『医龍-Team Medical Dragon-』全25巻のネタバレ感想。作画は乃木坂太郎。原作は永井明。ビッグコミックスペリオール(小学館)で連載してた医療漫画。

あらすじ

主演・坂口憲二でフジテレビが何度も実写ドラマ化してるので、この原作マンガを読んでなくても知ってる人は多そうですが、一応簡単に『医龍』のあらすじを説明。

主人公は外科医・朝田龍太郎。心臓バチスタ手術が得意で、天才心臓外科医と評判。「医者の龍太郎」からタイトルの医龍に繋がってる。その朝田が病院内での権力闘争に巻き込まれつつも、バチスタチームを組んで患者を助けるために奮闘する話。

実写ドラマでは手術シーンがメインだった気がしますが、原作マンガは「感情を揺さぶる」ような人間ドラマがメイン。とにかくキャラクターの表情が卓抜。よくここまで人間の複雑な感情を描写できるなと、大げさだけど感動して震えるほど。

岸部一徳を超えた野口教授

まず野口教授のキャラクターが強烈。ドラマでは岸部一徳が演じてて、その個性的な演技も強烈だった。ただそれ以上に、原作マンガの野口教授は強烈。それが「表情」に現れてるので、何枚か紹介したいと思う。

医龍8巻/野口賢雄
(8巻)
悪代官そのもの。

医龍5巻/野口賢雄
(5巻)
主人公・朝田が心臓を止めずにバチスタ手術をすると知った時の表情。患者の命はそっちのけで、自分の病院内での評判や地位だけしか考えてない。死にそうな人間を目の前にして、この表情が出来る野口。まさに「醜悪」。

医龍14巻/野口賢雄
(14巻)
もはや眼光が単なる暗殺者。

絶妙すぎる「表情」

野口教授だけではなく、他のキャラクターの表情も秀逸。作者・乃木坂太郎の画力はハンパない。ちゃんとマンガ的な画にも関わらず、ここまで生々しい表情を描けるかねっていう。

例えば、ドラマ版では小池徹平が演じる伊集院登。マンガ版でもビクビクしまくり。荒瀬行きつけのバーの女店主が撃たれる。荒瀬が必死に頑張り、一命を取り留める。それを見て喜ぶ伊集院。何故なら、患者の命が自分一人の背中に背負うのが嫌だから、ホッとしていた。
医龍6巻/表情伊集院登1
(6巻)
恐怖、安堵、悔しさ、無力さが全部入り混じった表情。本当、秀逸としか表現しようがない。

ただその患者が発しようとしてる最期の言葉が聞けない荒瀬。何故なら、荒瀬が好きな女性だったから。そこで今まで何もできなかった伊集院が踏ん張って、彼女の最期の言葉を聞いてあげる。
医龍6巻/表情伊集院登2
(6巻)
この表情も何とも言えない。でも確実に言えることは、「この表情で間違ってない」ということ。この表情を作れる現実の俳優さんはいるのか、甚だ疑問。まさにマンガだからこそ表現できること。

医龍5巻/表情鬼頭直人
(5巻)
朝田が心臓を止めずにバチスタ手術をすると聞いた時の、鬼頭直人の表情はアドレナリン全開。「いいもん見っけ!」感がめちゃめちゃ出まくり。

医龍16巻/表情木原
(16巻)
伊集院の上司・木原毅彦も同様にビクビクしまくりのポンコツ。瀕死の伊集院を見て、まさに恐怖のどツボにハマってる状態。こういうデフォルメ的な表現も多彩で、それだけで読めちゃう。

医龍22巻/表情霧島
(22巻)
逆に表情が乏しくても、強烈なインパクトを与えることもある。国立笙一郎というアメリカの病院からやってきた外科医の息子が飛び降りる。上手く説得できなかった時の霧島軍司の表情、飛び降りた息子を無表情で見つめる国立、伊集院の情けない「あっ」。

「描かない」という表現で、こんなゾワゾワさせられるものなんでしょうか。コマ割りの使い方の上手さも影響してそうですが。

心に響くセリフ

そんでココロにビンビン響くセリフも多い。特に主人公の朝田。キレ味がめちゃめちゃいい。

医龍1巻/セリフ朝田「死なせた患者の数だけ成長する」
(1巻)
死なせた患者の数だけ成長する

バチスタチームに新人研修医だった伊集院を入れたくないと主張する加藤晶に対してのセリフ。やっぱり手術に限らず、何事も経験していかないと腕は上がらない。ただ一方では伊集院に対して、同巻で「死なせていい患者なんていねーんだよ」とも発言してる。

藤吉という医者が心臓麻痺。そこでクルマのバッテリーを利用して、除細動器代わりにしようとする朝田。デタラメな治療にブルってクルマのキーを回せない伊集院。見かねた朝田が思いっきりクルマのガラスをぶち破る。伊集院は思わず「暴力は止めてください」と泣きべそ。そこで朝田が放ったセリフが…
医龍2巻/セリフ朝田「逃げる命を追おうともしないお前は」
(2巻)
逃げる命を追おうともしないお前は、暴力を犯してないと言うのか

