『アオハライド』全13巻のネタバレ感想。作者は咲坂伊緒。別冊マーガレット(集英社)で連載してた恋愛漫画。発行部数は700万部だか800万部だか超え。主演・本田翼で実写映画化もされてたらしい。

漫画タイトルの『アオハライド』の意味は「青春+RIDE」を組み合わせた作者・咲坂伊緒の造語らしい。「あの頃に何で上手くできなかったんだろう…」という咲坂伊緒の青春を投影させてるとか。だから全体的には恋愛要素よりも、青春要素が強いかも知れない漫画かも。


あらすじ

主人公は吉岡双葉。

中学時代に田中洸という男子生徒が好きだった。田中洸は背が小さくて髪の毛もサラサラしてて、性格も優しく女の子みたいだった。二人は目が合うと必ず一度そらして、また目が合う。こんな関係がしばらく続いた後、田中洸が夏祭りに三角公園の時計のところで会おうと約束。

しかし田中洸は来なかった。そして夏休み明けの学校で田中洸が転校していたことを知る手探りみたいな恋愛だったけど、何も始まらないまま吉岡双葉の初恋は終わり、わだかまりや心残りだけが深く刻まれた。

時間は流れて数年後。吉岡双葉は高校2年生になろうとしていた。吉岡双葉は曲がりなりにも美人だったが、クラスの女子生徒たちに嫌われないように敢えてガサツな女子を演じていた。いつものように大食いしようと購買部へ昼食を買いに行くと…
アオハライド1巻 馬渕洸
(アオハライド 1巻)
ひょんなことから、田中洸と遭遇。偶然、同じ高校に通っていた事実を知る。そして二人の運命の歯車は再び動き出す。

アオハライド1巻 馬渕洸2
(アオハライド 1巻)
ただ苗字が「馬渕(以下 馬渕洸)」に変わり、馬渕洸は性格も変貌。だから吉岡双葉は気が付かなかった。そして「もう戻れないけどね。あの頃とは違うからな。俺もお前も」と意味深なセリフ。二人が会わない間に馬渕洸の身に何があったのか?吉岡双葉は楽しかったあの頃の日々に戻れるのか?…みたいな恋愛漫画。

馬渕洸の兄貴・田中陽一、天然ブリっ子・槙田悠里、クールな一匹狼・村尾修子、お調子者・小湊亜耶といったサブキャラクターたちと共に、『アオハライド』の世界が構築されていきます。


馬渕洸にキュンキュン

『アオハライド』の面白さは、やはり馬渕洸というキャラクターにありそう。

アオハライド12巻 馬渕洸の奮起 無意味に髪をかきあげる
(アオハライド 12巻)
悩んでる仕草だって無意味に髪をかきあげたり、完全なるナチュラルイケメンっぷりを披露。

アオハライド9巻 駄々をこねる馬渕洸
(アオハライド 9巻)
性格は少し小生意気で、ちょいちょい吉岡双葉を困らせてくる。

ただ前述の通りオラオラ系っぽいんですが、意外に馬渕洸は奥手。

例えば、6巻だと菊池冬馬という男子生徒のライブを観てる時に、吉岡双葉と馬渕洸は偶然キスしてしまう。馬渕洸は意に介さない様子。それを見て吉岡双葉は逆ギレ気味に「ほんと!何も無かったも同然だっての!」と涙。それを見た馬渕洸は「これでなかったことにできないね」と改めてキスしてくる。しかも吉岡双葉の顔をやさしく両手でつかんでのキス。これ女子が好きなパターンのやつやー!

思わずテンションが上がる展開。

ただ、ここで終わると馬渕洸はいかにも恋愛上級者って感じに映るんですが、直後に二人は無言と沈黙。これに耐え切れずに、「なに黙ってんだよ」と馬渕洸は吉岡双葉の頭をグリグリ。吉岡双葉に「そっちこそ黙ってんじゃん」と言われると、「だって照れんじゃん」と赤面する馬渕洸。ふぅーー!咲坂伊緒センセー!これが一度に二度美味しい、ってやつですね!?

