『宝石の国』1巻から3巻のネタバレ感想をレビュー。作者は市川春子。掲載誌はアフタヌーン。出版社は講談社。ジャンルは青年コミックのファンタジーバトル漫画。面白いかつまらないか考察してみた。


あらすじ物語・ストーリー内容

場所は未来の地球。主人公たちは不死の身体を持つ宝石たち。宝石とは言っても、見た目は完全な人間。おそらく年齢的には少年・少女の頃合い。だから普通に喋ることも可能で、それぞれの宝石の特色に合わせた戦闘能力を持つ。

宝石の国1巻 月人
(1巻)
何故、宝石たちが戦闘能力を持たなければいけないかというと、月から宝石たちを宝飾品にしようと「月人」が襲ってくるから。だから『宝石の国』という漫画タイトルからは想像しにくいですが、ジャンル的にはSFに近いファンタジーバトルマンガ。


宝石の特徴に合わせたキャラクター作り

端的に言うと、宝石を擬人化してる。だから宝石の特徴がそのままキャラクターの性格や性質に与えられてる。例えば、ダイヤモンドだと常にキラキラ光ってる。ただ硬度の硬さでいえば、ダイヤモンドよりもボルツが上回る。だからボルツの戦闘力はピカイチ。

他にもアンタークチサイトは冬にだけ起きる性質があるんですが、他の宝石たちは冬眠の入るのでいつも一人、この理由もシンプル。アンタークチサイトは日本語名で「南極石」という鉱物らしい。この南極石(アンタークチサイト)の特徴が20~30度という室温で溶けてしまう。南極でしか採取されない鉱物というまんまの意味。だから外気温が低い冬場でしか活動ができない。

正直、男の自分にはあまりピンと来ない部分も多いですが、女性は宝石が大好物ということで案外すんなり受け入れられそう。

宝石の国1巻 シンシャ
(1巻)
シンシャは呼吸をするように毒液を吐き出す。それが強力な武器になってるものの、だから宝石の仲間たちは誰も近寄らない。もはや敵の月人にですら見離されてる始末。悲しいかな、月人がよく襲来する虚の岬にいつもいて、逆説的に自分がさらわれるのを待っているぐらい。

ちなみに、メインの主人公は「フォスフォライト」と呼ばれる宝石。硬度的には柔らかく、ほとんど使い物にならない。ストーリーの大筋では、このフォスフォライトとシンシャの友情物語みたいなんが描かれてます。


幻想的な世界観に女性はハマる?

宝石の国2巻 世界観
(2巻)
海中世界の描写なども見ると、全体的には女性読者が好きそうな世界観。

宝石の国1巻 バトル描写
(1巻)

宝石の国3巻 バトル描写
(3巻)
バトル描写を取ってみても、キラキラ感といった見た目が重視されてるイメージ。アクションの派手さというより、シンプルに見た目の派手さや世界観の追求に重きが置かれてる感じ。もちろん派手ではある点では同じなんですが、男の漫画家が描くようなんとは若干テイストが異なります。

バトル描写として純粋に評価するのであれば、可もなく不可もなし。決して下手ではないものの、他の漫画を圧倒してるレベルでもない。ただ女性向けと散々言ってきたんですが、その割に「女々しさ」はない。過度な期待を抱かなければ、ゴリゴリのバトル漫画好きでもきっと満足はできるレベルかな。


宝石の情緒

ストーリーを更に補完しておくと、実は宝石も月人も元々は「人間」。

人間の魂が変化したのが、月人。人間の骨が変化したのが、宝石。ちなみに人間の肉が変化したのが、クラゲ。ストーリーの根底には示唆に富んだテーマが横たわってそうな印象。人間という生き物が別々に分解されても、また同じように戦いを繰り返す人間の不毛さやエゴを暗に批判してるのかも。

宝石の国3巻 アンタークチサイト
(3巻)
だから宝石たちも「身体に記憶が刻み込まれてる」という設定なので、自分の欠片を失うと記憶も消えちゃう。その設定を活かした展開であったり、ストーリーの切迫感を生んでる。

例えば主人公フォスフォライトが初めて冬から春の季節の移り変わりを体感する。そこで時間の流れの早さも体感。この直前では前述のアンタークチサイトが月人にさらわれてる。でも一向に取り返せないことに対する焦燥感に襲われる。
宝石の国3巻 フォスの目から涙
(3巻)
その時にフォスフォライトはポロッと合金の涙を流す。基本的に宝石は人間の骨だから、どちらかと言うと人間的な生理現象は起きにくい。そこで一瞬見せる「人間的な感情」は何かを予感させて、先生の「古代生物の欠陥でお前のせいではない」というセリフも切ない。

ただ体内から涙として合金を垂れ流すということは、当然その分だけ「記憶が失われる」ことも意味してる?
宝石の国3巻 シンシャを忘れたフォス
(3巻)
4巻に繋がるストーリーの前フリとしては、フォスフォライトが親友と思ってたシンシャの存在をいつの間にか忘れてしまってる。

人間的な感情を手に入れたからこそ、一方で人間として大事な何かを失う。「宝石の情緒」みたいなんが肉感的に描かれてて、また不器用すぎる存在が愛着心をわかせる。何とも言えない悲哀や虚しさは女性が好きそうかなと。


総合評価・評判・口コミ

宝石の国3巻 フォスフォライト覚醒
(3巻)
主人公・フォスフォライトは途中で白金などを吸収して急激に覚醒。これはオトコ的な王道バトルマンガの構図ではありつつも、背景としては宝石(キャラクター)の悲哀や悩みといった情緒や心理描写はどこか女性的な感性も垣間見れる。そもそも宝石を擬人化しようという着想自体が女性的。

「金剛先生」と呼ばれる和尚風のオッサンに尽くしてる姿も女性的な献身さが現れてて、金剛先生にハグされて満足する姿などはいかにも女性目線的。ちなみに金剛先生も宝石っぽく、人間がどうして宝石と月人などに別れたのかという過去を知ってそうな雰囲気。

何回書いたかは分かりませんが、笑いのシュールなノリとかも含めて女性が好きそうな漫画。バトル描写もそこまで熱苦しくはないので、バトル漫画嫌いでも読めるはず。

ただ面白いアプローチとは思いましたが、絵柄や設定で読者はかなり選びそう。個人的には思ったよりは良かったと感じましたが、「ココ!」というほどピピンと反応する部分もなかったので、採点的には実に中途半端な感じの点数にしてみた。

でも宝石はカラフルなので、アニメ化や実写映画化にしたら面白そう。宝石のパリンと割れる無機質な感じは3Dで表現したら見事にハマりそう。