『僕だけがいない街』全8巻のネタバレ感想をレビュー。作者は三部けい。掲載誌はヤングエース。出版社は角川書店。ジャンルは青年コミックのサスペンス漫画。主人公がタイムスリップ(タイムリープ)するなど「SF要素」も入ってたりします。

最近 藤原竜也と有村架純が主演で実写映画化されて、そこそこ人気だったらしい。興行収入的にも10億円を突破したとかしてないとか。ただ何故か、この原作漫画の最終8巻が発売される前に実写映画の方が先に公開されたんですが、その理由は不明。

とりあえず先日 最終8巻が発売されたばかりなので、「僕だけがいない街は面白いか、つまらないマンガか」を考察してみた。


あらすじ物語・ストーリー内容

時間は2006年。

主人公は藤沼悟(ふじぬま・さとる)。28歳の漫画家。ただし一度ゲームのコミカライズを担当しただけで、普段はピザ店でバイトする日々を送る実質的にはフリーター。もちろん連載終了後も何度か出版社に持ち込みを行うものの、それらが再び結果に結びつくことはなかった。

いつも藤沼悟が編集者から言われる言葉があった。それが「作者(あなた)の顔が見えてこない」。藤沼悟の作品は、一貫してキャラクターの掘り下げが足りなかった。これを言い換えると、自分の心を掘り下げる作業そのもの。

何故、藤沼悟は自分自身の心を掘り下げることを躊躇するのか。その原因は、藤沼悟の小学生時代にあった。更に具体的に言うと、元クラスメイトだった雛月加代という少女の存在が大きかった。

僕だけがいない街1巻 雛月加代
(僕だけがいない街 1巻)
雛月加代は小学五年生のある日、突然行方不明になるものの10日後に遺体として発見される。凄惨な連続殺人事件の最初の被害者となった。犯人は白鳥潤。主人公・藤沼悟が「ユウキさん」という名前で慕っていた若者だった。

しかし、藤沼悟は白鳥潤ことユウキが犯人ではないことを直感的に信じていた。何故なら事件の直前に、雛月加代の母親と遭遇。その母親が捨てたゴミ袋の中に雛月加代の体操着などが捨てられていたからである。まだ娘の生死も判明していない中、娘の衣類を捨てる母親などいない。

ただ当時小学生だった藤沼悟にできることは何もなかった。白鳥潤を死刑判決を受け、時間は流れた。あまりに現実離れした出来事に対して、藤沼悟は忘れたい記憶としてずっと頭の中に閉じ込めていた。これが自分自身を掘り下げる最大の妨げになっていた。

僕だけがいない街1巻 リバイバル
(僕だけがいない街 1巻)
この藤沼悟には「再上映(リバイバル)」という不思議な力を持っていた。「何か悪いこと」が起こる直前にそれは発動し、数分前といった極めて短いものの過去に遡ることができた。ただその「悪いこと」が解決されない限り、延々と同じ光景が繰り返される。

そして、このリバイバルが何度も発動されることで、藤沼悟は徐々に閉じ込めていた過去の記憶を思い出していく。

しかしリバイバルを繰り返すことで問題も起きた。雛月加代の事件における「真犯人」と藤沼悟の母親が遭遇してしまったからである。しかも「真犯人」は母親の知り合いだった。20年近く前の出来事で、藤沼悟の母親は記憶をすぐには思い出せないものの「真犯人」は明らかに気付いていた。藤沼悟の母親は殺されてしまう。

僕だけがいない街1巻 藤沼悟
(僕だけがいない街 1巻)
藤沼悟はリバイバルの機能を使って、母親が死ぬ直前まで過去に遡ろうとするものの、気付くとそこは18年前の昭和63年(1988年)だった。何故こんな過去にまで遡ったのか?最初は戸惑ったがすぐ疑問は解消された。何故なら、雛月加代が失踪する前月だったから。

僕だけがいない街4巻 藤沼悟
(僕だけがいない街 4巻)
そして藤沼悟は雛月加代を救うことを決意。何故なら雛月加代が死ななければ、真犯人が母親を狙うこともなくなるからである。

果たして雛月加代を救うことはできるのか?藤沼悟の母親が死なずに済む未来は訪れるのか?そもそも真犯人とは誰なのか?小学生の藤沼悟が真犯人を追い詰めることはできるのか?…というストーリーの漫画。

ちなみに『僕だけがいない街』の作者・三部けいは、荒木飛呂彦の元アシスタントだったらしい。『ジョジョの奇妙な冒険』の二部終盤から五部中盤まで担当してて、この漫画のあとがきにも荒木とのエピソードが載ってます。だから三部けいは割りとオッサンっぽい。現在ジョジョ四部がアニメ化されてますが、それは多分偶然(笑)


ミステリー?サスペンス?

