『いぬやしき』1巻から6巻のネタバレ感想をレビュー。作者は奥浩哉。掲載誌はイブニング。出版社は講談社。ジャンルは青年コミックのSF漫画。

この記事では『いぬやしき』が面白いかつまらないか考察してみました。詳細は後述しますが主人公がヨボヨボのお爺さんにも関わらず、胸アツで激しいアクション描写が展開されるなど、『いぬやしき』は意外と面白いSF漫画。だから結論から書いておくと、この考察記事では批判的な内容は書いてないはずです。


あらすじ物語・ストーリー内容

主人公は犬屋敷壱郎(58歳)。年齢的には還暦目前なんですが、見た目は80代のヨボヨボのお爺ちゃんにしか見えず、威厳の欠片はみじんもない。息子からは「うちのホビット族なんだから、穴の中に隠れて怯えてやり過ごせばいいんだよ」と言われる始末。

ただ見た目とは反して「正義感」には満ち満ちていた。社会や街中で起きる理不尽な出来事に怒りを覚えつつも、何もしてやれない自分にもどかしさを感じ、「自分にチカラがあれば」と常々思っていた。

物語は犬屋敷が一戸建てを購入し、健康診断を受けた場面から始まる。それでも報われない日々を毎日送っていたが、そこへ突如として医者からガン宣告を受けた。家族からも愛されない犬屋敷はショックを受けて、公園で一人途方に暮れる。

そこへ突然、宇宙船が飛来。犬屋敷は跡形もなく木っ端微塵。しかし謎の宇宙生命体は自分tナチの存在がバレては大変だと、兵器ユニットを使って応急処置的に復元。
いぬやしき1巻 犬屋敷壱郎の右腕
(1巻)
そうすると犬屋敷はロボットになっちゃいましたー!

果たして犬屋敷は家族から威厳を取り戻すことはできるのか?人間に戻ることはできるのか?これからどういう人生を歩むのか?みたいなストーリー。


犬屋敷壱郎のあふれでる善意

いぬやしき3巻 犬屋敷壱郎の正義感
(3巻)
とにかく主人公・犬屋敷のキャラクターが良い。溢れ出る善意や正義感に胸熱。しょぼくれたジジイのクセにムダにカッコいい!

犬屋敷はロボ化されることで、遠く離れた声でも聞くことが可能になった。そこには当然助けを求める被害者の声もたくさんあった。そこで犬屋敷が次々と悪を倒していくのが、『いぬやしき』の大まかな展開。

いぬやしき3巻 ヤクザに立ち向かう犬屋敷
(3巻)
大柄なヤクザに立ち向かっていくシーンはアングルや構図も含めて胸熱でした。

いぬやしき3巻 ヤクザを殴る犬屋敷
(3巻)
どう考えても勝てそうな匂いがしませんが、ヤクザを見事にフルボッコ。

いぬやしき4巻 病人を治す犬屋敷
(4巻)
一方で病気を治癒するチカラも持つ犬屋敷は、難病で苦しむ病人を次々と救っていく。こういったシーンも胸熱で、自分でも不思議ですが涙腺が緩みます。やっぱり表情のチカラは大事。

いぬやしき1巻 犬屋敷壱郎の涙
(1巻)
犬屋敷はロボ化されることで涙が出なくなるんですが、何故か「人を救う」ことにおいては涙が出る。作中の犬屋敷曰く、「僕が命を救うことで生きている実感を得る。僕は心がある人間」とのこと。


獅子神皓の止まらない悪意

そしてもう一人の主人公が獅子神皓(ししがみ・ひろ)。犬屋敷と同じく公園で宇宙船と激突してロボ化された少年。ただ犬屋敷とは違って、まさに残虐非道。

いぬやしき2巻 獅子神皓の無情1
(2巻)
何の罪もない家族を狙っていく。画像では父親は幼い子供をかばってるものの、獅子神は躊躇なく拒否。

いぬやしき2巻 獅子神皓の無情2
(2巻)
獅子神のイッてる表情がヤバイ。

「自分は機械。金属。心がない。生きていない。底なしの深い暗闇。怖かった。ひたすら怖かった」と獅子神は語ってて、これは犬屋敷と同じなんですが「生きている実感を得るアプローチ」が全くの真逆。

獅子神は強大な力を得てしまったが故にそれに振り回されている感がありますが、果たして「人間の心」を失った者同士がどうやって生きている実感を得るのか?みたいなんが『いぬやしき』という漫画のテーマの一つと言えそう。そして犬屋敷と獅子神が最終的にバトルするみたいな内容。

ただ獅子神は「心がない」とは言ってるんですが、母親が重篤な病気にかかった事実を知らされると大泣き。そして母親の病気を根治させる。犬屋敷と同様に人間の心は持ち合わせていたはずだった。でも悪事を散々と働いていたため、警察から全国で指名手配を受ける。結果、母親は「悪人の親」とマスコミや世間から叩かれて自殺してしまう。他にも色々とあるんですが、そこで完全に獅子神の頭はプッツン。

いぬやしき5巻 報道陣VS獅子神皓
(5巻)
マスコミの記者陣をバン。

いぬやしき6巻 獅子神VS大量のSAT
(6巻)
大量のSAT相手でもフルボッコ。警察署の襲撃だって躊躇なし。そして獅子神の悪意は警察にはとどまらず、全国民に向けられていく。

