼いだら稼いだ分だけ役所に奪われる。当然、前述のように事情を抱えた人ばかりですから長時間働き続けるのは難しい。時給700円800円で数時間働いても稼げる金額は知れてる。

まさに「中途半端に働いては役所に稼いだ賃金を全て搾取される」という仕組みの中で、「働く意欲を持って下さい」と言ったところで不可能ってもん。これでどうやって働く意欲やモチベーションを上げるのか?


生活保護受給者はパチンコをしたらダメか?

生活保護受給者はパチンコをするなという新聞記事を読みましたが、そもそも生活保護は無一文の人ばかりではない。先程説明したように自分で何万円か稼いでるケースもある。例えば国民年金は満額でも7~8万円ぐらいしかもらえないので、残りの数万円分を生活保護費から貰ってる高齢者も多い。

つまり「ナマポ=全部税金」というわけでもない。だから自分のお金でパチンコをしようがなにをしようが自由。もちろんパチンコ産業には賛否両論ありますが、少なくとも法律で認められた公的な娯楽。尚更文句の付けようはなく、これが競馬だったらオッケーなのか?じゃあ酒だったらオッケーなのか?漫画だったらNGなのか?基準が曖昧。

せめて生活保護受給者がどういった状況に置かれているか丹念に取材しているならまだしも、産経新聞や読売新聞程度の取材は片手落ちばかりで、煽るだけ煽ってリアルの実態は何も伝わってこない。こういった主張は短絡的と言わざるを得ない。

「不正受給」とはいっても想像していたのとは違うリアルがある。もちろんタクシーの領収書を偽造したとかそんなレベルの話は別ですが、最低限度の生活で「健康」で「文化的な生活」な生き方をするのは難しいということ。当然ナマポ受給者が楽な生活を送ってるはずもない。

つくづくマスコミは漫画程度に負けてて悔しくないんでしょうか。新聞記者やテレビマンは鼻クソ食ってるだけじゃなくて、もっとマトモに仕事をしてほしいなとつくづく思います。考えてみると、甘利事件などスクープは全部週刊誌発信。まさにテレビや新聞は政府などに媚を売ってお尻をフリフリしてるだけの「ケツ舐めジャーナリズム」。

日本テレビ系の『NEWS ZERO』などは「国会で政策論争を」と叫びますが、まずお前らが政策で日本政府や時の政権に対して追及できてねーだろって話。これを叫んだ当日に、官房長官のイメージビデオなんか放送してたのは爆笑しました。視聴率が欲しければ、おとなしく桐谷美玲のビキニのイメージビデオでも流してろよ。「お金を持ってるのに仕事をしてない」という点では、テレビマンや新聞記者は最も恥ずべき人種でありましょう。


総合評価


『健康で文化的な最低限度の生活』の感想としては、作者・柏木ハルコは丹念に色々と取材してるのが伝わってきて、また生活保護に関する実態を描こうという真摯な姿勢が垣間見れるので、新聞やテレビなんかより「生活保護の実態」を知ることができます。もちろん内容はフィクションではありますが、程よいデフォルメもあって、しっかり漫画としても面白い。

健康で文化的な最低限度の生活2巻 福祉課の情熱
(健康で文化的な最低限度の生活 2巻)
ケースワーカーも良くも悪くも想像以上に意気込んでる部分など、凝り固まった価値観を変えてくれるパワーが詰まってます。むしろ「働け働け」の一点張りの職員を見るとイラッと来ることも。

ナマポは「緊急の時だけ使え」と言われますが、福祉事務所は申請者の現在の資産や収入だけではなく、申請に至る経緯や扶養義務者などについても調査をするため、実際に支給するかしないか判断するために「2週間から1ヶ月ぐらい」の時間を要するそう。

でも「申請から支給までに時間がかかりすぎ」というのは誰の目からも明らか。それこそこんなもんに従ってたら餓死しちゃう。むしろナマポは「予防的に受給する」必要がある。これは大きな矛盾を抱えてると言えるでしょう。

また既に保有する資産の活用を求められるので、まだ土地や株式などは分かりますが、自家用車も一般的に売る必要があるらしい。ナマポ受給者は就労することがゴールなのであれば、なおさらクルマは保有してた方が良いに決まってる。簡単に売ると言っても、自動車の買取価格は5年を目安にグーンと下がってしまう。その数十万円の端金を得ることにどんな意味があるのか。ナマポ受給者の「自由を奪ってしまう」ことが、果たして効率的な支援や税金の節約に繋がっているのか?

もし現金を支給したくないのであれば、税金や保険に関する免除を大幅に拡大するのも一つの手。月の手取りが10万円ぐらいでも一切何の負担もなかったら割と余裕で一人では生きていける。ただ生活保護を受給するレベルにならないと、そういった負担が免除がされないのが日本の現実。NHKの受信料なんて最たる例。大して面白くないドラマや番組を量産しやがって。籾井勝人の面白くもない道楽に付き合わされる貧乏人は堪ったものではない。

…などなど生活保護について色々と考えさせられる内容であります。我ながらクソ長いだけのレビューでした。ちゃんちゃん。