『ガンカンジャー』の感想。作者はフツー。レジンコミックスで配信中の医療漫画。

メールでわざわざリクエストがありましたのでレビュー。何故かメールの送り主にハングル文字が使われていたのが気になりましたが、どうやら韓国企業っぽい感じのサイト。「世界マンガコンテスト」みたいなものを主催してて、大賞に選ばれると1000万円もらえたとか。

世界マンガコンテスト
「連載」の「連」が微妙にシンニョウじゃなかったりするのもご愛嬌だと思いますが、応募者には全員CLIP STUDIO PAINTを3ヶ月だけ無料で使えるライセンスがもらえたらしい。どうやら応募期間は既に終わったようですが来年も開催される気もするので、気になった方は覚えておくと良いかも…というか、これだけの資金力があるなら集英社かどっかの出版社と手を組んだ方が良くね?

http://www.lezhin.com/ja/comic/gankanjya/1
とりあえず『ガンカンジャー』のリンク先はこちらに貼っておきます。


あらすじ

26歳の秋に突如 胃がんを宣告された男の話。この男の闘病記みたいなんを綴ったような内容。「テレビ見てたら女主人公が『私はガンカンジャー!ガンカンジャーなのよ!』と言いながら泣いてたけど、戦隊系の何とかレンジャーみたいなもんですか?」というヤフー知恵袋のネタ質問から、漫画タイトルの着想があったとかなかったとか。

ウェブコミックという媒体もあってか、作品の構成は独特。ひたすら1コマずつポンポンと進んでいきます。作者・フツーはそういった「淡々とした芸風」がウリらしい。

ガンカンジャー1
男「腰が痛くて病院に来ただけだった」。

ガンカンジャー2
医者「腰が痛いのは脊椎まで転移しているからです」。

ガンカンジャー3
男「何言ってるんだか」。

ガンカンジャー4
医者「ウソですよ」と笑顔。

ガンカンジャー5
え?と思った直後に、男「って言ってくれたらいいのに」とポツリ。

淡々としたセリフ回しに悲しみが詰まってて、冗談っぽい展開も現実逃避に過ぎないので、より悲壮感みたいなんが伝わってきます。マヌケっぽい絵柄だからこそ、胃がんという過酷な現実とのギャップ感もあります。

同じコマが連続することが多いのも敢えての演出。それが独特の間やテンポ感を生んでて、作品の妙な「味」に繋がってます。

でも「家族の愛と関心は大きな力にはなる。だからこそ僕はこの酷い時間が一日でももっと続きますように祈ってはまた祈り続けているんだ」など言い回しはシンプルなので、奇をてらってそうで奇をてらってない部分があって読みやすい。


泣ける

『ガンカンジャー』は結構ウルウルきます。植田まさしの『コボちゃん』風味満載の絵柄ですが、涙腺を刺激して止みません。

漫画タイトルから「ガンに打ち勝つストーリー」と一瞬勘違いしてしまいますが、26歳男は末期ガン。だから男の闘病記ではあるものの、ひたすら死んでいく話。淡々と癌という現実を直視して、淡々と打ちのめされて、これまでの短い人生を振り返りながら、ひたすら「残りの生」を消費していく。

だから基本的には「救われない」感じのマンガ。でも諦められない男がそこにはいて、生への執着や渇望が垣間見える。それ故に読者は共感を覚え、また男の絶望感や悲しみが素直に染み渡ってくる。

ガンカンジャー12
例えば、26歳男が家族に打ち明けるシーンはグッと来ました。最初は普通に打ち明けるものの、徐々に涙が流れていくプロセスがリアル。

最初は驚いて受け入れられない家族。冗談を言うなと父親は怒る。でも最終的に受け止める。こういった反応などを見て、男は改めて癌という現実を突きつけられる。こういった「何でもないはず」のありふれた家族との団らんが、まるで「最後の晩餐」のように読者には写ります。

ガンカンジャー19彼女
彼女に自分がガンである事実を告げるシーンもグッと来ました。他にもお見舞いに来た友達が励まそうとしてくれる場面も地味にグッと来ました。

ガンカンジャー32噛み合いそうで噛み合わない会話 旅行行くのクダリ
男が彼女に対して「イギリスへ旅行へ行こうよ」というクダリだと、全然2人の会話が噛み合わない。でも噛み合わない理由は「ガン(癌)」という現実が邪魔してる。癌は肉体に危害を加えるだけじゃなく、人生そのものが蝕まれていく感じが描かれてます。