いぬやしき3巻 犬屋敷VSヤクザ
(3巻)
似たような場面が犬屋敷にもあるんですが、こちらはヤクザのお歴々。獅子神とは対比的に描かれてることが容易に想像できます。

まさに「善と悪」の対比が見事。キャラクターの良さが「漫画の面白さ」にそのまま繋がるんだと実感します。だから犬屋敷は獅子神の暴走を止めることができるのか?が最終的なゴールになるので、非常にシンプルなストーリーで読みやすいです。


斬新な切り口と容赦ないアプローチ

『いぬやしき』は切り口が斬新。例えばインターネットが普及してかなりの時間が経ちますが、ロボ化したからこそネットの仕組みを応用してる。要は、超絶的なハッキング。

いぬやしき5巻 お前らVS獅子神皓2
(5巻)
例えば、お前ら…もといゴミクズ同然の2ちゃんねらーとの戦いは胸熱でした。2ちゃんねらーは獅子神の母親をボロクソにけなして、結果的に自殺に追い込むキッカケも作った。

そこでIPアドレスからかは分かりませんが、直接二人は対峙する。普通はもっとビビって良さそうなんですが、2ちゃんねらーは必死に平静を装おうとする会話劇が見事でした。そして獅子神がギリギリと追い詰めていく。

いぬやしき5巻 スマホ経由で攻撃
(5巻)
結果お前らは全滅するワケですが、その方法がスマートフォンなどのカメラ経由を介しての狙撃。最近はパソコンの液晶ディスプレイにもカメラが搭載されてるので、そこを使ってバンバンバン。お前らの最後のあがきも無様すぎて笑えました。

いぬやしき5巻 2ちゃんねらーVS獅子神皓
(5巻)
文字だけなんですが怖すぎ。

いぬやしき5巻 2ちゃんねらーVS獅子神皓2
(5巻)
この2ちゃんねらーが射殺された映像を獅子神はあちこちに流すんですが、それを見たお前らは「合成が甘い。セミプロCG職人だな」と一言。

2015年だかに某ネトウヨがイスラム国に首チョンパされましたが、その時もこういうアホがいました。お前が何知ってんねん?何のプロ気取りやねん?というのはネット上では散見されます。いつも失笑が止まりませんが、見事に殲滅してくれます(笑)

いぬやしき7巻 宮根誠司?
(5巻)
果てには僕たちの宮根さん…もといミヤノさんも一撃で倒されてしまいます。作者・奥浩哉は心理描写や人物描写が上手く、ミヤネさんの喋るセリフがいちいちツボりました。

俺お前嫌いなんだよね。ああ!?何やねんお前!!
獅子神!!俺は…世間は…日本はお前を絶対許さんぞ!!少年法とかで守られてると思ってるかもしれへんけどな!お前終わりやぞ!!国民はお前を許さんからな!!」とドヤ顔で喋った直後にボン。うーん、ここまで面白いなら、もっとイジり倒してからにして欲しかった(笑)

ちなみに、このクダリはまだ単行本化されてませんので、もしかするとカットになるのかも知れません。個人的には、舌足らずで「テリョには屈しない」とドヤ顔で会見して、どこぞの総理大臣や官房長官あたりを期待したい所であります。

いぬやしき6巻 警官VS獅子神皓
(6巻)
警察官相手でも容赦なし。この場面はオウム真理教の平田が同じように警備してる警官に自首したものの、その警官は全く気付かなかったことをディスってるんだと思います。

オウム平田「オウムの平田です…」
ポンコツ警官「え?」
オウム平田「地下鉄テロとかで有名なオウムです」
ポンコツ警官「え?」
オウム平田「今まで潜伏してたんですけど、もう逃げきれないかなって…」
ポンコツ警官「え?」
オウム平田「指名手配されてるんで自首しにきました」
ポンコツ警官「え?」
オウム平田「…え?」
というやり取りが実際にあったかは不明ですが、まさに「馬子にも衣装」。誰に対しても容赦がなく、フラストレーションが堪らないのが、この漫画の魅力でありましょう。

スマートフォン経由で攻撃できるのであれば、当然街中に至る所に設置されてる監視カメラからも攻撃できるということ。獅子神はもう後戻りはできないので、どういった最後を迎えるのか?といったところ。


総合評価・評判・口コミ


『いぬやしき』の考察をまとめると、設定からして邪道で奇をてらってますが、中身は割りと王道で面白い。コメディー要素はほとんどなく展開は胸熱。ネット経由の攻撃もありそうでなかった斬新さも良い。

理屈こそ不明なのでチートっぷりに違和感を抱きそうですが、「何となくできそう」という変な納得感があって気にならない。また犬屋敷も獅子神も元々はひ弱だったからこそ、逆に許される部分もあります。

ただ面白くないからってことではないですが、ある意味「出オチ」といえば出オチのマンガなので、ストーリーに伸びしろを感じません。だから長く続いても10巻ちょっとぐらいで完結すると推察してみます。また現段階ではまだ犬屋敷と獅子神が本格的に交戦してないので、いわば読者は前菜しか食べてない状態。そういった意味での評価の難しさも残ります。

とはいえ、こんなジジイがかっこいいマンガはかつてほとんど無かったはずなので、そこだけでも一読の価値はアリ。