『AKB49 恋愛禁止条例』全29巻のネタバレ感想をレビュー。作者は宮島礼吏(作画)、元麻布ファクトリー(原作者)。掲載誌は少年マガジン。出版社は講談社。ジャンルは少年コミックのアイドル漫画。最近講談社とAmazonが揉めているらしいですが、もちろんKindleでもダウンロード可能です。

あらすじは後述しますが、『AKB49 恋愛禁止条例』はその名の通り、アイドルグループの「AKB48」をモチーフにした漫画。最近完結+最終巻が発売されたらしいので、この『AKB49』が面白いかつまらないか考察してみたよ。結論から書いておくと「AKB49は面白いマンガに入る」と思います。


あらすじ物語 ストーリー内容

時代は20XX年。世界的に有名なロックバンド「ビートルズ」を超えた日本のアイドルグループがいた。それがAKB48(えーけーびーフォーティーエイト)。このAKB48のベストアルバムのセールスが全世界で2000万枚を超え、CDの総売上は11億枚でついにギネス記録を載る。

主人公は浦山実(うらやまみのる)。どこにでもいる男子高校生だったが、「夢なんか持つだけムダ」とどこか斜に構えていた。クラスメイトの男子たちがAKB48でキャッキャと騒いでいても、「こいつら全員ブスやんけ」と見下す始末。

AKB49 恋愛禁止条例25巻 あらすじ 吉永寛子
(AKB49 恋愛禁止条例 25巻)
しかし浦山実が大好きな女子が一人いた。それが同じクラスメイトの吉永寛子(よしながひろこ)。見た目が可愛らしいだけではなく、性格も優しかった。そしてパイオツもカイデーちゃん。

でも吉永寛子自身は素直に自分の感情が出せないことに悩んでいた。だからこそ元々は同じように引っ込み思案だったものの、今では素直に感情を出せるAKB48のリーダー・前田敦子に憧れていた。

そこで「自分の夢にくらいは素直でいたい」と決意。吉永寛子は勇気を出してAKB48のオーディションを受ける。この吉永寛子の思いを知った浦山実が「何とかして吉永をAKB48に入れてやりたい」と思い至る。

そして浦山実の取った行動が、何故か自分が女装をして同じAKB12期生のオーディションを受けるというもの。もともと女顔だったので見た目は女子そのもので問題ない。男の名前ではバレてしまうので「浦川みのり(うらかわみのり)」という偽名でオーディションを受ける。もちろんあくまで浦山実は影で吉永寛子を支えるつもりだった。

AKB49 恋愛禁止条例1巻 浦川みのり あらすじ1
(AKB49 恋愛禁止条例 1巻)
しかし浦山実もAKBオーディションで見事に合格してしまう。つまり浦山実は「AKB12期生・浦川みのり」として活動していくハメになる。大丈夫か!?

この「浦川みのり」のアイドルとしての素質を見抜いたのが、AKBの全てを操る影の支配者である統括プロデューサー・秋元康(通称秋豚センセー)。浦川みのりは吉永寛子を応援するために「ついで」にオーディションに参加したに過ぎない。明らかに動機が不純であり、アイドルとして活動していくヤル気があるのかも疑わしい…はずだった。

AKB49 恋愛禁止条例1巻 浦川みのり あらすじ2
(AKB49 恋愛禁止条例 1巻)
しかし浦川みのりはまさに「王道アイドル」としての資格を備えていた。画像は選抜メンバーだった前田敦子に対して「12期生がすぐに抜いてやる。マイク洗って待っとけよ」と宣戦布告している場面。

AKB49 恋愛禁止条例21巻 体育会系 浦川みのり 名言
(AKB49 恋愛禁止条例 21巻)
AKB48劇場支配人・戸賀崎智信は言った。「アイドルをやりたいという情熱に勝る才能はなし」。浦川みのりの「吉永寛子こそAKBのセンターにしたい」と思っての行動全てがアイドルとしての熱すぎる生き様や言動に繋がっていた。

この浦川みのりの背中を見ることで吉永寛子も勇気づけられ、いつしか浦川みのりがAKB12期生の中心的なメンバー(センター)に成長していく。当然AKB48メンバーに恋愛はご法度。それはAKBメンバー同士でも変わらない。

そして浦川みのりは「吉永寛子をAKB48のセンターにする」という【恋愛禁止条例】を自分自身に課す。浦川みのりという「AKB49人目のメンバー」が、果たしてAKB48に一体どんな革命をもたらすのか?いや日本の音楽シーンにどんな変革をもたらすのか?今まさに新生AKB48が動き出す!

