『ドラゴンボール』全34巻のネタバレ感想。作者は鳥山明。少年ジャンプ(集英社)で連載してたバトル漫画。1990年代に一世風靡しました王道バトル漫画。ただ現在でもアニメ化や映画化ゲーム化される人気作品。自分が住む近くの本屋でもまだドラゴンボールが並んでるほど。

最近ではドラゴンボールの設定も進化。キャラクターの頭髪が金髪化するスーパーサイヤ人という覚醒モードが有名ですが、
少年ジャンプ15年27号
(少年ジャンプ15年27号)
最新作だとSSGSSという青色の髪の毛に変貌。おそらく信号の色を参考にしてるはず。赤(界王拳)→黄(スーパーサイヤ人)と来たので青(SSGSS)という発想。いかにも鳥山明的横着な発想。

ちなみにSSGSSの正式名称は「スーパー・サイヤ人・ゴッド・スーパー・サイヤ人」。何故スーパーサイヤ人を二回も連呼するねん。ノリ的には「鳥山明鳥山」。まさに意味不明。百歩譲って繰り返すとしても「ゴッド」の呼称の方じゃね?というツッコミはきっと無粋。

あらすじ

主人公・孫悟空が地球に迫る敵とバトルをして倒していくというストーリー。序盤はクリリンというライバルと亀仙人の元で修行して、ピッコロ大魔王と戦う。その後はフリーザ、セル、ブウなど強力で個性的なボスたちが多数登場。

ドラゴンボールでは主人公・孫悟空の子供時代から大人になるまでの成長が描かれているんですが、途中からはチチという伴侶と結婚して子供・孫悟飯を生んだりする。その孫悟飯の父子コンビで戦うこともザラ。しかも後半には孫悟空が亡くなって、孫悟飯に主役の座が移る。だから今までありそうでなかった設定や試みもチラホラ。

バトル描写が秀逸で見事!

リアルすぎない大げさっぷりが「圧巻」の一言。これぞマンガ的な表現。

ドラゴンボール完全版3巻悟空が目の前から消える描写
(3巻)
孫悟空が攻撃を受ける瞬間に相手の目の前から消える瞬間など、線をシャシャシャと書いてるだけだけど「消えた」感じがよく出てる。

ドラゴンボール完全版34巻バク転の軌跡
(34巻)
他にはバク転しながら後方へ移動したりといった「軌跡」を描くのが上手い。きん斗雲で移動する場面もその上手さがあらわれてる。

ドラゴンボール完全版16巻ナッパに体当りする悟空
(16巻)
ベジータ戦で悟空がナッパに体当りする直前のコマも、一瞬で悟空がスピードを上げた感じが出てる。右上の起点となる「丸」を描くことでより爆発感があらわれてるのかも。

ドラゴンボール完全版22巻フリーザにボディブローをいれる悟空
(22巻)
フリーザを悟空が殴った時は、しっかり相手の苦悶の表情を見せる構図が見事。最近のバトル漫画は「バトルの行為」を俯瞰的に描いてるだけで、肝心の「殴られた痛み」みたいなんは描かない。だから結果的に小粒な戦いで終わってることが多い気がする。

コマ割りも独創的!

あと個人的に改めてドラゴンボールを読み直して驚いたのが「コマ割り」。かなり独特というかセンスにあふれてる。

ドラゴンボール完全版7巻タオパイパイのどどん波を受け止める悟空
(7巻)
画像は孫悟空がタオパイパイのどどん波を受け止めてる場面ですが、色んな角度からそれを描くことで「どどん波の威力の強さ」が表現できてる。威力の強さというか、厳密には攻撃を受けてる時間の長さ。

普通ビームなどを受け止めたら、ズルズルと引きずられることで地面の跡ができる。でも「ビームを受け止める→地面の跡」というコマだけで表現すると、どうしても一瞬でビームの効果が終わった感じを読者に与えてしまいますが、一見ムダとも思えるコマ割りを多用することで全体的にダイナミックさも生まれてる。

他にもブウとの一戦。
ドラゴンボール完全版33巻コマ割り
(33巻)
ブウが左上に逃げようとするのを悟空が捕まえ、そして背後からケリを入れて右下へブウが飛ばされる。普通の長方形のコマと違って、キャラクターの動きや方向の向きが分かりやすい。地味にアイデアにあふれてるコマ割り。

