『ドラゴンヘッド』全10巻のネタバレ感想をレビュー。作者は望月峯太郎。掲載誌はヤングマガジン。出版社は講談社。ジャンルは青年コミックのパニックサバイバルホラー漫画。2003年には実写映画化もされるなど、累計発行部数が650万部を超えた人気作品。

この『ドラゴンヘッド』は2000年に連載が完結した割りと古い漫画なんですが、自分は2016年になって初めて読んだんですが意外にも今でも全然読めて面白かった。そこで『ドラゴンヘッド』が面白いかつまらないか今更ですが考察してみました。

ちなみに超長文の感想レビューになったので注意。特に後半部分の謎の満ちた結末の考察は長くなってます。


あらすじ ストーリー内容 登場人物

主人公は高校生の青木輝(あおき・テル)。修学旅行の帰りの新幹線に乗っていると、窓から見えた空をバカでかい黒い雲が一瞬にして覆った。そしてその瞬間、新幹線には突如としてすごい衝撃を受ける。

ドラゴンヘッド1巻 青木輝 新幹線内
(ドラゴンヘッド 1巻)
青木輝が気付くと、新幹線の車内には凄惨な光景が待っていた。また新幹線は奇しくもトンネル内で事故に遭遇したため、巨大な密閉空間に生き埋めにされてしまった。青木輝が絶望に打ちひしがれていると人の声が聞こえた。

自分以外にもまさかの生還者がいた。それが瀬戸憧子(せと・アコ)と高橋ノブオ。テルは三人で事態の打開を図ろうと考える。
ドラゴンヘッド2巻 高橋ノブオ
(ドラゴンヘッド 2巻)
しかしノブオは精神的に弱かったため完全にイカれてしまう。狂気に満ちたノブオがテルとアコに対して牙をむく。果たしてテルとアコは無事トンネルから脱出することはできるのか?

ドラゴンヘッド9巻 傷頭 竜頭リュウズ
(ドラゴンヘッド 9巻)
そして傷に頭を持つ竜頭(りゅうず)と呼ばれる謎の集団の正体とは?

『ドラゴンヘッド』とは謎の大災害で完全に荒廃してしまった日本を舞台に、絶望的な状況に追い込まれても希望を捨てずに生き延びようとするテルとアコの物語。恐怖とは何か?希望とは何か?ノストラダムスの大予言(アンゴルモアの大王)や終末論などが流行っていた1990年代を代表する究極のパニックホラー漫画。


圧倒的な荒廃感と吐き気がする陰鬱さが見事

とにかく『ドラゴンヘッド』の世界観がヤバイ。まさにドン底の暗闇世界。圧倒的な荒廃感と吐き気がするほどの陰鬱感に支配されている。普通のマンガだと背景や余白に「白い部分」が少なからずあると思うんですが、『ドラゴンヘッド』では徹底的に黒く塗りつぶされている。

ドラゴンヘッド1巻 青木輝 新幹線内
(ドラゴンヘッド 1巻)
初っ端の画像を再び貼っておくと、傾いた新幹線の車内が平衡感覚を失うようで視覚的に気持ち悪い。平行線のまま崩れた車内を描写してもいいと思うんですが、それだとリアリティを落としこむには限界がある。また新幹線が脱線する場面でも、衝撃波を表現するために吹き出しのセリフも揺れて二重に描写してるのも上手い。

ドラゴンヘッド3巻 電車がグチャグチャ
(ドラゴンヘッド 3巻)
電車も窓ガラスは割れて、レールもグッチャグチャ。東日本大震災でこういった光景を目にした記憶があります。

ドラゴンヘッド9巻 地下鉄構内
(ドラゴンヘッド 9巻)
地下鉄構内も柱も亀裂が入りまくって、全ての経済活動が停止した空気の止まった感じがよく表現されています。「無音」が見事に伝わってくる。

ドラゴンヘッド8巻 圧倒的な荒廃感に吐き気
(ドラゴンヘッド 8巻)
この画像は壊れまくったビルの中ですが、後ろに少しですがエレベーターも垣間見えます。コンクリートの崩れたカタチがリアルそのもの。芸が細かい。