『僕だけがいない街』のジャンルはミステリー漫画・推理漫画と紹介されてることが多いです。確かに犯人の正体は見所の一つかも知れません。

僕だけがいない街1巻 犯人像
(僕だけがいない街 1巻)
ただその割に藤沼悟の母親が襲われた時など、真犯人の顔をちょくちょく見せてくる。『名探偵コナン』のようにガッツリ黒塗りにされているワケではないので、これだと性別や年齢はモロバレ。

もちろん敢えて男性だと思わせておいて実は女性でした…という演出や仕掛けでも結果的にあればまだしも、漫画を読んでれば犯人の目星はある程度は予想できてしまう。何故なら容疑者候補となるキャラクターも少ないので、割りと消去法でなんとかなってしまう。

だから真犯人の正体が明らかになった時も、意外感という点では「あぁ…」程度だったかも。もしミステリー漫画として作品を追求するのであれば、もう少しミスリードを増やすべきでした。

前にも書きましたが『名探偵コナン』のようなミステリー漫画というより、『古畑任三郎』のようなサスペンス漫画に近いのかなーと思います。そこまで言い切るとまた語弊がありますが、漫画『僕だけがいない街』はせいぜいその中間あたり。

仮に極上のミステリー作品だとしたら、割りと穴だらけな側面も。

例えば、8巻44話で親友のケンヤが「久美ちゃんの刹害未遂まで、犯人は子供は狙ってなかった」と言ってるんですが、1巻では犯人が子供を連れ去ろうとしてる。これを未然に防いでしまったことで、藤沼悟の母親が狙われるハメになった。

僕だけがいない街7巻 ケンヤうすうす気付いてたはず
(僕だけがいない街 7巻)
そのケンヤが「お前の想像力が産んだ長い夢」と主人公・藤沼悟のリバイバルの能力を切って捨てた場面にしても、4巻で藤沼悟に対して「お前は誰?」と問い詰めてる。これも犯人と同様に、藤沼悟がタイムリープしていると疑うべき事象に色々と遭遇してるはず。少なくとも優秀なケンヤが気付いているはずなんです。

僕だけがいない街8巻 三部けいの目論見
(僕だけがいない街 8巻)
他にもツッコミどころを挙げればキリはないですが、作者・三部けいは「自分の漫画について来てくれるなんて恐ろしい読者に違いない。気を緩めたら即バレだ」と8巻のあとがきで語ってる。このアホくさい発想が原因かも。割りとこんな考えを持ってる漫画家は多そうですが、そういう人に限って目先のことしか見えてない。

だから重要な展開をはぐらかしてみたり、付け焼刃的に展開をアレコレと追加してみたりして、結果的に全体として読むと破綻してるパターンしてしまうことも多い。『僕だけがいない街』が破綻してるってことではないですが、少し理解しづらい部分も多いのはそういう一端が覗かせるからでしょう。

メインの展開を読者に読まれたらイヤだからといって、そこを漫画家自身が描かこうとしないってのは「メインディッシュを作ろうとしない料理人」と同じ。描き方によって読者の想像を超えることはいくらでも可能なんだから、そのメインディッシュをどう描くのかが漫画家のお仕事だよ。


犯人の正体は?

ちなみに犯人の正体もわりかし早い段階(5巻後半)で判明します。その後の展開は犯人をどう藤沼悟が追い詰めていくか?が焦点になります。

ミステリー漫画や推理漫画の場合、このブログは基本的にレビューでは書かないように努めてますが、敢えてそこを避けようとしたら、この記事で書ける部分が少なくなってしまうので犯人名はネタバレしたいと思います。もし知りたくない方はスクロールでバックしてください。

今から言いますよ?言っていいんですね?いいんですか?いいんですか?犯人の名前をネタバレしておくと…












八代学という男性教師。すぐ犯人名が表示されないように、少し出し惜しみしてみました。普段はこんなことやらないよ。

ただこの八代学にしても藤沼悟がギリギリと追い詰めて捕まえたというより、八代学の方からベラベラと犯行を自供している感は強い。だからそういう意味でも、八代学という狂気に満ちたキャラベースのサスペンス漫画として読んだ方が個人的にはシックリ来るのかなーと思いました。