アオハライド7巻 馬渕洸のテレ顔
(アオハライド 7巻)
やたらと吉岡双葉をスルーしてるなーと思ったら、馬渕洸は自分の風邪を移さないように気にしてた。口元に毛布を持ってくる仕草ー!ふぅー!咲坂伊緒センセー!これが萌えポインツってやつですね!

つまり馬渕洸は少女マンガにありがちな、ギャグっぽい俺様系キャラクターではない。「俺だって男なんだぜ。何しちゃうか分かんないんだぜ」と吉岡双葉を襲う素振りを見せつつも、基本的に最後まで及ばない。敢えて冗談っぽく言うことで、自分の気持ちが吉岡双葉にバレないように装ったり、自分の気持ちを抑えつけようとする。

だから男読者が読んでも、馬渕洸は実はそこまで鼻につかないイケメンキャラクター。冒頭で「アオハライドの発行部数は700万800万部超え」と書きましたが、おそらく女性読者だけではここまで発行部数は伸ばせない気がするので、それなりに男ウケも良かったのかも知れません。

こんな二人の進みそうで進まない距離感が絶妙。作中の表現を使うと、二人の「じりじりと探りあう、あと一ミリみたいな言葉と態度」にドキドキ、ヤキモキさせられる恋愛漫画。

アオハライド4巻 吉岡双葉の好き1
(アオハライド 4巻)
例えば、電車が通り過ぎるのを二人で待ってる瞬間、吉岡双葉が「好き」と叫んでみたり、

アオハライド2巻 キスしそうになる馬渕洸と吉岡双葉
(アオハライド 2巻)
机の上に二人が最初は逆を向いて突っ伏してるんですが、先に吉岡双葉が馬渕洸の方を見る。そして馬渕洸がしばらくして、ふと吉岡双葉の方を見る。そうすると偶然キスしそうになるではありませんかー!

そして馬渕洸は何事もなかったように、再び逆方向を向いてテレ顔を隠す。そこでガバッと行けやー!とつい思ってしまうんですが、こういった場面で一歩踏み出せないのが青春っぽくて良い。


馬渕洸の過去が明らかになった以降は…

ストーリーに関して言うと、『アオハライド』の序盤を読むと結構ウルウルさせられます。理由は馬渕洸の過去にあります。

アオハライド4巻 馬渕洸の母親
(アオハライド 4巻)
何故ツンツンしてたかといえば、中学時代に馬渕洸の母親が病気で亡くなってしまう。このことに関して馬渕洸はずっと自分自身を責めてた。もっと母親のために何かできたんじゃないか、次第に母親の顔を忘れていく薄情な自分を許せなかったり、そもそも自分が幸せになっていいのか?とまで自分を追い詰める。

ただズケズケと心に踏み込んでくる吉岡双葉のおかげで、徐々に馬渕洸の心境も変わっていく。

アオハライド4巻 馬渕洸の涙
(アオハライド 4巻)
そして、「そうか俺は、何かに心が動いたり、心底笑ったり、毎日に意味を持ったりするのを許されたかったんだ」と涙する馬渕洸。「本当はずっとこんな嵐みたいなものを待ってたのかもしれない」と吉岡双葉を抱きしめる。そこで自分が背負っていたモノが軽くなる。

アオハライド4巻 田中陽一
(アオハライド 4巻)
馬渕洸が兄である田中陽一と、数年ぶりに一緒に御飯を食べるシーンは思わずグッと来ました。

だから『アオハライド』の展開の山場というかクライマックスは、ストーリーの序盤の方で訪れます。逆に言うと、それ以降に馬渕洸の過去を掘り下げるクダリはあんまりなく、最初の方で全てネタばらししちゃって出し切った感じなので、あとはグズグズとした展開が続くだけ。

