『今際の国のアリス』全18巻のネタバレ感想をレビュー。作者は麻生羽呂。掲載誌は少年サンデー。出版社は小学館。ジャンルは少年コミックのサバイバル漫画。

つい先日完結したばかりですが、割りとラストのオチが不評だった模様。その点も含めて「今際の国のアリス」が面白いか面白くないか全巻まとめて考察してみました。


あらすじ物語 ストーリー内容 登場人物

主人公は有栖良平(アリス・りょうへい)。どこにでもいる普通の高校3年生。大学受験を目前にしているものの、成績は下位グループに属している、いわゆる落ちこぼれ。それでも勉強をしようがしまいが、誰にでも平等に明日は訪れる。そんな時間だけが一方的に過ぎていく日々に、将来に対する漠然とした不安を抱えていた。

この有栖良平には唯一心が許せる友達がいた。それが苅部大吉と勢川張太。ある日、いつものように夜遊びをして始発電車が来るまで、どうでもいい会話で盛り上がった。そしてふと周囲を見渡すと、何故か巨大な花火が打ち上がる。それは核爆発のような光だった。

今際の国のアリス1巻 有栖良平
(今際の国のアリス 1巻)
気付くとそこは数百年以上は経過したと思われる自分たちの街だった。一瞬、夢か死後の世界かと疑うものの、くだらない日常から解放されたことでアリスはワクワクしていた。しかし甘かった。

しばらくして楽しそうな祭り会場へ行くと、紫吹小織と出会う。しかし「アイツらの【げぇむ】に乗ってしまった。この【今際の国】をまだ夢か何かだと思っているなら死ぬわよ」と顔面蒼白の表情で警告される。それは事実だった。

最初の「げぇむ」はおみくじ。一人ひとりがおみくじを引いて、そこに書かれた問題を解くというもの。もちろん正解すれば何も問題なし。しかし答えと乖離があった分だけ、罰として炎の矢が飛んで来る。

今際の国のアリス1巻 げぇむ 大量の矢
(今際の国のアリス 1巻)
紫吹小織は答えを大きく外してしまい、420本の炎の矢が飛んでくる。恐怖から震えが止まらず、身動きできないアリス。そこへ苅部が「生きてぇんならシャキッとしろ」と蹴られたことで正気を取り戻し、命からがら生き延びる。

ただアリスに対する質問が「地球の人口は何億人?(億より下の位は切り捨て)」。つまり間違えると最低でも1億本の炎の矢が飛んでくる。結果アリスは間違えてしまい辺り一面火の海の状態。

今際の国のアリス1巻 有栖良平 驚異的な思考力
(今際の国のアリス 1巻)
でも、それはアリスの狙いだった。驚異的な観察力と思考力を働かせて、その場を乗り切ることに成功。命がけの状況に見事に対応してみせた。歓喜に湧いたアリスたちだったが、それも束の間。それは単なる「終わりの始まり」だった。

今際の国のアリス1巻 びざ ビザ
(今際の国のアリス 1巻)
今際の国には「びざ」があった。「いまわのくにのこくみん(今際の国の国民)」として滞在することが許される入国許可証。この滞在期間を過ぎると、もちろん死。上空から謎の光線に攻撃される。

先程の「げぇむ」をクリアするとポイントが貰える。そのポイント数こそが滞在期間の日数を意味している。つまり一度今際の国に足を踏み入れてしまった以上、ここで生き延びるためには命がけの「げぇむ」に常に参加し続けなければいけない。

「今際」とは死に際、最後、臨終を意味する。また「今は限り」の略語。つまり、まさに「今一瞬を生き抜くためだけ」に生死をかけた究極のサバイバルゲームを強いられるアリスたち。この永遠の地獄と思える「今際の国」に迷い込んだアリスたちの運命は?といった内容。


ハードすぎる絶望ゲーム

『今際の国のアリス』はとにかくゲームのオリジナリティーやクオリティーが高い。もっと言うと難易度がめちゃめちゃ高い。ハードすぎるがゆえに理不尽 on the 理不尽。

