『あれよ星屑』1巻のネタバレ感想。作者は山田参助。月刊コミックビームで連載中の戦争漫画。最新2巻が発売される直前の2014年9月頃に旧ブログで更新したレビューになります。

あらすじ

あれよ星屑1巻焼け野原になった東京
舞台は、戦後直後の日本。東京なんかは焼け野原状態だったので、掘っ立て小屋ばかり。日本は本土決戦してなかったと言いますけど、結構色んな街がボコボコにやられてる現状を見ると、そんなこと言えんよなーと。

あれよ星屑1巻黒田門松
そして主人公は命からがら生き延びて、帰ってきた黒田門松。靖国神社で仲間だった英霊たちにカッコ良く挨拶するものの、自分の腹の音に邪魔される。どんな美名を語ったところで、結局は空腹には勝てず。

ノリ的にはコメディーチックな雰囲気を醸しつつも、戦争(戦後)のリアルを無粋に無骨に描いてる。だからしょうもない百田尚樹など、一部の層が気持ち良くなるような漫画ではないかなー。

食べるための戦争

東京に帰ってきても、黒田門松は食うものも仕事も何もない。そこで再び出会ったのが、かつての上司・班長だった川島徳太郎。川島は高等教育を受けていたややエリートで、現在はちょっとしたお店を経営。そして黒田は拾ってもらって、何とか生活できるようになる。

戦後、何も食うものがない殺伐とした描写がリアル。だからこそ出てくる食べ物もかなり粗末だけど、地味に美味そうに見える。進駐軍(米軍)から直輸入したスープには、まさかの使用済みのゴムが入ってたりするっていう。こういうことも含めて、「日本の敗戦感」がすごい漂う。

あれよ星屑1巻野良犬を食べる
果てには野良犬も食べる。それぐらい戦後日本には食料がない。ワンピースのサンジ編でも書いた気がするけど、空腹は人間性を失わせる。東南アジアなどでは外国人捕虜を食べた日本兵の話もあるぐらいですから。

それとほぼ平行に描かれるのが、戦争が終わると途端に嫌われ出す日本兵。その描写も進駐軍とは対比的に描かれてて何とも切ない。ただ厳密には戦中から日本兵は嫌われた。そういう批判や不満を言い出せる空気感ではなかった。下手すると逮捕すらされた時代。

でもそういう日本兵に切なさを感じると同時に、黒田門松を筆頭に同情できない一面もある。
あれよ星屑1巻川島徳太郎と黒田門松
自分の田舎に居場所がないから、また仕事がないから黒田門松は兵隊として役割を希望してた。太平洋戦争などは「アジアを開放する」みたいなキレイ事や美名が語られがちですけど、戦争を煽ることで自分の将来の安定を考えてたゲス兵士も多かったんだろう。

生き残ったが故の苦悩

ただ、それでも仲間の兵士は次々と殺されていく。無残にリアルで散っていく姿を目の当たりにする。そこでいつ自分がああいう運命になるか恐怖に常に怯える。

あれよ星屑1巻生き残った日本兵の苦悩
黒田門松と川島徳太郎が一杯やってると、隣にいた元日本兵がとうとう語り出す。「戦地で死んだ奴らがぴったり背中に貼り付いてると感じる」。そこには理不尽な自責の念などに苦しむ。黒田門松などは、そこに必死に目を向けないように無意識的に努める。

あれよ星屑1巻生き残った日本兵の苦悩2
ただ、この元日本兵は川に身投げして死んでしまう。生き残ったら生き残ったで、苦しみ続けるのが戦争。イラク戦争に駆り出されたアメリカ兵が精神的に錯乱して大事件を起こしたりしますけど、いろいろ考えさせられる。元日本兵が戦中戦前の話をしたがらなかったのは、こういう側面も強いんだろう。

日本にいた慰安婦

最近は何かと話題ですが、慰安婦も日本には多くいた。設定が戦後だから戦前の話はひとまず置いておくとして、特殊慰安施設協会(RAA)みたいな組織があった。そこでは進駐軍(米兵)相手の日本人慰安婦を…ってこと。

あれよ星屑1巻米軍と日本人慰安婦
テンション上がりまくりの米兵。ほぼ拉致まがいのこともしてたり、しかもブツがデカイのを一日何十人と相手したり、みたいな描写がてんこ盛り。日本も似たような、もっとヒドいことをしてたんだろう…ということは容易に反面教師として学べる。

総合評価

描写は開けっぴろげ。差別用語はさすがに書かれてないが、それでも制限や規制はない。だからと言って、過剰過ぎる表現もないので、リアルに写る。

性描写もそこそこ多いんですが、女性にはワキ毛が軒並み生えてたり、変に取り繕おうとしてないのが素直に色んな情報を受け止められる。だからこそ不快に思う読者も一定数いることも間違いないはず。ただ色んな読者に読んで欲しいと思わせる漫画ではある。

ちなみにこの『あれよ星屑』1巻の時間軸は戦後。ただ2巻目以降は戦前に遡って描かれるようなので、どういった展開が描かれるのか少し期待したいと思います。ちなみに最新3巻は今月6月25日に発売だそう。

あれよ星屑 1 (ビームコミックス)
山田参助
KADOKAWA/エンターブレイン
2014-04-25

◯展開★4◯テンポ★4
◯キャラ★3.5◯画力★3
◯85点!!!!