医龍7巻/セリフ朝田「技術のない医者はそれだけで罪だ」
(7巻)
7巻では「技術のない外科医は、それだけで罪だ

医龍23巻/セリフ朝田「ヒューマニズムで伸びるなら誰でも名医」
(23巻)
23巻では「ヒューマニズムだけで伸びるなら、誰でも名医だろうが

全部が本質をついてるんですが、短い言葉やセンテンスでズバッと言い切っちゃう。朝田の圧倒的な自身や実力とも相まって、ここらへんは読んでて気持ちが良い。一見冷たく聞こえるセリフですが、結局人を救うという『ヒューマニズム』に基づいてる温かさが読み取れて嫌な気持ちはしない。

胸を打つ熱い展開

ドラマ版では派手なバチスタ手術がメインで取り上げられてる気がしますが、原作のマンガ版ではむしろ「人間ドラマ」がメイン。思わず胸が詰まる展開も多く、また絶妙すぎる表情が相まってゾワゾワさせる。

医局は常に権力闘争派閥抗争が激しく、上司の失敗を押し付けられ病院に飛ばされることもしばしば。木原も同様に霧島の手術ミスを押し付けられ、飛ばされそうになる。ただ木原は霧島を告発することもなく、全部の責任を背負い込んだ。

何故なら、霧島に仲間意識を感じたから。医局全体は仲間意識も乏しく、フルネームを覚えてること自体が稀。ただ木原と霧島だけは医局全員のフルネームを覚えてた。霧島は打算ですが、木原は純粋にみんなと仲良くなりたかった。思わず「お前中学生かよ」とツッコミそうになった。

医龍15巻/ストーリー木原
(15巻)
木原はそこに強いシンパシーを感じ、それを霧島に告白した時の表情がまさに純粋無垢。こんなに脇役キャラクターって輝けるんだと思わず感心。心を打たれた霧島は野口に折れるカタチで、木原を救う。この時のクダリが「往年の青春ドラマ」を見てるようで泣ける。

また、その木原が10巻で重篤だった母親を手術してくれと朝田に懇願するシーンも泣けた。木原はめっちゃ嫌な奴だったけど、母親を想う気持ちは万国共通。「神様でもいいんですけど、助けてくれませんかね」とポツリと言ったセリフには思わずウルッとした。

そして朝田が登場した時には後光がさしてて、めちゃめちゃカッコいい。同時に乳児のバチスタ手術をしてたんですが、それを抜けだして木原ママの元へやってきた。周りは当然心配したんですが、「あいつらがいなければ、俺はここへ来れなかった」という朝田のセリフが胸アツ。まさに『チーム』。

ちなみにその後、野口の身体から肺がんが見つかる。それでも『権力欲』が衰えることはなく、目がランランとどす黒く輝く。その表情を是非買って読んでほしいんですが、まさに「知性の蛮人」。こんなハゲあがった小さいオッサンに恐怖することは、現実でもまずない。

医龍24巻/野口賢雄
(24巻)
ただそれでも最終的には病床に倒れて動けなくなる。そこで「自分という敵役がいたからこそ、病院内はまとまった」という本音を語る。それが意地っ張りな強がりに聞こえて切ない。最後の最後まで、ヒールキャラを貫徹する姿勢に思わず胸が詰まる。ヒールキャラとして最高。

反目しあってた朝田と妙に反りが合う。結局お互い「孤独」という点で同じ。病気になったことで二人が少し仲良くなる。ラストらへんで展開される友情物語は思わず胸アツ。

ここまでよく一人で戦いましたねぇ。もしあなたに本物の仲間がいたら、誰の手にも届かないもっと高いところに行けたでしょうね」という朝田が放ったセリフにも感動。これを聞いた野口の表情が、まさに菩薩。泣ける。

総合評価

とにかく面白いマンガ。全てにおいてレベルが高い。生死を扱ったテーマは難しいので、どうしても説明を詰め込みがち。ページも言葉で埋まりがち。でも医龍はそんなことがない。セリフも適度に短くフォントも大きいので、すごくテンポ良く読みやすい。

画力が高く、ストーリーも読みやすい。特筆すべきはキャラクター。どのキャラも個性的で、ポンコツもエリートも良い味を出してる。その「キャラクターが物語を作ってる」と言っても構わない。そこにはサスペンスありヒューマンドラマあり、全部の要素が詰まってる。

外科医がテーマだと派手な手術描写に逃げがちな作品が多い中、医龍はしっかり「医療マンガの本髄」を体現できてる。まさに『良作マンガ』と断言できそう。


◯展開★5◯テンポ★5
◯キャラ★5◯画力★5
◯全巻大人買い★5
◆93点!!!!