ガンカンジャー コメント
ページ下部にはフェイスブックのコメントが載ってあって、そこには共感した内容が多い。それだけ男の揺れ動く心理描写であったり、環境や体調の変化であったりといったことが切実にリアルに描写されてる証拠だと思います。自分の祖父も先月初めぐらいにガンで亡くなったんですが、大往生だったとはいえ結構ウルウルさせられました。


シュールな演出も…

基本的に淡々としたシンプルな言い回しが多いものの、独特の表現がされることもあります。

例えば、男と同世代ぐらいの患者が「ガン宣告」を表現した場面。今までは各駅停車でのんびり乗車していたのに、ある時突然、車掌から…
ガンカンジャー34各駅停車
お客様、これより超高速で走ります」。それだけ目標地点(死)に誰よりも早く到着する。普通列車だと思ったら新幹線だったようなもん。何の準備もしてない人間がどう対応すればいいの?という戸惑いや憤りと共に、「超高速」という表現を使うことでジェットコースター的な恐怖感も体感的に煽ることもできてます。

他にも諦められない男が自分のことを「サッカーの試合終了のホイッスルが鳴っても、ボールを持って走り続ける」など詩的なセンスも見せます。

一方でシュールな演出もあります。
ガンカンジャー38
男はモルヒネなど鎮静剤を投与されると眠りについて夢を見るんですが、この場面では必ず得体の知れないモンスターが登場します。きっとガン宣告を受けた「現実感のなさ」みたいなんを表現されてるんですが、こういった話には読者コメントが付くことはほとんどありません(笑)

そして、男は「行く場所がない or 何をすればいいか分からない」と戸惑いを見せては、画像のようなモンスターたちに助けを求める。でもモンスターたちもどうしていいか分からない。こういった演出が何話も続きます。

ガンカンジャー62
でもこのシュールな演出もラストで活きてきて、「砂漠の王」という死を象徴するような存在を倒すぜ!みたいな感じで終わる。でも王を倒す旅は、そのまま天国に向かう旅。男が初めて夢の中で「目標」が見つかったわけですが、「砂漠の王と戦う=死ぬ覚悟」みたいなもんだったのかなーと思いました。

もちろんこの解釈が正しいかは不明ですが、作者にはプロット力もありそう。


エッセイ漫画ではない

ただ『ガンカンジャー』はエッセイ漫画ではないということ。

最初は作者自身がガンに罹患して、その闘病記をマンガ化したのかと思ってたんですが、男が死亡した後にも新たなキャラクターが登場して新たな物語が描かれているなど、元ネタとなった人がいたのかも知れませんが多分フィクション。

正直、この事実に途中で気付いた時には若干冷めた部分もありましたが、逆に想像で描いているとしたらストーリー作りや内容自体はむしろそれはそれで素晴らしい。でもリアルな話ではないと考えたら、やや引っ張りすぎの感も否めません。

前述のように1コマを淡々とペタリペタリと貼っていくスタイルを貫いてるマンガ。良くも悪くもダラダラとは読めるんですが、連続して読むと単調でやや飽きが来ます。まだエッセイだったら「リアルに起きた話」として許容できる部分もあるんですが、あくまでフィクションとしてはゴールまで畳み掛けられる感じはありませんでした。


総合評価

一コマだけペタペタ貼ってみましたが、実際に読まないと伝わりづらい「良さ」があります。紙で単行本化するのは難しそうな構成ですが、いずれ大手出版社から声がかかるかも知れません。漫画雑誌に限らず、週刊誌や新聞というのも一つの手か。ただ、もう少し「マンガのスタイル」を学ばないと辛いですが。

ちなみに男の話は33話ぐらいで完結。それ以降は別人の話。そうだとしたらちゃんと『ガンカンジャー1』とか『ガンカンジャー2』とかって具合に分けるべき。いや戦隊系だから『ガンカンジャー レッド』とか『ガンカンジャー ピンク』とかの方がいいか。もっと言えば「告知編」や「抗癌剤編」とかって分けるといいか。

あと一覧から1話目を選択しづらい。上から最新話をズラーッと並べてるだけなので、下までスクロールするのがダルい。例えば『裏サンデー』など他のマンガ配信サイトの構成を見習う(パクる)のも一つの手。