『AKB49 恋愛禁止条例』はそういった内容のストーリーの漫画です。


リアルAKBメンバーのビフォーアフター

『AKB49 恋愛禁止条例』 はAKB48をモチーフにしてるので、やはりリアルメンバーも登場します。

AKB49 恋愛禁止条例3巻 渡辺麻友
(AKB49 恋愛禁止条例 3巻)
例えば、渡辺麻友(まゆゆ)だと二次元好きのゴリゴリのオタク風に仕上がってます。「やびゃあ」や「萌えぇ」といった発言を連発。当時のイメージ通りのキャラに仕上がってますが、今現在渡辺麻友本人が見たらきっと苦笑いでしょう。

AKB49 恋愛禁止条例14巻 松井玲奈
(AKB49 恋愛禁止条例 14巻)
SKE48だった松井玲奈は、ただのビッグフット。デケーよ。存在感のデカさをデフォルメさせてる演出なので、別に笑わせようという意図はありません。ちなみに『AKB49』21巻には大島優子は最終的にビル一棟よりもデカくなる。さすがにウソだろオイ!とツッコんだのは内緒(笑)

他にも主要メンバーだと篠田麻里子や柏木由紀、松井珠理奈、HKT48だと兒玉遥や森保まどかなどが登場します。宮脇咲良や最近卒業を発表した島崎遥香(ぱるる)などは出てない模様。もしかすると事務所によって方針が異なるのかも。

NMB48の山本彩は「男に生まれたかったアイドル」という扱いで笑いました。本人はそんな扱いで納得してるんでしょうか。渡辺美優紀は「媚薬の鱗粉を纏う蝶」という触れ込みなんですが、実際は中途半端なぶりっ子オンナでしかありませんでしたが。

無名メンバーだと大家志津香や仁藤ナントカも登場しますが、リアルでも同様マンガでも冴えません。他にも裏方スタッフもいかに頑張っているかなどにも焦点が当たってますが、基本的に正確性を求めてはいけません(笑)

…と少しフザケ混じりに紹介してみましたが、もちろんストーリーでも重要な役割を果たすメンバーも多い。高橋みなみや大島優子など、やはりリアルAKB48でも率先的に引っ張っていく主要メンバーが漫画内でも活躍します(ただし指原莉乃は除く)。

AKB49 恋愛禁止条例5巻 前田敦子 グラサン
(AKB49 恋愛禁止条例 5巻)
その中でも前田敦子は卒業するまで主人公・浦川みのりたちの前に立ちはだかります。まさに浦川みのりたちを翻弄しつつも、しっかり王道アイドルとしての道に導いていく先導者。浦川みのりや吉永寛子たちの目指すべき目標としての立ち位置で描かれてます。

ちなみにハリウッド女優ばりのグラサンっぷりをツッコんだら負けです。


部活スポーツ漫画のような熱い展開

だから『AKB49 恋愛禁止条例』では選抜メンバーと主人公たち研究生(12期生)の関係がさながら「部活の先輩と後輩」のような位置付けで描かれていて、それが部活スポーツマンガのような展開の熱さを生んでいる。

先輩たち(前田敦子など選抜メンバー)が分厚い壁として立ちはだかり、それを後輩たち(浦川みのりや吉永寛子たち)が乗り越えることで見せる成長性。この先輩の本気と後輩の本気がぶつかることで生まれる熱い何かに思わず読者は引き込まれる。