ドラゴンヘッド9巻 ボロボロのマンション
(ドラゴンヘッド 9巻)
青木テルが実家のマンションに帰ってきたシーンでも、エントランス部分の壊れた感じも見事。

ドラゴンヘッド7巻 黒雲 仁村 アコ
(ドラゴンヘッド 7巻)
アコと元自衛官の仁村が襲ってくる黒雲から逃げてるシーンですが、この黒雲のモクモク感もすごい。

とにかく作画の安定感が見事。細かい描き込みが多いマンガは、途中で作画崩壊や描き込みの甘さが目立つことも多々見受けられます。でも『ドラゴンヘッド』の場合はほとんど皆無に近く、そういう面では安心して読める。こういった執念のような描写力が退廃的な世界観を見事に構築させていると言っても過言ではない。

また『アイアムアヒーロー』のように、コマ割りは絵コンテ風に流れるように見せる。似たような絵が続くものの、だからアクションが映像的に表現される。ゆっくりとした時間経過が、更にじわじわと息を詰まらせる効果も生む。

ただリアルな描き込み故に、ずっと読んでいたら吐き気すら覚える。窮屈すぎる閉鎖性と淀みきった空気感に思わず息が詰まる。『ドラゴンヘッド』の「劣化」した世界観は、未だに「劣化」することがなく存在してる。荒廃して何も「ない」世界が、未だにそこに歴然とハッキリと「ある」。

冒頭で自分は2016年になってから『ドラゴンヘッド』を初めて読んだと言いましたが、正確には1990年代にリアルタイムで少しチラッとだけ読んだことがあります。ただ薄気味悪い圧倒的な世界観に、当時の幼い自分は気圧されすぎて断念。

つまり恐怖と窮屈感に呆気無く尻込みさせられただけというオチ。まさに『ドラゴンヘッド』は子供閲覧注意。


最終回はこんなオチで完結

『ドラゴンヘッド』の最終回のネタバレをするので注意。

ラストの結末は東京に向かったアコと自衛官の仁村を追いかけて、主人公・テルも東京へ向かう。ただ消えてしまった富士山が東京にできる。

ドラゴンヘッド8巻 東京 噴火
(ドラゴンヘッド 8巻)
その富士山が現在進行形で噴火しまくり。もう少し正確に言えば、東京湾から房総半島にかけて富士山クラスの巨大な活火山が出現する。だから正確には東京というより、神奈川県の横浜市や川崎市あたりが潰れてしまってる状態。その火山が爆発的に何度も噴火し続けてる。

まさに絶体絶命の日本沈没状態。でもテルは諦めない。「人間の頭の中には恐ろしい力を持っている。闇の中に悪魔の顔を見れば、世の中はそういう世界に変貌する。ただ敵は他人や世の中とは限らないんだ。それを克服しなければ、人間はいくら長く生きれたって悲劇だ」。

人間の想像力は世界を発展させてきたものでもあるんだ。そうだ世の中はどうにでも存在することができる。そうだ僕らも想像できはずだ。未来を。新世界を」。
ドラゴンヘッド10巻 最終回 最終話
(ドラゴンヘッド 10巻)
そして東京や日本全土を覆っている噴煙が徐々に晴れ上がって行く。気付くと巨大な活火山は残っているものの、東京や神奈川にはライトが煌々と光ってる。何十年後かの未来を描いたのか、テルの想像の中の映像なのかは分かりづらいですが、「前向きに生きていけば未来はきっと開ける」というメッセージが込められたオチではないかと予想してみる。

日本列島に何が起きたか、何があったかまでは詳細に解明されない。アコの眠気の正体も不明。おそらく「夢オチ」的なことかもと想像してみますが、インターネット上などでは「投げっぱなしのラスト」という批判もあります。

観念的で抽象的な結末なので確かにもう少し丁寧な説明が欲しい所ですが、そこまで問題が多い最終回とも思わない。むしろメッセージとしてはかなりシンプルでポジティブ。そもそも荒唐無稽な設定だからこそ、こういう終わり方もアリ。むしろ読後感はスッキリとしたものもあった。


最終話で伝えたかった謎は核廃絶へのメッセージ?

