『アシガール』1巻から6巻のネタバレ感想。作者は森本硝子。ジャンルはラブコメありーの、歴史モノありーの、SFモノありーのな漫画。

あらすじ

時代は1559年(永禄二年)。その時代はいわゆる、日本が戦に明け暮れていた戦国時代。黒羽城の城主・羽木忠高の嫡男・九八郎忠清(以下、若君)も、戦に明け暮れる1人だった。ルックスは今でいうイケメン。

ただ主人公は速川唯16歳。足の速さだけが取り柄の、フツーの女子高生。ただ速川唯の弟・尊は天才児だった。ある日、その弟・尊がタイムマシンを開発。そんなことを知らなかった速川唯はタイムマシンのスイッチを起動。まさか戦国時代へタイムスリップ。前述の若君と出会い、速川唯は人生初の一目惚れをしてしまう。

アシガール1巻 唯之助1
(1巻)
そして唯之助として、速川唯は戦国時代を生き、若君のために生き抜くことを誓うのであった。果たして、この恋は実るのか?無事、戦乱の世を生き延びることができるのか?みたいなストーリー。

速川唯(唯之助)のキャラクターがおもろい

『アシガール』の見どころは、とにかく主人公・速川唯こと唯之助のキャラクターが面白い。足が速すぎて、余裕で走ってる馬に追い付く。お前はウサイン・ボルトか!

アシガール1巻 唯之助3
(1巻)
初めて若君に出会った時の表情がコチラ。目がハートマーク。口のカタチも絶妙にアホっぽい。というか、「んんんんんん」が多すぎ。女子高生だから許される表情で、オッサンがこんな表情を浮かべたら状況によっては逮捕されそう(笑)

アシガール1巻 唯之助2
(1巻)
そして合戦で若君と再会したときは、ここぞとばかりに覚えてもらうために自分の名前を何度も連呼。さすがに「うるさい!」と叱られるものの、「唯之助」と呼ばれると「よっしゃ名前を覚えてもらった」とガッツポーズ。自己アピールの場違い感がハンパない。それだけ若君に対する恋の猪突猛進っぷりが微笑ましくもあります。

若君には色んな女性が言い寄ってくる。権力や家柄だけではなく、今風で言うとイケメン。閨(ねや)と呼ばれる寝室にお偉いさんの娘が送り込まれる。そこで若君がチョメチョメ的なことをやっちゃう。言っちゃえば、当時の貴族用のラブホみたいな感じ?当然、ピュアバージンの唯之助は許せない。
アシガール2巻 唯之助
(2巻)
自分が代わりに若君の閨(ねや)の相手になるため、まさかの弟が作ってくれたスタンガンみたいなんでバチバチ。この時の唯之助の表情がわっるい顔してる。愛する男性のためなら、どんなことだってしますわよ。

アシガール3巻 尊の開発をぶっ放す唯
(3巻)
合戦の最中も「させるかごるあアアア!!」とそれをぶっ放す。ハチャメチャにも程がある。

若君が途中瀕死の重傷を負ったときには、若君を現代にタイムスリップさせてしまう。歴史が下手すると変わってしまうので、絶対やっちゃダメ。しかもタイムスリップできるのは一人だけ。満月の夜だけ。だから若君を現代に送ってしまったら、逆に自分が現代に戻れない。それを承知で愛する人のために無我夢中で行動する姿勢は素直に好感が持てます。

こんなこともあって唯之助の両親からしたら、何度もキケンな戦国時代にタイムスリップするのは止めさせたい。でも唯之助の若君に対する愛情は本物。「必ず帰ってくる」と約束させることで、両親はしぶしぶ了承。
アシガール6巻 楽観的すぎる唯之助
(6巻)
でもタイムスリップ直前に「帰って来なくても心配しないで。だって若君と首尾よく結婚できたってことだから」…ってコイツ前言撤回すんの早ええー!!若君のことしか見えてねーー!!両親がふびんすぎる。

アシガール4巻 九八郎忠清の現代服1
(4巻)
ちなみに現代にやって来た若君が、現在の服装を着るとこんな感じでイケメンさん。

結果的に若君は再び戦国時代に戻ってくる。唯之助は若君の命を救ったヒーローとして、若君の父に賞賛される。当時は苗字は誰でもあったわけじゃないので、褒美として「林勝馬(はやし・かつま)」という名前をもらいます。そして若君の父から「めでたい日だから踊りを見せよ」という無茶ぶりもされる。
アシガール5巻 ムーンウォークする唯之助
(5巻)
でもそこで唯之助が踊った踊りがムーンウォーク!日本の戦国時代にまさかのマイケル・ジャクソンが蘇る。現代でも相当驚いたダンスだっただけに、昔の日本人であれば驚きはひとしおでしょう。ドヤ顔で何度も「ポウ」をかます唯之助が憎たらしい。

時空を超えた恋愛ストーリー

こんな唯之助のことを若君が好きになるかというと、しっかり好きになる。裏表がなく、自分に向かってくる直情的な姿勢は個人的にも好感が持てる。確かに女性としての魅力は欠けるものの、数々の天然炸裂の言動は、難しく言うと庇護欲(ひごよく)がそそられる。言っちゃえば、年の離れた妹や従姉妹を可愛いと思うような気持ち。二人は年齢が近いので、若君は徐々に恋愛感情へ発展していったのも合理的ではあるのかなと。