AKB49 恋愛禁止条例16巻 体育会系ノリ
(AKB49 恋愛禁止条例 16巻)
AKB48はシロート集団と揶揄されることがありますが、その「シロート感」こそがまさに部活的な熱さを体現してる。「プロっぽくない」とは言い換えると、「プロっぽくあろうとする姿勢」そのもの。浦川みのりの鬼気迫る表情がまさにそれを物語ってる。プロであろうとする情熱だけが滾(たぎ)っている。

AKB49 恋愛禁止条例21巻 体育会系 吉永寛子
(AKB49 恋愛禁止条例 21巻)
主人公・浦川みのりに触発されることで、吉永寛子もどんどんアイドルとして人間として成長していく。かつて自己主張が苦手だった少女は、先輩メンバーに対しても自分の意志をズバズバと主張できるまでに成長。

AKB49 恋愛禁止条例14巻 体育会系のノリ
(AKB49 恋愛禁止条例 14巻)
浦川みのりと吉永寛子同士でもバチバチがある。画像は総選挙で「本気で私を潰すつもりで!来年の総選挙でどっちが上に行けるか勝負だ!」と煽ってる場面。どこか仲間同士という内輪感があった二人ですが、やはりAKB48内同士でも全員がライバル。まさに健全に成長し合う姿は部活スポーツものの、それでありましょう。

AKB49 恋愛禁止条例10巻 クイズ 吉永寛子
(AKB49 恋愛禁止条例 10巻)
だから総選挙といった実際に起きうるイベントも上手く漫画の中で取り込めていて、例えば画像だとテレビのクイズ番組での一幕でも熱い展開が描かれます。

AKB49 恋愛禁止条例18巻 体育会系 浦川みのり
(AKB49 恋愛禁止条例 18巻)
金色亭八葉という桂不倫…もとい桂三枝をモチーフにしたかのような関西テレビ会の重鎮落語家に対して、どっちが視聴率を多く取れるか自分のアイドル人生を賭けて勝負に挑んでいる場面。自分の大事なものを投げ打ってでも戦う姿勢には、思わず男読者として胸が高鳴らずにはいられないじゃないですか!

AKB49 恋愛禁止条例11巻 コンサート上で繰り広げられるバチバチ感
(AKB49 恋愛禁止条例 11巻)
他にもコンサート上でも熱いバトルが繰り広げられる。「アイドル」がテーマなので全体的に地味かと思いきや、実はしっかり一つ一つには大きな山場があって展開は読ませられる。そこまで多くネタがあるとは思えないジャンルですが、それでも展開の広げ方は上手い。後述するダンス描写など本当に熱い。


キャラクターの表情が熱い展開に拍車をかける

AKB48という実在するアイドルを扱っているので、キャラクターたちは美少女ばかり。リアルのAKB48のルックスがどうなんだ!?というツッコミはこの際スルーしておきますが、作者の宮島礼吏はキャラクターの表情の上手さも卓抜。

AKB49 恋愛禁止条例23巻 有栖莉空
(AKB49 恋愛禁止条例 23巻)
画像は有栖莉空(アリス・リア)が泣いてる場面ですが、こういったキャラクターのグチャグチャに泣きじゃくる表情に思わずグッと胸が締め付けられる。どうしても目や鼻や口をグシャッと描くと不細工なりますが、下品な表情にはなってない絶妙なラインで描かれてる。作者・宮島礼吏の画力の高さが伺えます。

もちろん絵が上手いだけでは駄目。そこに至るキャラクターの心情もしっかり描かれてるからこそ読者の心は震える。ネタバレしておくと、アリスは先天性の難病だかで右耳が聞こえない。もう片方の聴力もあと3ヶ月程度しか持たない。そこで手術を受けるためにアメリカに向かおうとするものの、もうすぐ自分の生誕祭が開かれる予定だった。

それまでアリスは自分の気持ちを押し殺して我慢してた。敢えて自分が悪者になることで、AKB48と自分を遠ざけようとしていた。それでもAKB48として、アイドルとして活動したい気持ちが抑えられずに父親に対して自分の気持ちを吐露してる場面。

こういった彼女たちの素直なまでの心の叫びや心情の吐露は、もはや無様にすら写る。でもそういったガムシャラに頑張る姿勢を誰がバカにできるだろうかひたすらにひたむきに何かに対して真剣に突き進む人間を誰が笑えるだろうか。読者は共感しか覚えない。

