『喧嘩稼業』1巻から6巻のネタバレ感想をレビュー。作者は木多康昭。掲載誌はヤングマガジン。出版社は講談社。ジャンルは青年コミックの格闘漫画。いわゆる『喧嘩商売』の続編。この『喧嘩稼業』がめちゃめちゃ面白い。

そこで面白いかつまらないか徹底的に考察してみた。


あらすじ内容・ストーリー物語

主人公は佐藤十兵衛。ちょっとお茶目な高校二年生。ただ実態は最弱にして最強の喧嘩屋だった…みたいなことなんですが、冒頭でも書いたように内容は『喧嘩商売』の続編。

だから『喧嘩稼業』のストーリーとしては、田島彬が開催した「陰陽トーナメント」が本格的に始まります。いわゆる総合格闘技で優勝賞金はなんと200億円。もちろん佐藤十兵衛の師匠である富田流・入江文学や、因縁のライバルである工藤優作も当然登場します。

作中ではバーリトゥード・トーナメントといった表現がされていますが、「Vale tudo(バーリトゥード)」とはポルトガル語で「何でもあり」という意味。まさにこの言葉が象徴するような、えげつない格闘描写が展開されます。


登場人物キャラクターが個性的すぎる

『喧嘩稼業』に登場するキャラクターが個性的で魅力的。面白いマンガはやっぱりキャラクターが重要。

喧嘩稼業1巻 キャラクター
(喧嘩稼業 1巻)
画像の金隆山康隆は843勝無敗の大横綱、関修一郎は日本最強の柔道家、反町隆広は猪木の首もへし折るKYプロレスラー、三代川祐介は般若心経で鬼神と化す召琳寺拳法家。

他にも上杉均は進道塾が誇る喧嘩王、梶原修人は梶原柳剛流の隻腕の剣豪、佐川睦夫は孤高の殺戮兵器、佐川徳夫は天才日本拳法家、里見賢治は中国拳法家、櫻井裕章は前向性健忘を患うシラットの使い手、カブト(阿南優太)は優しき罪人の覆面レスラー、芝原剛盛は真球をも倒す合気道家、川口夢斗は防御不能の蹴り技を持つ最強キックボクサー、石橋強は自動車で轢かれてようやく倒れたことがあるヘビー級世界最強プロボクサーなど数知れず。

「陰陽トーナメント」の主催者である田島彬からして最強にぶっ飛んでる。進道塾に入門していたものの、最強の師範だった山本陸を不意打ちで襲い掛かって左目を潰して倒す。山本陸は素手で熊を殺したこともある。

入江文学の父・入江無一と戦って頭蓋骨を陥没させて死に追いやったり、勝つためだったら手段を選ばない。アメリカではボクシングヘビー級チャンピオンに輝いた時も、深謀遠慮を働かせて対戦相手のウォーレン・ウォーカーをフルボッコ。

そして最大にクレイジーなのが、田島と思しき人物が地下格闘技において対戦相手を殺害した動画がインターネット上に出回っていた。顔はモザイクがかかってハッキリとは分からないものの、そこには薄っすらと笑みを浮かべていることだけは分かった。

…という感じのキャラクター紹介を前作『喧嘩商売』では延々とやってた。めちゃめちゃ個性的なキャラクターたちだったからこそ期待が膨らんだものの、長期休載に入ったことも手伝い設定作りで終わってる「出落ち感」も強かった。

ただ『喧嘩稼業』の連載が開始していざフタを開けてみたら、これらのキャラクターが見事に動く動く。キャラクターの個性をしっかり活かして、期待値以上に立ち回ってくれているのは良い意味でサプライズでした。

喧嘩稼業3巻 石橋強 無意識のアピール
(喧嘩稼業 3巻)
最強ヘビー級ボクサー石橋強だと、こう見えて究極のドエム。「本気の戦いはセ◯クス」を自負してて、佐藤十兵衛から殴られる度に興奮が止まらない。だから試合中にビンビンにたっていく。主人公・佐藤十兵衛曰く、「戦う前にフルボッキしたら爆笑するが、戦っている最中にボッキしだしたらクソ怖い」。

喧嘩稼業6巻 工藤優作 燃えるぜ
(喧嘩稼業 6巻)
工藤優作の「燃えるぜ」も健在。


そういった登場キャラクターが抱えている背景や特徴を知っておくと更に面白いです。

ちなみにこれは『喧嘩商売』で収録されたエピソードを寄せ集めただけですので、いわば総集編みたいなもん。『喧嘩商売 最強十六闘士セレクション』ではなく『喧嘩稼業 ゼロ章(最強十六闘士セレクション)』と改変した方が分かりやすかったか。

だから既に読んだことがある人は改めて購入する必要はありません。ただ『喧嘩商売』ではぶつ切り的にエピソードを並べただけだったので、ものすごく読みづらい。でもエピソードがまとめてある分だけ再確認しやすい。価格も400円ちょいなので別に買っても損しません。


容赦ないナンデモアリッッ!!!