パソコンの修理に行ったにも関わらず、何故か高額なリース契約を結ばされ、それを解約しようと思ったら更に高額の解約料を請求されてしまうPCデポ並に理不尽である。いや「自動車にかかる維持費の数々」ぐらい理不尽。自動車保険、自動車税、自動車取得税、自動車重量税、ガソリン税、高速料金etc。まさに圧倒的な絶望感に襲われる。

今際の国のアリス8巻 難易度と出目の説明
(今際の国のアリス 8巻)
まずトランプのマークによってゲームのタイプが肉体型が知能型が決まっていて、また数字によって難易度が細かく分かれてる。鏡の国のアリスとかけてて面白い。

今際の国のアリス9巻 ぶらっくじゃっく
(今際の国のアリス 9巻)
「ぶらっくじゃっく」だと首に縄をかけられた状態でのデスゲーム。もちろん負けたら縄がギュイ~ンと引っ張りあげられて、まさにリアルタイム絞首刑。内容は普通のブラックジャックですが、壮絶な心理戦が面白い。

今際の国のアリス16巻 てぇまぱぁく
(今際の国のアリス 16巻)
「てぇまぱぁく」だとキグルミを被ったマスコットに襲われずに遊園地に逃げられたらクリア。でもキグルミのマスコットたちの手にはボーガン。まだこれは可愛い方。「もうじゅう」ならガチのライオンを相手にしなければいけない。

今際の国のアリス2巻 おにごっこ
(今際の国のアリス 2巻)
また「おにごっこ」ではライフル銃を手にした馬面野郎が襲ってくる。しかも場所が普通のそこら辺にあるマンション。だから逃げ道が意外と少ないなど、展開の煽り方や進め方も上手くてハラハラさせられる。

このアリスたち今際の国の「ぷれいやぁ」を襲ってくる馬面たちは「でぃいらあ」と呼ばれる存在。常にぷれいやぁを監視できる立場。だから支配者側かと思いきや…
今際の国のアリス7巻 でぃいらぁ
(今際の国のアリス 7巻)
この「でぃいらあ」たちも実は「びざ」に期限が設けられている奴.隷たち。でぃいらあが生き延びるにはどうすればいいかというと、殺したぷれいやぁの人数に応じてビザの日数が伸びる。むしろコチラの方がハードルが高い。

今際の国という世界は一体どういう世界なんだ!?


心理戦や頭脳戦が見事

だから頭脳戦など頭を使いたい読者にはおすすめ。『カイジ』といった心理戦が展開される漫画が好き読者はきっとハマりそう。更に言うなら、リアルさと絶望さを増した『神様の言うとおり』といったところ。

今際の国のアリス6巻 あんけぇと 堂道隼人
(今際の国のアリス 6巻)
画像は「あんけぇと」というげぇむ。テーマは「騙される方が悪い」。5巻の「まじょがり」だとミステリーサスペンス仕立ての展開。でもオチは友情物語という意外感のある結末を迎えます。

今際の国のアリス8巻 らんなうぇい
(今際の国のアリス 8巻)
個人的にツボったげぇむが「らんなうぇい」。

トンネルに入った瞬間に閉じ込められる。ゴールまで逃げ切れればクリア。最初に「ゴールまでの距離」が書かれているものの、肝心な数字は見えない。つまり結局トンネルの奥に進めばいいんでしょと思いきや…という絶望感丸出しの結末。割とシンプルですが面白いかった。

今際の国のアリス2巻 アクション描写
(今際の国のアリス 2巻)
今際の国のアリス10巻 アクション描写
(今際の国のアリス 10巻)
また『今際の国のアリス』では派手なアクション描写も豊富に描かれるので、こういった心理戦や頭脳戦が苦手な読者でもそれなりに楽しんで読めます。街中やマンションなどありきたりな舞台も多く、変なリアリティーに手に汗握る。