アシガール3巻 唯之助の理屈
(3巻)
例えば、唯之助に「和議(仲直り)はしないとダメ」と諭されたり、当時の発想からはあまり考えつかないことを平気で言われる。ある意味、時空を超えた新鮮な考え方に刺激されたといった部分もあったのか。

ストーリー的には若君が戦国時代に戻ってきたとき、もうタイムスリップできるエネルギーは一回分しか用意されていなかった。でも若君は唯之助のことが既に好きになっていたものの、唯之助の両親のことを思って「あと二回分しかタイムスリップできないらしい」とウソを付く。もし一回分のエネルギーしか残されていないと言ったら、唯之助は現代に帰らなくなるから。

アシガール6巻 若君が唯之助を熱烈ハグ
(6巻)
結局唯之助は現代に戻った後、再び戦国時代に戻ってこれるんですが、若君はもう二度と会えないと思っていただけに、唯之助に対して強烈なハグ。このコマだけ見ても、若君の唯之助に対する愛が本物だと分かります。

ちなみに、タイムスリップするための道具を川に投げ捨ててしまった唯之助。「会えなくなるのはもう二度と嫌だから」というセリフにはキュンキュン来ましたが、果たしてどうなることやら…

こういうSF歴史モノもあり

だから色んな意味でめちゃくちゃなマンガ。中学生の弟がタイムマシーンを開発して、それを姉である主人公が何度も戦国時代を往復する。

これは常識的にありえないことは言うまでもなく、マンガ的にもありえない。何故ならSF歴史マンガの多くは、一度過去にタイムスリップしてしまうと現代には普通戻って来ない。ストーリーの軸は「一体どうやって現代に戻るか?一体過去の世界で生きていくか?」という二点に集約される傾向が強いと思います。言っちゃえば暗黙のルール。

でも主人公・唯之助こと速川唯のハチャメチャなキャラクターが、そんなツッコミどころ満載の展開を許してくれる。何度も時代を行き来すると、その設定のスペシャリティー感も失われますが、若君が現代という未来へタイムスリップしたことで展開に新たな幅が生まれてる。

アシガール5巻 タイムスリップしたことで平和を望む若君
(5巻)
実際に「戦のない世界」で数ヶ月過ごしたことで、若君は『平和』へ憧れを強く持つ。今後は安倍総理のことですから戦争に参加することも有り得そうですが、前述の唯之助の「和議をしなきゃダメですよ」という言葉もそこで実感を持って理解していく。唯之助をウソを付いてまで現代に戻そうとしたクダリも好例。

また「恋愛」に軸足が置かれてるので、歴史モノではありつつも小難しい歴史用語や複雑な人間関係もさほど気にならない。小中学生の読者が読んでも、読んでてそこまで面倒くさくはないかも。

主人公のキャラクター性だけではなく、恋愛というテーマを使ってることも大きな要因。恋や愛といった漠然とした観念が仮に時空を超えたとしても、それは矛盾や問題点ではなく、壮大なロマンを生む。むしろ展開に変な説得力や合理性を与えてくれる。

だから、こういうSF歴史モノがあっても良いし、マンガだからこそこういう展開を描けるんだと思います。

総合評価

主人公・速川唯のキャラクターが良い。特に小中学生の女の子は共感を抱きそう。大人読者が読んでも、不快にならない幼稚さがあります。展開の幼稚さもそこがクッション代わりになってくれる。若君に対する一途さは、誰しもがきっと好感を持てるでしょう。

笑いもあって、キュンキュンもできる。SFや歴史要素も取り入れた、新しいラブコメマンガなのかなと思いました。特に期待せずに読みましたが、オッサンでもそこそこ面白かった。

『アシガール』7巻以降の展開としては、宿敵である高山家が唯之助をさらう。最初は松丸阿湖を拉致して無理やり高山家の若君と結婚させようと試みたものの、唯之助が入れ替わったことで松丸阿湖は無事難を逃れた。逆に言うと、唯之助が強制的に結婚させられそうになる。そこを若君が高山家に直接乗り込んで救出しに行く直前で6巻は終了してます。

普通さらわれたら意気消沈するもんですが、高山家の若君がホッペが膨らんでるブスだったので「このしもぶくりぇやアアア」と唯之助は口の悪さ全開。結構意外に元気w

ちなみに松丸阿湖は若君の婚約相手だったものの、若君が家督相続しないという意志が強く、ほぼ破談状態。何故若君が家督相続したいと思わなくなったかというと、もちろん唯之助の存在。「ただ一人と決めたオナゴをめとり、子をなして、家族が睦まじく戦とは無縁の暮らしをすること」と若君は父親に対して述べてる。
アシガール6巻 テヘペロする唯之助
(6巻)
でも唯之助は全然当事者意識に欠ける。政略結婚が当たり前にあった時代なので婚約が破談になれば、戦に発展することだってある。唯之助からしてみたら、大好きな男が自分を選択してくれた事実は嬉しい。それを「ねー(テヘペロ)」の一言で済ます。どこまでも緊張がないw

この唯之助を好きになれたら買いのマンガではないでしょうか。



◯展開★3.5◯テンポ★5
◯キャラ★5◯画力★3.5
◯全巻大人買い★5
◯おすすめ度…88点!!!!