4巻5巻以降は、馬渕洸が転校した中学で知り合った女子・成海を助けようと奮闘する。成海は親が亡くなったばかりで、精神的に頼れる相手がいない。そこで馬渕洸は母親を亡くした負い目もあり、その贖罪や懺悔の気持ちを成海を助けることで解消しようとする。

ただセリフ頼みの展開も目立ったり、成海のキャラクターもイマイチ好きになれず、ストーリーとしてはそこまで面白くはありません。主人公・吉岡双葉もウジウジして、馬渕洸とくっつくのか離れるのかグズグズしたやり取りが続く。全体的にフツーの恋愛漫画の域を出ることもなく、「波乱」なども期待すると肩透かしを食らうかも。

うーん、って感じ。良く言えば、出し惜しみが下手。


洸のライバル・菊池冬馬

吉岡双葉をウジウジさせる原因の一つが、菊池冬馬という男子生徒。

アオハライド8巻 菊池冬馬のブリっ子
(アオハライド 8巻)
一見するとフェミニン系イケメン。口元を手にやる仕草などブリっ子してみたり、性格はナヨナヨしてるのかと思いきや、実は肉食系。

アオハライド9巻 菊池冬馬
(アオハライド 9巻)
吉岡双葉に対して、改めて自己紹介をする場面では、「今は彼女はいないけど、でもすごく好きな人がいます」と笑顔でニカッ。そして、菊池冬馬は何かっちゃあハグしてくる。

馬渕洸と離れようとするものの、内心では常に馬渕洸の存在が消えない吉岡双葉に対して、「強気な吉岡さんも弱気な吉岡さんも行ったり来たりして、だけどその度に自分なりに前に進もうとする吉岡さんが俺は好きだよ」と8巻。

9巻だと「吉岡さんの心に今誰がいたって、俺負けないから。だから何も言わなくていいんだ。そういうのだって俺が全部全部それごと全部引き受けるから」など、菊池冬馬はまるで西野カナの歌詞をそのまま体現したようなキャラクター。男からしたら戦慄で戦慄で震える。菊池冬馬は高校生なので、お前人間的にどんだけできてんだよ、と何度ツッコみたくなったか。

一応、この菊池冬馬と一緒に過ごすとき、いつも馬渕洸と無意識的に比較してしまうことで、やっぱり「吉岡双葉は心の中でずっと馬渕洸を想っていた」みたいな演出のために使われてる。言っちゃえば、前フリというか噛ませ犬くん。逆に言うと、それ以外に必要性を感じないキャラクター。

だから菊池冬馬頼みでストーリーを引っ張ってるので、全体的には蛇足感が強かったかな。もちろん女性読者は菊池冬馬でキュンキュンできると思うので、決してお金を払う価値が無いってことではありません。長身ベビーフェイスのイケメンが、純粋一途にグイグイ来られるのは反則でしょう(笑)


総合評価



作者・咲坂伊緒は画力があるので、馬渕洸のイケメンっぷりにきっと女性読者はキュンキュンと来るはず。時たま見せる弱さやゆるいノリもたまらないかも。吉岡双葉も良い感じにガサツな女の子なので、男性読者的にはその隙ありっぷりには好感が持てるかも。

ストーリーはもっとコンパクトにまとめられたはずですが、所詮は恋愛漫画なんて「ワンパターンの極み」といえるジャンル。500万部1000万部超えの少女マンガはありますが、『ちはやふる』など恋愛以外の要素があることが多い。でも『アオハライド』は純粋に恋愛だけで勝負してるわけですので、いかにすごいか。作者・咲坂伊緒の腕っ節に思わず濡れてしまう。

アオハライド13巻 村尾修子と小湊
(アオハライド 13巻)
ちなみに最終13巻はエピローグ的な感じ。村尾修子と小湊のクダリが描かれるなど、どちらかと言えばスピンオフ的な側面も強いか。12巻で吉岡双葉と馬渕洸はよりを戻して大団円を迎えるので、サブキャラに興味がない読者は別に読まなくても構わない内容かも。他には『ストロボ・エッジ』の特別編が掲載されてたりします。