大ゴマが多用されがち

最近の漫画家さんはコマやセリフがギューッと細かく詰め込まれすぎな気がしますが、ドラゴンボールではバトル描写以外でも大ゴマが多め。鳥山明は面倒くさがりな性格だそうですが、その傾向が良くも悪くも見事に現れてる。

ドラゴンボール完全版21巻フリーザ「痛かったぞー」
(21巻)
例えばフリーザーの「痛かったぞー!」や「ぜったいにゆるさんぞ!虫ケラども!」とか。冒頭でも書いた「鳥山明的横着」とはこういった部分。わざわざ1ページ丸々使うほどでもないやんと思ってしまいますが、確かに要所要所の場面では効果的な働きはしてる。

怒った場面や悲しかった場面、嬉しかった場面では大ゴマを使うことで、よりキャラクターの感情やストーリーの山場を作ることが可能。ただ鳥山明はやや多用しすぎな面もあって、リアルタイムでドラゴンボールを読んでた時は「アレ?今週もう終わったん?」と読み応えという点ではアッサリしすぎる副作用も。

孫悟空の大人編は意外に短い?

最近でもドラゴンボールのアニメがまた放送されてますが、「ドラゴンボール=孫悟空の大人編」と思ってる読者さんも多い気がする。でも漫画版のドラゴンボールを読む限りは、孫悟空の大人編(特にベジータあたりが登場し始めるZ編)はボリューム的にはそんなにない。

この完全版だと12巻目でようやく孫悟空が大人化。ピッコロが悪役キャラとして隆盛を誇ってた時期。裏を返せば、11巻までずっと孫悟空の子供時代が続く。タオパイパイやブルー将軍、ピラフやシンバルといった懐かしの敵キャラクターが登場。

ちなみにアニメではドラゴンボールZ編にあたるベジータやナッパ、ラディッツが登場するのが14巻。そしてフリーザ編が17巻目、人造人間なども登場するセル編が23巻目、魔人ブウ編が29巻目から始まる。だからドラゴンボールは感覚的に「子供編と大人編が4対6」ぐらいの割合。

ただアニメ版ドラゴンボールの長さを見てみると、孫悟空の子供編が3年間(1986~1989年)に対して、孫悟空が大人になるZ編(1989~1996年)が約7年。ほぼ倍近い差。それだけアニメ版のドラゴンボールでは引き伸ばしが行われてるということ。

しかも前述のように漫画版DBでは大ゴマが多用されてることも手伝って、ポンポンとテンポ感をもって読める。だから裏を返すとアニメ基準で読んでいくと、フリーザやセルなど一つ一つのエピソードがあっさり終わっちゃう印象。もっと言えば読後感としてはやや物足りない。孫悟空がスーパーサイヤ人になるクダリとか想像以上に一瞬ですからね(笑)

どうしてもマンガの引き伸ばしに対する批判は多いですが、やっぱりある程度は引き伸ばした方が良いこともある。それを痛感させるほどドラゴンボールの展開はあっさりしてる。特にONE PIECEなどに読み慣れている読者だと顕著かも。また胸が熱くなったり泣かせるといったストーリー性が薄い分だけ尚更。

総合評価

ストーリー展開に物足りなさは残るものの、逆説的に言えばテンポ感という点では最強。

ドラゴンボール完全版14巻ラディッツに魔貫光殺砲
(14巻)
画像はラディッツ戦ですが、こういったバトル描写でもゴチャゴチャ感がなくて、プロの漫画家さんほど参考になるバトル展開。ONE PIECEなどに限らず描き込みも重要な要素ですが、もっと「見やすさ」の工夫に重きを置いてほしいと思うことがしばしば。動きの流れも把握しやすくて、「ここはこうやって描けばいいのか」など勉強になりそう。

またフリーザやセルといった魅力的なボスキャラクターは鳥山明しか描けない。性格や中身がどうこうというより、見た目のデザインだけでオッケーというデザイン。まさに悪代官という風貌。単純に目を引くデザインだけで、読者の心をわしづかみにする力がすごい。最近でこそデザイン力が落ちた感じがしなくもないですが。

Kindleなど電子配信ではカラー版とかも発売されてるもよう。おそらく少年ジャンプ+でもカラーを担当してるJネットワークスとやらが担当してんじゃないでしょうか。



◯展開…★3.5◯テンポ…★5
◯キャラ…★4.5◯画力…★5
◯全巻大人買い…★5
◯おすすめ度…90点!!!!