この最終話の結末・オチを更に考察してみると、『ドラゴンヘッド』には明確なメッセージが込められているはず。結論から書くと、それは「核廃絶」へのメッセージ。竜頭たちが恐怖心を失った原因が「放射性物質」だったことからも、容易に想像されます。

ドラゴンヘッド10巻 放射能
(ドラゴンヘッド 10巻)
「竜頭(りゅうず)」たちは放射能に汚染された食料を食べ続けた結果、脳みそが破壊されて恐怖感を感じなくなる。ただ恐怖を避けるために放射性物質を口をしたにも関わらず、恐怖を感じなくなったからこそ今度は更に恐怖を求めてしまうようになる。

これは他国からの侵略を避けるために核兵器を所有したはずなのに、いつの間にか他国への侵略を広げていく口実や結果になるという皮肉。要するに「核兵器があるから平和が訪れるのはウソっぱち」ってことを言いたい。

ドラゴンヘッドの意味は直訳すると「竜頭(りゅうず)」のこと。つまりマンガのテーマとしては「前向きに生きていく」という漠然としたものより、作者・望月峯太郎的には「核兵器の廃絶」が主だったテーマに据えていたことは言うまでもありません。

例えば他にも主人公・テルが途中でラジオから、アメリカ軍と諸外国が交わした極秘文書の内容を聞くこととなる。その内容が「異変の発生に伴い日本の政府関係者との通信がほぼ瞬時に途絶えた。それどころか我が国に駐留軍の現状すら満足に把握できていない状態」。

そして「我が国は政治的・戦略的な様々な複合的理由から、非公式にではあるが軍を通じて日本国内に再三核の配備を進めていた。これにより異変発生時、日本国の領海内には複数の核が存在していたのだが、現在このうち数発が所在不明」と日本国にいつでも攻め入る準備ができていると書かれてあったと発覚。

つまり日本が「核兵器を所有(間接的であれ直接的であれ)」しているからこそ、諸外国に対して相互不信を招き、国家間での外交的な衝突や摩擦が起きた。核兵器を所有しているからこそ、結果的には戦争に繋がることを示唆してる。

一方、竜頭たちのボスらしきデブメガネが、不穏分子を殺しに来た自衛官に向かって吠える。「本当は今自国がどんな状態かってことすら分かっていないんじゃないのか?それになぜお前たちは来たのだ?ふっふっふ怖いからだろう?我々がしようとしていることが」。

お前らが想像しているとおりだよ。お前たちが我々をテロリストと思う限り、我々はテロリストなんだよ。勝手に想像して恐れるがいい。人間はそう思ったように作られ、世の中もそう信じた通りに存在するのだ。我々もお前らもこの世の中も」。

後半部分は前述の「人間は希望を持って前向きに生きていけば未来は開ける」という意味と被りますが、日本が核兵器を所有している前提で考えたらまた見え方が変わってくる結末。

結局、核兵器は「使う」以外に使い道がない。兵器全般に言える話ですが、核兵器は人を殺.すためだけに存在する。核兵器は人類に平和をもたらすために存在しているわけではない。つまり核兵器を所有した以上は、いずれ「使わざるを得ない」と誰もが強迫観念として考えるようになる。

少なくとも核兵器を所有している国々も核兵器を所有していない国々も、日本に対してそういう想像や思い込みをふくらませる。だから日本の自衛官も不穏分子である竜頭たちに対して、そういった疑惑を抱いて攻撃してくる。

ドラゴンヘッド1巻 ノブオ 闇の中にバケモノ?
(ドラゴンヘッド 1巻)
序盤で高橋ノブオが「闇の中に正体不明のバケモノ」を見たのも、本来はいないはずの「見えない敵や脅威」に対して漠然とした恐怖感に襲われた。普通であれば「漠然とした将来への不安」といった解釈になるのでしょうが、やはり「核兵器」そのものに置き換えて考えるのが自然でしょう。