浦川みのりは吉永寛子に恋愛感情を抱くが、表面上は同性同士。恋愛感情が根底にありつつも、そこで形成されるのは熱い友情。吉永寛子を強くするために、敢えて自分がライバルとして立ちはだかることもしばしば。まさにスポーツ漫画のそれである。

スポ根並みの熱苦しさが浦川みのりや吉永寛子が一人のアイドルとして成長させ、アイドルという華やかな舞台には本来ないはずの泥臭さが一人の人間として強くしていく。そのキャラクターたちの躍動感や生命力の強さが展開にも勢いを生んでいる。


登場人物たちの力強い名言に心が震える

『AKB49 恋愛禁止条例』 のキャラクターが放つセリフも力強い。ゴチャゴチャと考えないド直球さがまさにスポーツ漫画さながらに熱い。『AKB49』19巻の吉永寛子だと「ありがとうの使い回しはしたくないんだ」など、シンプルな物言いでズバッと心に突き刺さる。

AKB49 恋愛禁止条例11巻 名言 浦川みのり
(AKB49 恋愛禁止条例 11巻)
例えば浦川みのりが「ゲコク嬢」として「エンジェル」というアイドルグループと対決した時に出た名言が「アイドルがアイドルして何が悪い」。

エンジェルは40億円を投資された業界最大手のアイドル。ことごとくゲコク嬢を潰そうとする。その中でテレビ番組中に自分たちのコンサートに誘う。いわば挑発。でも浦川みのりは堂々と挑戦を受けたもんだから、エンジェルは「余裕ぶりやがって!ホントはビビってるくせに」とブチギレ。

ただアイドルはステージに立つのが仕事。それがたとえ自分たちのファンが一人もいなくても同じ。アイドルもステージに立てなければただの人。ステージに立てない苦しみ・悔しさを知っていたからこその名言。

だから浦川みのりの名言はどうしても多くなる。

AKB49 恋愛禁止条例12巻 体育会系 名言
(AKB49 恋愛禁止条例 12巻)
ここで終わってもいいって思える瞬間があるなんて、それだけで涙が出るほど嬉しいじゃないですか!」なんてまさに熱血スポーツ漫画でしか読まないような名言。

他にも『AKB49』2巻だと公演中に負傷した浦川みのりが、「一人でも待っている人がいるなら、その人のために死ぬ気で頑張る」と吉永寛子のためにファンのために無理して公演を続ける。その時に出た名言が「足は折れても心は折れてない」。

『AKB49』5巻だと研究生存続を懸けた公演では、何やかんやがあって浦川みのりは迷いを吹っ切って駆けつける。その時にお客に対して「サナギが蝶になる瞬間見たくないですか?」と自分自身を改めて鼓舞するためにも、ややもすると不遜にも見える発言ですが覚悟に満ちた名言。今後の展開にも思わずワクワクさせてくれます。

6巻だと父親に反対されてアイドルの夢を諦めようとする吉永寛子に対して「どんなムチャだって見ちゃいけない夢なんてないんだよ」と、こちらは浦山実の状態で説得する。吉永寛子は自分の意志をハッキリ示しにくい性格だったからこそ、これほどピンポイントに励ましてくれる名言もありません。

AKB49 恋愛禁止条例13巻 名言 吉永寛子
(AKB49 恋愛禁止条例 13巻)
他にも「女の子ならセンターの種を誰もが持ってる」も名言。吉永寛子がヒューチャーガールズというグループのセンターに選ばれる。その時に不安に思う吉永寛子を励ますにはどうしたらいいかを、浦川みのりが大島優子に訊いた時に返ってきたセリフ。

「女の子はわがまま。誰かに好かれたい。誰かの一番でいたい。そう思う気持ちがセンターの種。そしてその種がある日突然花開くんだ。センターに立つとアイドルは変わる。えも言われぬ充実感高揚感快感。その環状が一度花開いたら止められない。アイドルの体は本能でそれを求め続ける。彼女の中の種は今生まれて初めて光を浴びようとしている。日陰の時間が長かった人ほどその光は蠱惑的」。