『喧嘩稼業』はまさにナンデモアリの格闘技。

喧嘩稼業5巻 工藤優作 失明
(喧嘩稼業 5巻)
例えば、目潰し。画像は工藤優作と梶原修人戦。

喧嘩稼業1巻 石橋強 三角絞め 二階
(喧嘩稼業 1巻)
二階から突き落とすなんてこともありました。画像は佐藤十兵衛が石橋強に三角絞めを決めてたんですが、石橋強はそれを外すために自分ごと二階から落ちた。もう無茶苦茶。

喧嘩稼業3巻 エレベーター 十兵衛と石橋強
(喧嘩稼業 3巻)
こちらも同じく佐藤十兵衛VS石橋強戦ですが、エレベーター内で頭をグッチャグチャにしてみたり、使える設定や要素は全部使っちゃうみたいな感じ。もちろん金的蹴りだって当たり前。まさに容赦がない攻撃の連続。

普通ナンデモアリの漫画描こうとすると、展開全体もムチャクチャになって作品として破綻しがち。でも展開は理路整然としていて、ストーリーが全く破綻してない。「合理的な破天荒」といった表現がよく似合う。

喧嘩稼業7巻 佐藤十兵衛 vs 佐川徳夫
(喧嘩稼業 7巻)
例えば主人公・佐藤十兵衛がゴングが鳴る前に、佐川徳夫に煉獄をかましてフルボッコする場面があります。当然ルール違反なんですが、佐藤十兵衛が狡猾に用意した罠を読む限りは不条理ではない。逆にこのあと佐川徳夫が逃げられない状況に持っていく流れがステキ。


心理戦や駆け引きが見事!!

だからただ乱暴なだけではなく、上質かつ高等な心理戦や駆け引きも展開されます。

佐藤十兵衛は陰陽トーナメント出場を懸けて石橋強と青龍ホテルで戦う。陰陽トーナメントはタン・チュンチュンという男も絡んでるんですが、アンダーグラウンドという地下格闘技も運営してる。コイツを利用して結果的に佐藤十兵衛は参加資格を得るクダリも見事。

喧嘩稼業3巻 監視カメラで居場所推理
(喧嘩稼業 3巻)
タンチュンチュンが運営するその青龍ホテルで二人は戦うんですが、それが監視カメラを通して全世界に中継されてる。当然主導というワケには行かず、全てが人感センサーを使って撮影されてる。こういった周辺のモノも利用した二人の駆け引きや心理の読み合いも面白い。

喧嘩稼業3巻 石橋 十兵衛 駆け引き
(喧嘩稼業 3巻)
実際の試合ではまずありえませんが、格闘マンガにしろスポーツマンガにしろキャラクターが試合中に喋ることがままあります。画像はピンチの佐藤十兵衛が石橋強を不利になるように誘導する場面。

でも大抵のマンガは普通の会話止まりで、基本的に会話そのものにあまり意味はないんですが、『喧嘩稼業』ではしっかり隙間なく駆け引きを行う。一つ一つの発言が次に相手をダマすトラップであったりして、全ては「自分が勝利するための道具」なのでマンガにムダがない。

喧嘩稼業4巻 佐藤十兵衛 推察
(喧嘩稼業 4巻)
また試合外でも既に選手同士の駆け引きが行われてる。画像だと空港の手荷物検査で合気道家・芝原剛盛のドクターが輸出許可証を渡しているのを見て、佐藤十兵衛は「モルヒネ」だと気付く。

喧嘩稼業4巻 芝原剛盛 駆け引き
(喧嘩稼業 4巻)
それを使って佐藤十兵衛は揺さぶりをかけようとするんですが、逆に芝原剛盛は佐藤十兵衛という深く低要素を利用。そして対戦相手である上杉均戦で有利に働くように仕向ける。

喧嘩稼業5巻 十兵衛 梶原 駆け引き
(喧嘩稼業 5巻)
試合外・裏での駆け引きが特に佐藤十兵衛を中心として行われる。まさに「この男子高校生、狡猾につき」。

画像は最初、佐藤十兵衛は佐川兄弟同士で潰し合いを画策していたものの、梶原修人に見事に潰された。でもお返しとばかりに、梶原修人の裏工作を潰し返した場面。だから格闘技漫画とは言いつつも、その枠を余裕で超えてる面白さがあります。

喧嘩稼業5巻 梶原修人 工藤優作 読み合い
(喧嘩稼業 5巻)
そういった試合外での出来事もしっかり試合中に生かすことも多々。一番下に佐藤十兵衛のコマを入れることで画像の梶原修人は「一体何を利用したのか」が一目瞭然。そして一番上のコマの工藤優作の視線が横を向いたまま、これで梶原修人の不意打ち感も表現できてる。

セリフ回しも幼稚ではなく、だからといって小難しい理屈を並べてるだけでもない。セリフ頼みだとテンポ感が悪くなりがちですが、平易な表現を使うなど言葉に酔ってないので、むしろ展開のテンポ感を高めてくれる勢いすらある。

キャラクターの個性や能力を踏まえた上での実に高度な心理戦は大人がワクワクさせられる。まさに手に汗握る面白さ。


格闘描写は至って王道!