SF要素との融合

とはいえアレコレと批判もしてみましたが、『僕だけがいない街』の完成度が決して低いということでもありません。ネット上で『僕だけがいない街』の評判や評価を調べてみると、全体的には絶賛の嵐が目立ちます。

僕だけがいない街6巻 八代学
(僕だけがいない街 6巻)
おそらく最大の理由はSF要素とサスペンスミステリーとの見事な融合・融和にあると思います。この試み自体が新鮮であり、また全巻を読み終えた上での感想としても比較的成功を収めていたと評価していいと思います。少なくとも、そう感じている読者が多いからこその絶賛。

僕だけがいない街8巻 八代学
(僕だけがいない街 8巻)
そして特にラストの完結にまで至る最終回では「先生には15分のアドバンテージ、僕は18年のアドバンテージでやっと五分だよ」という藤沼悟が八代学に放ったセリフが、まさに『僕だけがいない街』の全てが集約されていると思います。

同じ時間軸というアイテムを巧みに使いつつも、見事に対照的に使い分けてる完成度の高い決めゼリフ。「15分」と「18年」という時間の開きが、八代学という凶悪性を物語る比喩としても効果的に演出されてる。こういったラストのおかげで『僕だけがいない街』がまとまり感がある作品としてスパっと完結したように見える。終わり良ければ全て良しって感じ。


みんなが、仲間がいる街

ストーリー…というか「僕だけがいない街」の意味をネタバレしておくと、藤沼悟は冴えない人生を送ってきた。その人生で雛月加代などが八代学の犠牲になった。そしてリバイバルして過去に遡ることで、雛月加代を救った。

ただ一方で八代学の毒牙にかかって、藤沼悟は植物状態となって15年近く眠ることになる。そして再び藤沼悟は目覚めて八代学と対決するんですが、その「藤沼悟が眠っていた15年間」のことを「僕だけがいない」と表現されているワケです。

一見すると孤独でネガティブに思えたタイトルなんですが、むしろ藤沼悟が眠っていた空白期間にこそ「周囲の友達や知り合いが生きた明るい未来」があった。何故なら、リバイバルする前にはその仲間たちがいなかった。

つまり「僕だけがいない街」の時間があったからこそ「みんながいる街」になった。そこに藤沼悟も強い価値を見出して、漫画家として足りなかった自分を掘り下げる行為も可能になった。結果的に藤沼悟は漫画家として成功を収める。

そして、この八代学を倒した人生では、それ以降は二度とリバイバルは起きてない。同時に藤沼悟の記憶からは、雛月加代たちが毒牙にかかった前の人生の記憶が薄らいでいく。要するに「リバイバルで遡った過去」こそ「藤沼悟の本当の人生」だった。むしろリバイバルを繰り返してた人生こそ夢の世界だったみたいなオチ。

トータルとしてはSF要素を巧みに取り込んだサスペンスミステリー漫画に一応まとまってたと言えます。

ただイマイチ理解しづらい部分も多く、作者・三部けいの「自分の漫画について来れるもんならついて来い」的な発想で作らなければもっと面白くなってた可能性はあります。読者に展開を全く読ませないこと自体は別にすごいことではないんですよ、と教えてあげたいです。


総合評価・評判・口コミ


『僕だけがいない街 全巻』のネタバレ感想をまとめると、決して面白くないことはありませんがフツーのテンションで読むことをおすすめします。Amazonなどの感想を読むとハードルが上がりすぎてる感があります。つまるところ過大評価。

SFとサスペンスミステリーと融合させる試みが評価されていることと、その漫画自体が面白いかどうかは切り離して考えた方が良いかも。決して面白くないってことはありませんが、もしそこら辺の評判を読んでたら一度フラットな状態にして、自分の中でハードルを下げてから読んだ方が素直に面白いと感じるはず。

とはいえ長すぎず短すぎずという、全8巻というボリューム感は良い。ストーリーも比較的間延びしすぎず、読み応えもそれなりにあります。完全に間延びしてないかと言えばウソになりますが、最後できっちり上手いことまとめて、話としてキレイに落としてるので安心して全巻大人買いできる。どこまで面白いと感じるかは人それぞれでしょうが、読後感として「買って損した」と感じる人も少ないはず。