確かに端的に「女の子」をあらわした表現かも知れない。ちょっとしたことで女の子は変われるってのは、まさにアイドルに抱く夢そのもの。「人間は変われる」というポジティブなメッセージが込められている名言ではないだろうか。


AKB選抜メンバーなどの名言も多い

AKBメンバーたちの名言ってのも多くて、要所要所で展開で重要な働きをすることも。

AKB49 恋愛禁止条例5巻 高橋みなみ 名言
(AKB49 恋愛禁止条例 5巻)
例えば高橋みなみの名言だと「私たちはバカみたいに信じるのが大の得意なのさ」。

前述の研究生存続を懸けた公演で浦川みのりを助けるために、高橋みなみや前田敦子たちが自らその公演に前座ガールズとして立つ。画像はこのことに感謝を述べた浦川みのりに対する、高橋みなみの発言。お互い信頼しているからこその言動。その気持ち良い上下関係も含めての名言。

その直後に「いつか同じステージに立てるように精一杯頑張ります」と感謝を述べる浦川みのりに対して、高橋みなみが天を指差しながら「夢が小さいよ」と微笑む場面も名言・名シーン。高橋みなみも自分自身の地位に満足してない感じが遠回しに伝わって、お互い相乗効果で頑張るんだというポジティブで体育会系な爽やかなノリが良い。

AKB49 恋愛禁止条例19巻 大島優子 名言
(AKB49 恋愛禁止条例 19巻)
大島優子の名言だと「私の恩返しはどこまで新世代の前に立ちはだかることだ」。

大島優子はAKB48と秋元康に大きな恩がある。高橋みなみは後輩に手取り足取り教えることで還元してるものの、不器用な大島優子はそれが無理。だからこそ総選挙で浦川みのりに自分を倒させることで、つまりは自分自身が犠牲になることでAKB48の劇的な世代交代を演出できる。字面以上に体育会系の熱さが含まれてる

AKB49 恋愛禁止条例3巻 柏木由紀 名言
(AKB49 恋愛禁止条例 3巻)
柏木由紀の名言だと「AKB48の握手会は握手をする会じゃない。握手から始まる交流の場。10秒の公演なんだよ」。もしAKB48ファンが聞いたらきっと嬉しい名言だと思います。他にも柏木由紀は名言を放ってるんですが、後で色々とツッコミを入れるのでここでは割愛します。

またAKB48メンバー以外でも、あらすじでも触れたように戸賀崎の名言も地味に多い。

特に秋元康に至っては要所要所で登場するので名言も多い。18巻だと「アイドルにとってそれはファイティングポーズ。笑顔という名の戦闘モード」がビビッと刺さりました。

散々嫌がらせをしてくる金色亭八葉と視聴率対決している時に、浦川みのりは笑顔でそれに立ち向かった。秋元康曰く、笑顔は時に雄弁。喜びを表す満面の笑顔、悲しみを誘う寂しげな笑顔、そして怒りの表情。

つまりはアイドルは戦う時にこそ笑顔で望む。それこそが真のアイドルのあるべき姿ということ。一見すると相反するモノ同志にしか思えませんが、見事に両立しているのが面白い。アイドル漫画でなかったら、こういった名言は出てこなかったでしょう。

展開の熱さを補完するかのようにタイミングよく熱い名言を差し挟むので、更に展開が面白くなる。『AKB49 恋愛禁止条例』はアイドル漫画の枠には収まりきらない、得体の知れないダイナミックさに溢れてる。


ダンス描写がダイナミックでキュート

そのダイナミックさが最大限表現されているのがダンス描写。アイドルと言えば、やはりコンサートや公演。現実のAKB48は今でも劇場で踊っているそうですが、ただ単に歌っているだけかと思いきや全然違う。この歌っている場面やダンス描写こそが迫力満載で、まさに躍動感に満ち溢れてる。

AKB49 恋愛禁止条例29巻 ダンス踊り描写
(AKB49 恋愛禁止条例 29巻)
この画像は端的に自分が伝えたい意図がすぐ分かるのではないだろうか。ステージの床に写る影や歓声、バックに輝くライトなど、本当に隅々まで過不足なく「躍動感」の要素が描写されています。