でも格闘描写も至って王道。作者・木多康昭はCGオンリーで描いてるので、前作ではどうしても動きが硬いなーと思う部分もあったんですが、今回は特に気にならない。作者・木多康昭も腕を上げています。

喧嘩稼業5巻 工藤優作vs梶原修人1
(喧嘩稼業 5巻)
アングルや構図など見せ方が上手く、殴り合いは凄絶そのもの。画像は工藤優作と梶原修人。

喧嘩稼業5巻 梶原修人の肘打ち
(喧嘩稼業 5巻)
隻腕の梶原修人が工藤優作のこめかみに肘打ちを加えるシーン。梶原修人は入江文学に斬られて片腕がないんですが、敢えてその部分で攻撃するのがカッコいい。

しかもこの左腕には更にトラップが仕掛けられていて、工藤優作が不利な状況に追い込まれたり、逆に梶原修人が…みたいなこともあります。

喧嘩稼業6巻 梶原修人の蹴り
(喧嘩稼業 6巻)
梶原修人の蹴りはこんな感じ。

喧嘩稼業6巻 工藤優作の強烈パンチ
(喧嘩稼業 6巻)
でも工藤優作の顔面パンチは、梶原修人の比ではない。普通の右パンチで梶原修人の顔がメッキョメッキョ!首もギュイーン!(笑)

梶原修人は思わず「頭が吹っ飛んだと思った」と、”混沌とした意識の中 梶原がまず取った行動は自分の首から上に頭が付いていることの確認”という説明ゼリフが笑った。割りと終始梶原修人は押していたものの、工藤優作の一撃で一気に立場が逆転する場面。

意外にできてないマンガ家も多いですが、キャラクターの表情をしっかり描くのが素晴らしい。読者はダメージ量や試合展開の優勢劣勢をキャラの表情で読み取る以外にない。

また佐藤十兵衛といった富田流には「金剛」や「煉獄」「無極」といった必殺技もあって、それが試合の要所要所でちゃんと見所として使われてる。ベタな少年漫画的な面白さや熱さが意外にあって、実は小学生ぐらいでも面白いはず(残酷な描写が多いのでおすすめはしませんが)。


笑いに脱線することはほとんどない

作者・木多康昭は『幕張』というギャグマンガ出身ということもあって、今作『喧嘩稼業』でも笑いに走ることがたまーにあります。それ自体は面白いんですが、前作『喧嘩商売』ではストーリーから大きく脱線することがしばしばありました。

ただ結論から書くと、『喧嘩稼業』では大きく話は脱線しないので安心して読めます。お得意の有名人ディスりもありますが、あくまでストーリーの流れの中で少しボケてる程度に過ぎず、良くも悪くも作品の完成度をそこなっていません。木多康昭もそれだけ大人になったということでしょうか?



休載が多くてもかめへんかめへん

強いて言えば『ベルセルク(三浦建太郎)』、『よつばと!(あずまきよひこ)』、『HUNTERxHUNTER(冨樫義博)』に匹敵するぐらい『喧嘩稼業』は休載が多いこと。でも「内容のクオリティーの高さを維持」するための弊害と個人的には納得してます。

何故なら『バガボンド』の井上雄彦のように展開で悩んでる感じが一切しないから。マンガを読んでる限りはトーナメントの順番にもしっかり意味があって、かなり計画的にプロットが作られている。読者としてはとりあえず待ってさえいたら料理は運ばれてくるはず、というフワッとした安心感があるのでそこまでイライラしません。

最近は亡くなる漫画家さんも多いので、木多康昭に限らず、いっそ最初から「数ヶ月に1回2回は休む」と決めてても良いのかも知れません。無理しまくれば面白いマンガを描けるってワケではありませんからね。


総合評価・評判・口コミ


『喧嘩稼業』の感想レビューをまとめると、想像以上に面白い。まさに超ウケる・超うける。とにかく読ませ方が上手い。セリフ回しや巧みな心理戦、どれを取っても絶品。破天荒に見える展開も筋道が通ってて読みやすい。それでいてどんでん返しの連続。重要キャラクターが失明するなど全く出し惜しみがなく、テンポ感も最高。

『喧嘩商売』の後半では個性的なキャラクターばかりが登場して、これを一体どうやって全部料理するつもりなのか不安でしたが、いざ読み出したら余裕で不安は払拭されます。そしてそこにはコチラの想像を超えてくる美味しさ(面白さ)を提供してくれる。木多康昭をマンガ家として正直どこか見下してましたが、もはやキワモノギャグマンガ家という面影は微塵もない。

ここまで長々と考察してきましたが、一言でまとめると「オレたちはこんな格闘技が見たかった!!」を見事に体現している面白い格闘マンガ。お互いブルって見合ってるだけのK-1は不要。八百長全開のプロレスも不要。ベルトの水増しが激しいボクシングも不要。オレたちには『喧嘩稼業』があればそれでいい!!!

きっと『喧嘩稼業』は後世まで語り継がれてるであろう面白い格闘漫画だと思います。