すうとりのラストをネタバレ

その中でもアクション+心理戦が巧みに組み合わさった一番有名なゲームが「すうとり」かも知れない。難易度はマックスのK(キング)。

制限時間は2時間。最初はアリスやウサギたちのポイントと、敵のキューマたちのポイントがお互いのチームで10000点ずつ。個々人にポイントを自由に振り分けられる。一人は5000ポイントだけど、一人は1000ポイントという具合に。平等に2000ポイントずつ振り分けてもオッケー。

「すうとり」のルールはお互いの身体にタッチしたときに、ポイントが高いプレイヤーに500ポイントが移動。いかにチーム全体のポイントを稼いでいくかというゲーム。ちなみにポイントが0になってしまうと、チームの勝敗に関係なく死んでしまう。

味方同士が触れ合えばそのポイントが合算されるので、結果的にポイント10000のプレイヤーで敵を攻撃することも可能。ただしフィールドにはポイントを加算できるアイテムがあるなど、全員で同時に動くことは難しい。

今際の国のアリス9巻 すうとり
(今際の国のアリス 9巻)
そして勝敗の鍵を握るのが「じんち」。敵の「じんち」に触れることでポイント10000がプラスされるので、逆に味方側は「じんち」を守らなければいけない。ただこの「じんち」を味方が触れている最中はポイントが無限。つまりは無敵になれる。しかもポイントは500ではなく10000移動。

そこでアリスとウサギたちは4700と300、4600と300、そして「じんち」を守る100のチーム編成を作る。4700と300がペアを組めばまず負けない。じんちを守るプレイヤーは無敵なので、最下限の100でも無問題。

でもこの方法では負けてしまう。何故なら捨て身で「じんち」を四方八方から狙いに来られたら終わりだから。片手は必ずじんちに触れておく必要があるから、結局敵にタッチできるのは一人まで。
今際の国のアリス10巻 すうとり
(今際の国のアリス 10巻)
つまり敵のキューマたちは一人の命と引き換えに3人の10000ポイント超えの無敵の戦士を作り出してしまう。ここにいかに早く気付くか気付かないか。また実行できるかできないか。アリスたちは絶体絶命のピンチ。果たして「すうとり」の結末はどうなるのか?!みたいなストーリー展開。

簡単にネタバレしておくと、アリスはキューマの強さを見抜く。それが圧倒的なポジティブ。恐怖というブレーキを壊さなければ勝てないと決意。そして同じように敵じんちを狙いに行く。一度は無事成功するものの、最後はアイテムの差が致命的となり残り15分は消化試合。

実は「すうとり」の問題点は一度ポイント差を付けてしまえば、あとは「じんち」に固まって無敵状態を維持し続けたらいい単調なゲームだった。ただアリスたちはタッタの犠牲によって…というオチ。


スピンオフや特別編が多すぎる

『今際の国のアリス』はとにかく特別編のスピンオフの収録が多い。本編のストーリーとは関係してる内容ですが、ストーリーの流れをぶった切って始まるので読後感がどこか気持ち悪い。『ワンパンマン』を凌駕するほど。マジで冗談抜きで多い。

今際の国のアリス14巻 特別編の多さ
(今際の国のアリス 14巻)
例えば14巻だとまるまる一巻分が特別編を収録してる。ここまで来たらいっそ別々に分けて収録しろよ。ギャグ寄りのワンパンマンと違って『今際の国のアリス』はストーリー性が強いわけですから、もっと構成に工夫できなかったのか。

後述しますが、特別編で登場するキャラクターも最終話で生きてくるってわけでもない。何故ここまでスピンオフを大量に収録したかが分からない。


最終回はこんな感じで完結

気になるのが終わり方・オチ。結局どういう結末を迎えたのか

ミラとの最終対決。アリスに対して色々と揺さぶりをかけてくるものの、普通のゲートボールで戦うだけ。ミラに勝利したアリスたちは「今際の国の国民となって次回の【げぇむ】に参加できる永住権を取得するか放棄するか」の選択を迫られる。もちろんアリスたちの選択は【放棄】。