AKB49 恋愛禁止条例11巻 コンサートの一体感
(AKB49 恋愛禁止条例 11巻)
こちらの画像だと観客やファンも含めた「コンサート全体の一体感」や「盛り上がり感」が表現されている気がします。

AKB49 恋愛禁止条例16巻 ダンス歌描写
(AKB49 恋愛禁止条例 16巻)
このダンス描写や歌唱描写はダイナミックなだけではなく、しっかりキラキラ感も満載なので同時にキュートさも両立している。

アイドル側もファン側も見てて楽しい感じがしっかり伝わるから面白い。これぞコンサートの醍醐味。まさにステージという「キラキラした華やかさ」をマンガというモノクロ世界(紙の上の世界)で体現しているのがすごいの一言。カラーは一切付いてませんが、しっかりフルカラーに見える。

男読者は素直に躍動感に満ちたダイナミックさに「カッコイイ」と思えるし、女読者は素直にきらびやかさに満ちたキュートさに「カワイイ」と思える。性別問わずにトリコになってしまうはず。


最終回はやっぱりな結末

ここからは『AKB49 恋愛禁止条例』の最終回のネタバレ。この最終回の結末が知りたくない方はズバッと下へスクロールしてください。このクダリ以外で文字数が1万文字を既に超えてるのでサラッとネタバレします。

主人公・浦川みのりがついに卒業生誕祭を行う。しかしそこに一本の脅迫電話がかかってきた。「浦川みのりが男であることをバラされたくなかったら今すぐ卒業公演をやめろ」という内容。AKB48に迷惑をかけたくないと考えた浦川みのりは生誕祭をドタキャン。本人抜きで卒業公演が始まろうとしていた

しかし憤るのは事情を知らない他のAKB48メンバーたち。そこへ浦川みのりの妹が楽屋に入ってきて、「みなさんは知ってたんですか?お兄ちゃんのこと?」と涙ながらに語る。ついにAKB48や吉永寛子たちにも全てが明らかになった。

だからこそAKBメンバーは憤る。「男だからって何だよ!そんなもん卒業公演すっぽかしていい理由になんかなってねーぞ!4年間死ぬ気で頑張ってきたアイツなら捕まってでもステージに立ちたいと思うだろ!」。

しかし吉永寛子が背後で動いていた週刊誌の存在を語りだす。高橋みなみは「AKB48に迷惑をかけない」ための行動だと推察。AKBメンバーたちは「それじゃまるでAKBメンバーのすることじゃん」と更に涙。

浦川みのりを探すメンバーたちだったが、何の因果か吉永寛子が浦川みのりを発見。「AKB48メンバーはあなたをステージに立たせたくって今もこの雪の中で走り回ってる。立ちたくないの!?ステージっ!」と吉永寛子が一喝。それでも浦川みのりは「オレのせいでAKBが壊れちゃったらそれこそもうどうしたらいいのか」と涙。

そんな浦川みのりに対して、吉永寛子が「会いたかった」を目の前で踊り出す。「あなたのせいでAKBが壊れる?!誰の心配してるの!?あなたの嘘がバレたってAKBは大丈夫!何度でも立ち上がる!私だっているから!」と更に一喝。浦川みのりの心は激しく揺さぶられる。

AKB49 恋愛禁止条例29巻 最終回 浦川みのり
(AKB49 恋愛禁止条例 16巻)
そして浦川みのりが導き出した答えが「オレ…ステージに立ちたい!!」。待っててくれるファンがいるなら、信じてくれる仲間いるなら、その期待に答えるのがアイドル。改めて気付いた浦川みのりは、劇場に再び戻る。

そこにはアリスが卒業公演の場を繋いでくれていた。みんなが待っていた。ひとしきり踊り終わった後、浦川みのりはカツラを取って全てを話す。しかし、この映像を見たファンは誰一人として口外しなかった。

ファンもこれまで浦川みのりが本気でAKB48として活動してたのを知ってたからこそ、たとえ性別が男だったとしてもファンも「沈黙」を貫いた。そして浦川みのりは「伝説のアイドル」として語り継がれることとなる…みたいな感じで最後完結を迎えます。


最終話は100点満点の終わり方だったか?