要するに「核兵器」はそれだけで恐怖感や不信感を周囲に与えて、その恐怖感に支配された為政者たちがどんどん戦争を引き起こしていく、ってことを伝えたいんだと思います。ノブオのペインティングも攻撃的な虚勢だったと思うんですが、ある意味、それは核兵器そのものを表現したかったのではないか。

またデブメガネが「人間の頭に潜む破壊的な想像、無意識が作り出す恐怖の世界、それらの意識の集約こそが究極の恐怖なのだ。人間は頭の中に恐ろしい力を持っている。人間の頭こそ本当に怖いのだ」とも吠えてることからも、そういった過程が改めて読み取れるでしょう。

『ドラゴンヘッド』が連載していた1999年に、当時防衛政務次官だった西村真悟が「核武装発言」をしてクビになってる。ノストラダムスの大予言ばかりに目が行きがちな漫画ですが、そういったタイムリーな事件も発生していることも個人的に注目したい。

つまり、まとめると『ドラゴンヘッド』のラストは「核兵器に恐怖感を抱かなくなった人類や日本人」に対する警鐘を鳴らす内容が込められてるのではないかと推察してみる。ドラゴンヘッドの意味は「記憶を司る海馬(かいば)」も示してることからも、日本人がそういった悲惨な記憶を忘れたことに対する警鐘や警告も込められているのでしょう。もちろんこの場合の記憶とは「広島や長崎に投下された原子爆弾」のこと。

もちろんポジティブなメッセージが含まれているのも事実ですから、その両方をミックスして考えると「核なき世界は人類や国民の決意や強い思い(想像)によって達成」されると伝えたいんだと思います。

だから視覚的な恐怖感やホラーっぷりが話題になるものの、実は割と『ドラゴンヘッド』には政治的なメッセージが込められてることが分かります。あくまで「大災害」というアイテムを使ってはいますが、戦争の悲惨さなどを同時に伝えたい。

もちろんこのオチが面白いかつまらないかは別にして、意外と完成度は高かった結末だったと言えます。こういったメッセージ性・政治色を強く出さないために、また読者の想像に委ねようとしたからこそ、敢えて曖昧なまま完結を迎えたのではないかとも想像されます。


総合評価 評判 口コミ


『ドラゴンヘッド 全10巻』のネタバレ感想をまとめると、世界観の徹底した作りこみが緻密で見事。その完成度の高さに思わず引き込まれる。

「人間の思いが世界を暗くもするし明るくもする」というシンプルなメッセージ性も、敢えて観念的だからこそ良かった。納得できるかは別にしてキレイな終わり方で読後感は悪くない。振り返ってみると一貫したテーマ性もあったからか、不思議と読みやすかった気がする。

連載時期は不安な時代とタイミングが合致したこともあって、リアルタイムでは当時の読者に与えた鮮烈さは想像に難くありません。そういった衝撃と驚きは筆舌に尽くしがたいものがあったからこそ、発行部数も600万部以上を超えることができたんだと思います。

良くも悪くも「新しさ」を感じない絵柄だったからこそ、逆に10年後20年後の今読んでも意外と「古臭さ」を感じさせない。だからこそ『ドラゴンヘッド』の面白さ未だに色褪せずに読めるんだと思います。

正直間延び感がゼロではないものの、10巻分というボリュームも適度。当時と変わることはなく核兵器や原子力といった問題は、日本だけではなく世界で現在進行形で抱えてる問題。だからまだ未見の読者も一度は読んでおいて損はしないし、『ドラゴンヘッド』をリアルタイムで読んでだ読者も再び読むとまた違った捉え方ができるかも知れないのでおすすめ。

今でも全然正視に耐えうるマンガどころか、今現在でも『ドラゴンヘッド』に比肩するマンガを探そうとしてもそう簡単には見当たらないでしょう。まさに唯一無比。