そしてアリスたちは気が付くと、そこは現代の東京だった。しかし巨大隕石の落下に巻き込まれて重傷を負い、とある病院に入院していた。その病院にはチシヤやウサギ、ヘイヤやアグニなど今際の国で生き残ったメンバーもいた。逆に言うと隕石落下に巻き込まれて死亡した人間は、今際の国で既に死亡したメンバーだった。

ただアリスたちは記憶を全て失い、お互いが今際の国で戦ったメンバーであることを覚えていない。しかし今際の国に入国する前は、どこか自暴自棄的で自堕落に生きていたアリスだったが、前向きに生きていこうと決意する。明らかに今際の国での体験が身体に頭に染み付いていた。

そしてアリスは必死に勉強して大学にして臨床心理士を目指す場面で終わりを迎えます。

1巻でアリスが最初に今際の国にやって来た時に、友達の苅部大吉が「オレたち3人とも頭がイカれて、実際は今頃病院のベッドに並んでるかだな」と発言してる。明らかな伏線であり前フリ。7巻だと「生きてる人間をなめんな」というアリスの発言にしても、何となくですが最初から意図してたようなオチだと推察されます。


最終話の結末がひどいか?

ただ想像を絶するような結末ではない。

もちろん矛盾点があったオチではないものの、こんだけ命を懸けて勝負してきたのに「結局コレかよ…」みたいな呆気なさはある結末。どうしてもゲーム性の高さやストーリーの内容と比較すると、平凡な結末で正直物足りなさを感じてしまうのが本音でしょう。

ラストの最終話で永住権を放棄したアリスの前に、謎の男が現れる。いかにも今際の国の全てを支配する管理人に思われたが、アリスの想像では「ただの中間管理職」と推測。やはり最後の最後まで今際の国の謎は解決されず。モヤッとするといえばモヤッとさせられる最後。

またアリスとウサギがどうなったのかも最終回では分からない。チシヤたちのその後も描かれない。アリスの将来の夢だけではなく、最愛の女性とどう生きていくかも描いて欲しかった。そうでなきゃ病院の自販機前で劇的に再会させる意味がないし、今際の国での散々一緒に戦ってきた意味やミラとの最終戦は一体なんだったんだって話。消化不良感がゼロではない。

ただ確かに全体で見た場合に「完成度が高い」と評価できるかは微妙ですが、それでもラストのオチがヒドいってことはない。少なくとも「つまらない」ってこともない。個人的には最後まで完結させただけでも良しとします。

だから『今際の国のアリス』の最終回はひどい結末とネット上だと荒れてたらしいですが、それは面白くないから叩かれたのではなく、むしろ『今際の国のアリス』というマンガが面白いと思ってた読者が多かったからこその反動。

そつなく無難にまとまった最終回に対して、「作者・麻生羽呂よ!お前はもっとできる子だろ!」という叱咤や叱責に近い評価と言えます。それだけ面白いと感じた読者が多かった裏返しにすぎない現象だと推察してみる。


総合評価 評判 口コミ


『今際の国のアリス』全18巻のネタバレ感想をまとめると、一つ一つの繰り広げられるゲームは面白い。

設定やルールの作り込みやキャラクター同士のダマし合い、それらが化学反応を起こして生み出される緊張感など、それぞれのクオリティーは非常に高く魅せられる。徹底した展開の理不尽さも含めて、サバイバル漫画好きの読者はきっと面白いと感じるはず。

最終回の終わり方こそ賛否両論ですが、読んでるうちに徐々にハードルが上がっていくのは、それだけ一つ一つのゲーム展開が面白いという裏返しでありましょう。そこまで期待値を膨らませてしまう展開が面白くない・つまらないわけがない。

だから『今際の国のアリス』は基本的に購入して損はしないマンガと思いますが、もし買うんであれば「まとめ買い」をおすすめ。やはり特別編の収録が多く、キリが良い部分で終わらないこともある。特に前述の「すうとり」部分ですが、中途半端に買ってしまうと展開のぶつ切りに多少イラッと来るかも知れない。