『アルスラーン戦記』3巻4巻のネタバレ感想。作者は荒川弘。別冊少年マガジン(講談社)で連載中の戦争漫画。

あらすじ

舞台は、パルス国にある王都エクバターナ。パルス国は経済が発展した豊かな国だった。反面、貧富の格差が激しく、街中には多くのドレイがいた。ドレイの多くはルシタニア人だった。ルシタニア国は信仰に篤く、人を平等に扱うイアルダボード神を信奉していた。

一見すると穏やかな国家と聞こえますが、その信仰心は度を越していた。「異教徒は全て排除」という思想のもと、パルス国と度々衝突。しかし経済力を背景にパルス国はルシタニアを圧倒。その結果、パルス国にはルシタニア人のドレイが増加していく。

主人公は、王都エクバターナの少年王子・アルスラーン。性格は優しく、剣の腕は人並み以下。物語はアルスラーンがルシタニア国との戦争で初めて駆り出された場面から始まります。当然今回もルシタニアに勝利するはずだったものの、カーラーンの裏切りによって戦況は逆転。

結果、王都エクバターナがルシタニアに侵略され、そこを奪還するためにアルスラーンが奮闘する…みたいなストーリー。ざっくり言うと「パルス国 VS ルシタニア国」の間で戦争が起きてまっせーという状況。

銀仮面卿の正体はヒルメス

カーラーンの裏切りがパルス国を致命的に追い込むわけですが、この背後には銀仮面を被ったナゾの男がいる。剣の腕は立つ、頭も切れる。唯一の欠点が、顔に負った火傷痕。正体不明感バリバリ。

アルスラーン戦記3巻 銀仮面卿ことヒルメス
(3巻)
3巻では銀仮面の正体が発覚。パルス国の現国王・アンドラゴラスの兄・オスロエスの息子・ヒルメス。関係性が少しややこしいですが、ヒルメスは主人公・アルスラーンとは血が繋がった従兄弟。そして、アンドラゴラスの甥。

実は現国王・アンドラゴラス(アルスラーンの父)は兄オスロエスを倒すことで、かなり強引に国王に就任してた。兄から后タハミーネも奪う。王族や皇族は、基本的に長兄の家系が優先的に国王を継承する。その理屈は『アルスラーン戦記』の世界観でも同じらしく、兄・オスロエスの血を継ぐ者が優先的に国王を継承する権利がある。

つまりオスロエスの息子であるヒルメスも消さなければ、アンドラゴラスは自分が国王になれない。そういった背景を考えると、何故ヒルメスが顔に火傷のキズを負ったのかが見えてきます。

アルスラーン戦記4巻 ヒルメスとアンドラゴラス逆転の立場
(4巻)
2つのコマを並べて比較することで、現在と過去の状況・立場の違いが対比的に描写されてます。要は銀仮面卿ことヒルメスは、父親オスロエスの敵を討つために敵国・ルシタニア国に潜入。虎視眈々と機会を狙っていた。そしてルシタニア国を扇動し戦争を仕掛けることで、ついには王都エクバターナの陥落にまで至ったということ。

じゃあアンドラゴラスを捕らえた以上、もう処刑すればいいやんって話なんですが、ヒルメスの復讐の炎は簡単には消えない。アンドラゴラスの息子・アルスラーンと同時の処刑を画策している状態。

アルスラーン戦記4巻 カーラーンの息子・ザンデ
(4巻)
ちなみにカーラーンの息子・ザンデも4巻で登場します。だからヒルメスの工作はパルス国に広く浸透していて、裏切り者の数も大規模と推察できます。

果たして、主人公・アルスラーンは父・アンドラゴラスを救い出せるのか?…と言いたいんですが、
アルスラーン戦記4巻 笑うアンドラゴラス
(4巻)
かつて自分がコロそうとした少年が眼前に再び現れたことに、アンドラゴラスはまさかの笑い。

これは一体何を意味しているのか?これが因果応報と自分の運命・人生の最期を嘲笑っているのか、確実に最後のトドメをささなかった自分の間抜けさを笑っているのか、はたまた今度こそヒルメスの命を奪ってやろうと考えているのか。1巻からの言動を見ていても、やはり素直に応援できないオッサン。

交錯するそれぞれの思惑

ただ状況は更に複雑。

まずルシタニアの国王はイノケンティス。異教徒に対して徹底的に弾圧。赤ちゃんから女性まで万遍なく。そして書物も焼き払いまくり。まさに恐怖の大王。反面、敬虔な信者という見方もできます。ただイノケンティス王の背後には聖職者・ボダンがいた。

アルスラーン戦記3巻 ボダン
(3巻)
このボダンがとにかく強烈。「イアルダボード神を心から敬う者には病魔など取り付かぬ!」と、味方のルシタニア兵すら手にかける。言い分がめちゃめちゃ。

マルヤム人150万人の命を奪ったときは、「女はいずれ子を産む。子は成人して異教の戦士となる。老人や病人もかつてはイアルダボード教徒を迫害したかも知れぬ」と老若男女問わず殲滅。イノケンティス国王はボダンたち聖職者の影響を受けていてる可能性が高い。

まさに、現代で言うところのイスラム国に負けない。そういえば日本人もイスラム国の被害に合いましたが、その間、安倍総理はのんきにフジテレビの社長と仲良くゴルフを楽しんでたという。だからテレビで全く報じられてなかったのが何とも。