ただ最終話に至るまでの展開は面白いものの、果たしてキレイな終わり方を迎えたかどうかはやや疑問が残ります。

何故なら男だと発覚した浦川みのり(浦山実)は当然AKB48を辞めるわけですが、最後浦山実がどうなったかというとコンビニ店員として働いている。あそこまで必死にアイドル活動を頑張ってて、身も心もAKB48に染まってったのに、最後の最後にコンビニ店員ではさすがにオチとしてはしょぼすぎる。

そのコンビニへ秋元康もやって来る。「AKBを頼みますよ」とボソッと語る浦山実に対して、「ウチのじゃがりこたちは皆優秀でね」とドヤ顔をかますんですが、お互い簡単にその程度に割り切れるものだったのかと言いたくなる。

せめて裏方のスタッフとして働いて浦山実は別の形でAKB48を支えるといったオチでは駄目だったのか。結局、浦山実にとって最後に残ったのは「浦川みのり」という記憶だけ?この結末では、あの日々は何だったのかと悪い意味で寂しさもこみ上げる。やはり難しい設定だったので完結まで完璧を求めるのは酷か。


リアルAKB48メンバーの不祥事は少し頭によぎる

だから『AKB49 恋愛禁止条例』は面白いマンガですが、どうしてもツッコミどころもあります。名言のクダリでも触れましたが、やはりAKB48には不祥事が付きまとう。ちなみに『AKB49』の内容とやや関係ない考察も続くので読み飛ばし可。

途中までは秋元才加のスキャンダルが敢えてネタにされてたりしましたが、さすがに峯岸みなみのツルッパゲ事件や柏木由紀あたりは手に負えません。指原莉乃はリアルでは不動の一位だったわけですが、『AKB49』内では指原莉乃は完全にスルーされてる始末。途中からは架空のスキャンダルが増えました。

先程は名言のクダリでは割愛しましたが、柏木由紀は8巻で「アイドルだって恋をする…お客さんに」や「お客さんにとってAKB48は標高34.5cmの恋人」という割りとカッコイイ名言を言ってる。でもお前が言うなと誰しもツッコんだことでしょう。お前は大人しく手越祐也のアレだけ握っとけ。

他にも板野友美が『AKB49』1巻で「合コンを連れてってあげるよ。バレなきゃ問題ない」と浦川みのりや吉永寛子たちを誘う。もちろん断るものの板野友美は「合格」とドヤ顔をぶちかます。この意味は板野友美は浦川たちをアイドルとしての資格があるか試しただけ。でも、お前だけは説得力が全然ねー!!(笑)

『AKB49』はリアルの出来事と連動させている以上、どうしても無視できない。むしろリアルの不祥事が「漫画の健全な世界観」をどんどん邪魔してくる始末。指原莉乃は「AKB48」というブランドを作り上げた功績者の一人ではあるものの、王道のアイドル像とは真反対の言動で「AKB48の世界観を現在進行形でぶち壊してる存在」でもある。そりゃあ完全空気化しても致し方ない。

『AKB49 恋愛禁止条例』を読むと、きっと作者たちもAKB48を好きであることがビンビンに伝わってくる。完全に商売と割り切っていたら、ここまで力強い作品にはなっていないでしょう。現実と漫画のギャップや乖離が目立ってきたからこそ、もしかするとモチベーションが下がって完結した可能性もありそう。

もちろん作者の展開力の高さから不意なAKB48の卒業などにもそつなく対応するなど、しっかり『AKB49 恋愛禁止条例』の健全な世界観は壊れていませんが、自分なら峯岸みなみがバリカンを持ち出した時点で匙(さじ)を投げてるでしょう(笑)