アルスラーン戦記3巻 タハミーネの謀略
(3巻)
それはさておき、イノケンティス国王は敵国・パルスの王妃・タハミーネに一目惚れ。当然パルス国は最大の異教徒。ボダン然り、聖職者たちからしてみると、そこの王妃と結婚するのは言語道断。加害者と被害者の遺族が結婚する感覚に近い。

つまりルシタニア国はイアルボード教を国教としているものの、信仰度はマチマチ。イノケンティスは単に横暴な振る舞いに酔っていただけのアンポンタン。
アルスラーン戦記4巻 タハミーネの誘導・イノケンティス七世
(4巻)
それを見透かしていたのがタハミーネ。自分の旦那である「パルス国王・アンドラゴラスの首を持ってきたら結婚してあげる」とイノケンティスに持ちかける。前述のアンドラゴラスの処刑という点では、ルシタニア国王・イノケンティスも聖職者ボダンも目的が一致しているものの、その先に待っている結末は真逆。

ちなみに画像下の呆れ返ってる男は、イノケンティスの弟・ギスカール。こちらは優秀。軍上層部はボンクラのイノケンティス王をこれを機会に引きずり降ろし、ギスカールを次期国王にしたいものの、肝心のギスカールは王座につく気がサラサラない気配。こちらはこちらでどうなるのか。

要は、タハミーネがルシタニア国内の火種を撒こうと画策してる。しかも自分の旦那の命を利用しての揺さぶり。イノケンティスがボダンを処刑したらタハミーネと結婚できるものの、当然聖職者側が幅を利かせている国情を考えると対立は必至。この記事がいつまで読まれるか分かりませんが、現在の「維新の党」みたいに分裂。

でもアンドラゴラス処刑を許さないのが、前述の銀仮面ことヒルメス。厳密には、その息子・アルスラーンと一緒に処刑したいので、それまではアンドラゴラスを生かしておきたい。まさに三者三様の思惑が交錯してる状態。当然ヒルメスは素性を隠していますが、やはりゴリゴリの異教徒。もしボダンにバレたら、どうなるかは言うまでもない。ヒルメスはどう難局を乗り越えようとして、無事復讐は果たせるのか?

そしてストーリーは、イアルダボードの聖堂騎士団が到着。ボダンを武装化したようなオッサン連中。聖職者の一派がルシタニア国内で地盤を固めつつある。
アルスラーン戦記3巻 ボダン2
(3巻)
この武力を盾に、ボダンは国王であろうと容赦しない。「一国の王といえども!異教徒の女を娶ろうなどと邪心を起こしたとき!病毒は神の杖となって撃つだろう!」と半ば脅迫。狂信的なカルト信者たちが着々と勢力を拡大させる中、物語はどういう風に進展してくのか?

自由とは何か?

奴隷制度も根幹には一つのテーマとしてあります。

主人公アルスラーンがホディールというハゲに助けを求めに行くんですが、結果的に裏切られてホディールを倒すハメになる。まさにダリューン無双。

このホディールは金持ちで、たくさんのドレイを抱えてた。当然主人がこの世から消えた以上、アルスラーンは彼らを開放してあげる。1巻を読む限り、アルスラーンも「ドレイとして生きる方が安泰じゃね?」という考えだった気がしますが、徐々に「自由」の大事さを認識した模様。

アルスラーン戦記4巻 奴隷たちの反乱
(4巻)
ただドレイたちは主人が倒されたことに憤怒。アルスラーンに対して、「許さない!略奪者め!」と逆に敵意むき出しで攻撃されそうになる。実はホディールは彼らに対して優しかった。ドレイ側から考えると遊ぶ自由や出かける自由はなかったものの、安定的な「衣食住」は確保されてた。むしろ彼らはホディールに対して感謝の念すら抱いてた。

考えてみると、現代の「社宅住まい」に近い。サラリーマンや労働者も社畜と揶揄されることもありますが、厳密にはドレイに近い。プライベートの時間も奪われることも多く、サービス残業を強要されることも多い。もちろん、その仕事を辞める自由は一応確保されてますが、そういう自由を何度も行使することが幸せな人生に結びつくかは微妙なところ。

その現実に直面し、まさに困惑した表情を浮かべるアルスラーン。全国的なドレイ開放という夢に迷いが生じるものの、ナルサスとエラムの話を聞くことで、一応アルスラーンは夢を諦めません。

アルスラーン戦記3巻 ルシタニア兵
(3巻)
ルシタニアはイアルダボード教を信仰しているのでドレイも平等に扱うのかと思いきや、「貴様らは豚や牛と約束をするのか?」と突き放す一面も描写されてます。まさに口先だけの信仰。これがイアルダボード教の真の信者の目にはどう映るのか?意外に物語に影響を与えそうな部分かも。

総合評価

クセのあるキャラクターばかりですが、それでも上手いこと扱えてる気がします。採点は86点にしてますが、ラストまで読んでみないとorもう少しまとまったボリュームで読まないと評価しづらいのかなとも思います。読者を選ぶマンガだとも思いますので、全巻大人買いの評価も★4に。

5巻へ続く展開としては、主人公・アルスラーンたちが万騎長キシュワードがいるペシャワール城を目指すものの、ペシャワール城までには聖マヌエル城がある。そこはかつてはパルスの砦だったんですが、現在はルシタニア軍が改築して根城にしている場所。城主・バルカシオン伯爵を筆頭に、エトワール(1巻でアルスラーンを襲った少年兵)も常駐。次巻も一悶着がありそう。

◯展開★4.5◯テンポ★3.5
◯キャラ★5◯画力★5
◯全巻大人買い★4
◯おすすめ度…86点!!!!