リアルのネタを扱うとマンガの寿命を縮める

更に突き詰めて考えると、やはり漫画の中でリアルに実在する人物やグループを扱うことは弊害も多い。

漫画の最大の良さは「作品や世界観の鮮度が落ちる速度が遅い」ことにある。リアルの時間軸と連動していないからこそ、10年20年と連載が続く漫画も多い。だから自分は「バズマン。」のようなブログを書いてたりするんですが、やはり実在する人間を扱えば漫画の寿命もそこに連動して短くなりやすい。『こち亀』を想像すると分かりやすいですが、2000年に流行ったネタを扱っても今読めばかなり古さだけが際立ちます。

まだAKB48は現役で活動してるアイドルだから良いですが、例えばこれが旦那が女子中学生を風俗で働かせていた自民党・今井絵理子がいたSPEEDがモチーフだったら?不祥事の先輩・モーニング娘だったら?更に極端な例を挙げるとピンクレディーだったら?

漫画内でも浦川みのりは「5年後のAKBファンが前田敦子って誰?と言うんです(要はそれぐらい自分たちが頑張る)」と宣戦布告してるんですが、そもそもこれは「前田敦子がトップアイドルとして有名という前提」でストーリーが描かれてる。だからこそ成立してる。でも現状の前田敦子を見たら本当に「え?誰それ?」状態ですから、こういった演出がずっと機能することは有り得ない。

いくら人気のアイドルグループだって、いずれはSMAPのように落ち目になる。男性アイドルはまだ加齢すれば渋さが醸し出されるパターンがありますが、女性アイドルはただただBBAになるだけ。活躍した時代がピチピチに若ければ若いほど、そのギャップ感は痛々しさが膨らんでくる。

何度も言いますが、『AKB49 恋愛禁止条例』の作品の完成度は高くて面白い。あくまで主人公(浦川みのりや吉永寛子など)は架空の登場人物でストーリーが進行するので、一つの作品として切り離して読むことは可能ですが、それでも前田敦子が40歳50歳になった時でも同じテンションで読めるのか

あと実在する人物を扱う以上、AKSなど権利関係も複雑になりがちでしょうから、今後において実写化やアニメ化される可能性が低いのも痛い。漫画作品の中には実写化やアニメ化から再び漫画の人気の火がつくパターンも多いですが、そういう可能性は低い。ましてや既に本人が現実にいるのに、他の役者が演じるのは興ざめそのものでしょう。

きっとAKB48人気に便乗した出オチ作品としか編集部も考えてなかったんだと思いますが、『AKB49 恋愛禁止条例』がここまで面白いマンガになるのであれば正直AKBに便乗する必要は全くなかったはず。今更言っても所詮結果論でしかありませんが残念です。


総合評価 評判 口コミ


『AKB49 恋愛禁止条例』全29巻が面白いか面白くないかでいうと、冒頭でも書いたように「面白い漫画」だと思います。もはや名作マンガに入ると言っても過言ではないか。

『AKB49』のジャンルは「アイドル漫画」。しかもAKB49という実在するアイドルをモチーフに作品が作られてる。ここだけ聞けば、誰が見ても「出オチのつまらない漫画」にしか思わないでしょう。でも実際には真逆で、かなり完成度が高い作品に仕上がってます。

浦川みのりや吉永寛子、有栖莉空といったキャラクターがとにかく熱い。アイドルとして活動する正々堂々たる姿勢には、素直に誰もが好感を持たざるを得ない。日の目を見れずにもがいてる人や、頑張っても評価されない人こそ勇気付けられるような内容。

また一直線なキャラクターの性格と同様に、変にストーリーもごちゃごちゃさせずにシンプルなので読みやすい。最終回こそやや微妙な感じもしますが、それでも終始展開が熱い。まさにスポ根マンガを読んでいるような痛快さが面白い

アイドルマンガが邪道?誰がそんなことを決めたッッ!?

『AKB49 恋愛禁止条例』にはむしろ王道要素しか詰まってない。「AKB48が嫌いだから読まない」としたら非常に人生を損してる。いやアイドルオタク以外の読者だからこそ、この『AKB49 恋愛禁止条例』を読みたい。割りとマンガに対する世界観が変わるかも。少年マガジンでは珍しく展開でも読ませてくれる面白い漫画でした。